26
「来たみたいだぜ、ホロ。さて、どうするかねぇ」
対魔組織ディヴィジョンズの襲撃に、ニッコロは動揺することなく、宙に浮かぶ白いキツネ――ホロに声をかけた。
ホロはニコニコと表情を緩ませると、彼に近づいて言う。
「とりあえず時間を稼がないとね〜。でも、ニッコロの部下たちじゃ
「だよな、
「期待してるよ〜。侵入してきたのは二人。君は女の子と戦いたくなさそうだから、そっちはボクが相手する」
「じゃあ、オレはお前の仲間だったガキのほうだな。でもいいのか?
「たしかにそうなんだけどね〜。なぁに~、また似たような子を見つけるさ」
ホロが微笑むと、ニッコロは持っていた酒瓶の中身を一気に飲み干した。
それから椅子から立ち上がり、口を拭ってテーブルに置いてあったナイフに手を伸ばす。
そのナイフは、ホロが彼のために用意した魔導具だ。
古い話だが、イタリアンマフィアであるカモッラの構成員――カモリスタにとってナイフの技量は男らしさを示すものである。
世界中のマフィアが銃を使い出した頃でも、好んで使用していたくらいナイフに愛着がある。
入会の儀式や昇格テストでもナイフを使っていたという記録が残っているくらいだ。
そんな伝統も現在は廃れているが、まだ若いギャングながらも、ニッコロ·ロッシにはかなりのこだわりがあるようだ。
「
「でも、気をつけてよ。そのナイフは
「おい、ホロ。オレを誰だと思ってんだよ? こっちはガキの頃から銃を持った大人相手にナイフ一本でやり合ってきたんだ。いくら
ニッコロはそう言いながらナイフに頬擦りすると、その刃を舌で舐め始めた。
まるで愛しい女性の体を愛撫するように、丁寧にじっくりと舌を這わせている。
その瞳はウットリしており、表情も恍惚になっていく。
そんなニッコロを見ていたホロが、彼に向かって言う。
「さっきも言ったけど、君は本当に
「んなことできんのかよ?」
「できるよ。ボクと契約すればいいんだ。まあ当然のことで、
「そいつもいいな、同じく人間を辞めるならよぉ。マテリアル·バーサーカーになるのはゴメンだが、悪魔にならなってもいいなぁ。それに悪魔がファミリーの守護神ってのもおもしれぇ。あれ? でも守護神だと神さまになっちまうか? ハハッ!」
ニッコロは軽口を叩いて笑い出すと、ホロの頭をポンッと叩いた。
そしてそのまま手を置いて、優しく撫で始める。
「ホロ、オレはお前にはマジで感謝してんだぜ」
「そうかい。そいつは嬉しいね~」
ホロがそう言うと、頭を触っていたニッコロの手に次第に力が入っていく。
まるで握りつぶすかのような力の込め方だ。
だが、ニッコロの顔には敵意などない。
先ほど口にしていたように、家族や友人に向ける笑みを浮かべている。
「ファミリーの誰もがオレを厄介者扱いしやがるが、こう見えてもオレは誰よりもファミリーのことを考えてんだぜ。それなのに誰も理解しやがらねぇんだ」
「そうだろうね〜。なんてったってリスクを承知で悪魔と手を組むくらいなんだから」
ホロは自分の頭にニッコロの指が食い込んでも、いつもと変わらない調子で返事をしていた。
ニッコロはそんな白いキツネのことを愛しそうにしている。
「お前は違うよなぁ。お前はオレの前から消えねぇよなぁ。オレたちの業界じゃ何よりも相手への敬意が大事なんだ。わかるだろ?」
「わかるよ~。だってニッコロみたいな人間じゃなきゃ、
「だよな、
ニッコロはそう言うと、ホロの頭にキスをした。
それから彼は掴んでいたホロの頭を離し、部屋を出て行く。
出て行った彼の後ろ姿を見ていた白いキツネは、大きくため息をついていた。
そして宙に浮いたまま、ニッコロの後を追いかける。
「ニッコロ·ロッシ……。ずっと友だちがいなかったんだろうね、君は……。でも、生きていれば良いことはある……。彼女がここにいれば、きっとそう言うはずさ」
ニッコロに向かって言っているのか。
ホロは独り言のようにそう呟くと、全身から魔力を放出させた。
白いキツネの魔力に反応し、建物内にいたマテリアル·バーサーカーたちが動き出す。
「侵入してきた
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