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――那覇市国際通り商店街まで移動した一心いっしんたちは、各自武器を持ち街の中を進んでいた。


いつも日中なら観光客で賑わっているが、今は自衛隊や米軍の避難勧告によってまるでゴーストタウンにでもなったかのような静けさだ。


過越の祭パスオーヴァーとイタリアンマフィア――カモッラがいると思われるところまで徒歩で近づき、奪われた魔導具を取り返す。


それが今回の作戦の目的だ。


一心たち対魔組織ディヴィジョンズらの姿は、防弾バイザーを装着した灰色の防弾ヘルメット、黒色のアサルトスーツ、下腹部を保護するプレートが装着された防弾ベストを着用し、そのベストの上からタクティカルベストを付けている。


日本の特殊急襲部隊 Special Assault Team――SATを思わせる格好だ。


ヘルメットをしているのは鬼頭おにがしら虎徹こてつしずか、ゆき四人で、一心ともみじは被っていない。


それは絶縁者アイソレーターには魔法による防御能力があり、魔力のこもっていない攻撃を障壁で弾くからだ。


絶縁者アイソレーターは、その身体に魔導具である水晶が埋め込まれている。


その水晶から魔力を得ることで、常人を遥かに超えた力――悪魔と同等の身体能力や魔法が使えるようになるのだ。


先ほど説明した光の障壁とは魔法の力の一つである。


これは絶縁者アイソレーターに備わっている自動防御のようなもので、魔力がない者や普通の武器では貫くことはできない。


かといって油断はできない。


今回の相手は悪魔である白いキツネ――ホロや、魔獣マテリアル·バーサーカーが相手だ。


以前は、特殊隊員相手に無双してみせた一心だったが、今回はそう簡単にはいかないだろう。


「よし。ではこれより建物内に侵入する。もみじと一心を先頭に、虎徹、静も続け、後方支援は俺とゆきでやる」


了解と全員が応えると、鬼頭は言葉を続けた。


すでに那覇駐屯地の第15旅団長である井川いがわ友一ゆういちの協力で一般市民は避難させてある。


さらには大型のマテリアル·バーサーカーが現れれば、ディヴィジョンズのアメリカ支部の現場指揮官――フランク·アーヴィング大佐が対魔戦用の装備で応戦してくれる。


後顧の憂いはない。


各自存分に暴れろと。


「ただ一人で突っ込むなよ。独断専行は命を落とす。必ずペアで行動しろ。特にもみじ」


鬼頭が付け足すように言った一言で、ディヴィジョンズのメンバーたちの表情が緩む。


おそらくは定番の台詞なのだろう。


これには一心も思わず笑ってしまっていた。


そんな空気の中で、もみじは苦笑いしながら答える。


「わかってますよ、鬼頭さん。今回の作戦は新米のフォローもありますからね」


「新米って俺のことか?」


「あんた以外に誰がいるんだよ。あたしから離れないようにね」


「その言葉、そのまま返すぜ。お前こそ勝手に突っ込むなよ」


ムッとした一心がもみじに返事をすると、建物内から発砲が始まった。


窓からチラリと見えた姿からして、カモッラの構成員たちだ。


彼らは全員マフィアらしい格好で、陽射しの強い沖縄の街に似つかわしくないスーツ姿だった。


しかも――。


「トミーガンかよ!? んな骨董品引っぱり出してきやがってッ!」


「スーツにトンプソン·サブマシンガンなんてずいぶんと気取った連中……。まるで『ゴットファザー』みたい」


カモッラたちの使用する武器を見抜いた虎徹と静が、鼻で笑うようにそう口にした。


トンプソン·サブマシンガンは、アメリカ合衆国で開発された短機関銃である。


トムソン銃、シカゴ·タイプライターといった通称を持つことで知られるが、主にトミーガンに統一して呼ばれていることが多い。


“サブマシンガン”という言葉を初めて用いた製品としても知られている。


トミーガンは、禁酒法時代のアメリカ合衆国内において警察とギャングの双方に用いられたことで有名になった。


1919年から累計170万挺以上が生産され、今日でも民生用モデルの製造が続けられている。


頑丈な構造を持ち、耐久性と信頼性に優れ、5kg近い重量のおかげでフルオート射撃を制御しやすい特性から、世界各国で広く用いられた。


そのせいか、古いマフィア、ギャング映画でよく登場する銃でもあり、虎徹と静の反応はそういう理由からだった。


現在は安価でもっと性能の良い短機関銃ならいくらでもある中で、わざわざトンプソン·サブマシンガンを使用しているのだ。


二人が思わず小馬鹿にしてもしょうがないだろう。


「くッ!? やはり気付いていたか!? 応戦しろ!」


鬼頭が指示を出すと、ディヴィジョンズのメンバーたちもサブマシンガンで撃ち返す。


激しい銃撃戦が始まり、建物の窓から弾丸が降り注ぐ中、絶縁者アイソレーターの二人が前に飛び出して行った。


一心ともみじだ。


「おい二人とも! さっき独断専行はするなと言ったばかりだろうが!」


「ペアでなら問題ないでしょう。先に侵入します。鬼頭さんたちは援護を」


もみじが返事をしながら建物内に突入。


光の障壁で弾丸を弾きながら一心と共に中へと入って行く。


打ち合わせでもしていたのだろうか。


一心ともみじの息はピッタリだった。


「あいつら……正反対かと思ったら意外と似た者同士か?」


「ぼやいてないで私たちも続くよ」


「いてッ!? わかってるよ! 鬼頭さん、オレたちもあいつらに続きます!」


その様子を見ていた虎徹がそう言うと、静が彼の尻を蹴り飛ばした。


そして、二人もまた一心ともみじの後を追っていった。

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