07
和やかな雰囲気でバーベキューを楽しみ、これでもかと肉を食らった
食べられるならなんでもいいと言っていたホロもピザは気に入ったようで、お腹いっぱいになった二人は椅子の背もたれにだらしなく寄りかかっていた。
「うぅ、もうさすがに食えない……」
「めずらしく気が合うね。ボクももう限界だぁ……」
苦しそうに呻いている一心とホロに、トゥルーが言う。
「えッ? これからデザートも出てくるんだよ」
トゥルーはあらかじめ食後のデザートを注文していたようで、この後にジェラートやティラミス、プロフィットロールなどの甘い物がテーブルに運ばれるようだ。
だが、一心とホロはもう食べられないと、トゥルーが全部食べていいと返事をした。
「えー、みんなで食べようと思ったのに。せっかくだから食べようよ。甘い物は別腹っていうでしょ」
「悪魔に別腹はないよぉ……」
「俺は人間だけど、ホロと同じだ。頼んでくれて悪いけど、もう無理……」
トゥルーは少し肩を落としたが、次の瞬間には、運ばれてきたデザートを見てその口角を上げている。
その細い体のどこに入るんだと、笑みを浮かべたまま三人分の甘い物を平らげていった。
「なあ、ホロ。トゥルーっていつもあんなに食うのか? 一緒にメシ食ったときはそんな食べてなかったはずだけど……」
「女の子ってのは不思議な生き物なんだよ。それは人間でも悪魔でも同じだね~」
グッタリとしながら答えた白いキツネの言葉に同意しながら、一心はトゥルーとホロに声をかけてトイレへと向かった。
カフェはお昼時というのもあって、テラス席も店内もかなり混雑している状況だった。
誰もが食事と会話を楽しみながら笑顔で、それを横目で見ながら歩いていた一心は、ここはまるで天国のようだと思っていた。
そうだ。
こうでなくてはならない。
年齢も性別も関係なく、皆が笑顔でいれるのが良いことなのだ。
トゥルーたち
「そうなったらいい……。きっと楽しいよなぁ……」
一心はそう独り言を呟きながら、世界はこうあるべきだと、トゥルーのおかげで得た自由に感謝し、他の客たちの楽しそうな様子に嬉しさを感じていた。
笑みを浮かべながらトイレをすまし、一心が外のテラス席に戻ろうとすると、店内で一際大きな声で話している男女グループが目に入る。
見た目からして社会人の集まりだろうか。
十人はいるかという大人数で、何かの映画の話でもしていそうだった。
「うるさいなぁ。他にもお客さんがいんだぞ……」
大声で話している社会人グループに、一心は苛立ちながらもその場から去ろうとした。
だが次の瞬間に、彼の苛立ちは爆発することになる。
「今どきDVDなんか借りてるのか? どんだけケチなんだよ。いいかげんサブスクくらい入ればいいだろ」
「ハハハ……」
男女の一人――グループ内で一番若作りをしている男が、一番気の弱そうな男に何か言っていた。
助言のつもりなのだろうが、気の弱そうな男は怒るでも嫌そうにするでもなく、ただ乾いた笑みを浮かべている。
若作りをしている男には、そんな彼の態度が目に入っていないようで、さらに強い言葉を続ける。
「相変わらずお前は金の使い方がわかってないよな。なんでもそうだけど、もっと効率よくできるってのに金をケチって時間を無駄遣いしてさ。時間は金よりも大事なんだぞ」
ビジネス書や今なら動画サイトで自己啓発系チャンネルなどで出てきそうな言葉を使い、若作りの男が気の弱そうな男を追い詰めていた。
友人同士の何気ない軽口。
そこに悪意などない。
口にした者も相手を馬鹿にするつもりで言ったわけではない。
人が集まって会話すれば必ずといっていいほど出る――よくあるマウンティングだ。
だが一心は、一方的に正しさを突きつけた男に怒りを感じた。
その言葉は間違ってはないのだろう。
正論なのだろう。
しかし相手の立場や状況を考えずに、自分は教えてやっているなどといった上から目線の態度や言い方が、一心の怒りに火を付けた。
「おいお前……。 なんでそんなに偉そうなんだよッ!」
若作りしている男に向かって声を張り上げた。
椅子に座っている男の胸倉を掴んで、無理矢理立たせようとする。
社会人のグループの誰もが突然喰って掛かってきた少年に戸惑い、声すら発せずにいた。
「な、なんだお前は!? いきなりッ!?」
場が凍り付き、先ほどまで笑顔だった他の客たちからも注目を集めた一心だったが、彼はそんなことなど気にせずに若作りしている男に声を荒げ続ける。
「うるせぇよおっさんッ! いいから俺の質問に答えろ! なんでそんなに偉そうなんだって訊いてんだ!?」
お前が上から目線で声をかけた男は友人じゃないのか?
身内じゃないのか?
こんなところで一緒にメシを食っているんだから仲が良いのだろう?
なのにどうしてそんな言い方をするんだと、一心は今にも噛みつかんばかりに自分の顔を突きつけた。
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