❤母の気遣い
「は~い」
ドアを開ければ運送業者の隣に私の母が立っています。
「こんにちは」
「こんにちは…って、どうしたの?」
「ご挨拶ねぇ。まあいいわ、先に荷物を運び出さなきゃダメでしょ」
軽くないはずの荷物を業者さんが二人がかりで運んでいきました。
「それで、何でまたここに」
電車で二時間はかかる距離に住んでいる母がここに来ることはほぼありません。
あのアンドロイドは母が手配したので、恐らくその関連で来たことは間違いないでしょう。
「どうだったの」
「それって、彼女のこと」
「それ以外にあるの」
彼女のことを正直に答えれば私達の性活が知られてしまいます。そんなことも割とオープンに話せる間柄ですけど、今回のことはさすがに恥ずかしいです。
「
母がソファに座り、問わず語りを始めました。
それにしても今日の母は色っぽいです。メイクで盛っている部分もあるとはいえ、肌つやが良く、張りもあります。今までネイルなんてしたことがなかったはずなのに、綺麗な朱で彩られています。アップにした髪から覗くうなじは大きめに開いた襟元から続くラインは私が見ても艶めかしい。
三ヶ月ぶりくらいに会うのですが、まさに“変身”しています。
「ふふ、その様子だと彼女の成果は絶大ってコトね」
夫と並んで座るといつの間にか手を繋いでいました。そういう姿を母に見せたことはありませんでした。
「私とお父さんはね──」
語られたのは両親の性生活の赤裸々な姿でした。
お互い五十代になって、これからのことを考えた時に、ここ十年近く完全なレスでいたこと。このまま枯れるのは嫌だったこと。その為にアンドロイドをレンタルしたこと。そして今はとても充実していること。
「うふ、ここのところ週二回はしてるのよ。もう妊娠の心配はないからもちろん生で中に出して貰うの。遠慮が無くなると新しい世界が見えてくるものよ」
何でも最近は自分が上になるのが楽しいとか。
「お父さんを椅子にして押さえ込むのが楽しいの。昔ながらの価値観が残る時代に育ったから、そんなこと考えたこともなかったのにね。自分でも意外なことを見つけた気分よ」
両親の夫婦性活をここまで聞いたのはもちろん初めてです。そもそも母がそんなことを語る人だとは思ったことすらありません。
「未来彦さん、この子からあなた方がレスに悩んでいると聞いて、差し出がましいとは思ったけどアンドロイドを送ったの。改めて余計なことをしたとお詫びするわ。でも、無駄じゃなかったみたいだから許して頂戴ね」
「いえ、無駄どころか、その……欲しかった子供もできそうですし、感謝しかありません」
顔を真っ赤にしながら頭を下げる姿を見て、手を握る力を強めました。私の方を振り向いた夫の唇に私のそれを軽く合わせます。
「お前、何を」
「お母さん、無駄どころか新しく知ることばかりでとても満足しているわ。そのうちに孫の顔を見せられるはずよ。ウフフ」
「そう、なら安心ね。未来彦さん、この子をこれからもどうかよろしくね」
「もちろんです。私の大事な妻ですから」
「ですよね。私の大好きな旦那様」
母が帰った後、二人でそれはそれは長いこと愛し合いました。
アンドロイドがいなくても深い歓びは変わらず、永遠のごとく繋がり続け、彼の愛情を体いっぱいに注ぎ入れてもらったのです。
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