♠同じ素材、違いは味付け

 仕事から帰ったらアンドロイドが待っていた。妻がいないところで大事な話があるという。

 リビングを離れ、寝室で彼女と対峙する。ここ暫くのことで発情体質になっているらしく、彼女の豊満な胸に目が行ってしまう。


「旦那様もオスとして進化してきていますね」


 褒められているのか揶揄されているのか、どちらの反応をすべきか迷ってしまう。


「奥様が変わられたのはおわかりになりますか」


 もちろんだ。彼女があれ程積極的で、しかも今まで頑として拒んでいたバックまで求められるなんて考えたこともなかった。ここは大きく頷くところだ。


「奥様は自らレスを解消しようとして、動かれたのです」


 それはそうだろう。問題はそこではなく、なぜ変わったかという動機の部分なのだが。


「自分の欲望に忠実に、恥じらいや躊躇いを隠さず解放することで奥様は変われたのです」

「それは、今まで彼女は何かを我慢していたと言うことなのか」

「そのとおりです。ふしだらで乱れた姿を見せたくないとか、淫乱と思われたくないとか、自らの欲望に蓋をして旦那様に従っていたのです」

「そうして欲しいと言った覚えはないけど」


 俺は行為の最中に時折、気持ちが良いかどうか確認することがあった。愚の骨頂だと言われそうだが、彼女しか女性経験がないから本当にどう感じているかなんてわからない。息遣いや濡れ具合で分かれよと言われてもアダルトビデオが基準だと本当のところはわからない。

 だから彼女が嫌がることはしなかったし、気持ちいいと言われればそれを愚直にトレースしてきた。


「奥様の嫌がることをしないというのは正しいことです。しかし、ほんの少しだけ新しいことにチャレンジしてみるのは悪いことではありません。一気に何もかも変えるのではなく、徐々にです。それができなかったからこそ私が必要になったのです」

「つまりマンネリだったと」

「どんなに美味しい材料で作った料理も毎日同じ味付けで食べていれば飽きます。素材の活かし方は一通りではないのです」


 それは俺も薄々思っていたことだ……


「それと大事なことが一つ」

「と言うと」

「わたくしがこちらにいられる時間も残り僅かです」


 言われてみればそうだ。彼女がいるのが当たり前のように感じていたけど、レンタル期間はもうすぐ終わりだ。


「旦那様にメンタルの話をしてよろしいですか。恐らくは多少気が付いているとは思いますが」


 正直、何かピンとくるものがないんだけど。


「旦那様は奥様の求めに応じてやり方を変え始めています。それでも昔ながらの価値観に縛られています」

「と言うと」

「ご自身が奥様をリードしなくてはいけないという思いが強すぎることです」


 セックスってそういうものだろう。俺の考えが間違っていたのか。


「奥様に身を委ねることがあっても何等不自然なことではありません。奥様がやりたいことを受け入れるのも必要なことです。それこそが一方通行ではないコミュニケーションです」


 それは言われるとおりだ。だが、どうすればいい。


「今日は私がそれを実践します。よろしいですね」


 アンドロイドにしては若干圧がある言い方をされたが頷くところもある。

 それと、どんなことをされるのか興味もある。何せセクソロイド相手に性的なことは殆どしていないのだから。


「わかった。宜しくお願いするよ」

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