❤本能を解放しないのは勿体ない
私は生理が長いのです。酷い時は十日近くダラダラと続く時があります。しかも量がとても多いので高校の体育など見学だらけなほど。
夫と知り合い、体を重ね始めてからもその時になると憂鬱でした。
抱かれない寂しさと、身体のだるさが重なり、とても辛い日々を過ごしていたのです。
「でき、な、いわよ」
少し前まではそんな感情も消えかけていたのに……もうレスではなくなったはずから、終わればいつでもできるはずなのに、この一言を言うのが辛かったのです。我慢したくない。
生理なんて鬱陶しいな位の感情だけでした。でも今回は寂しいという気持ちの方が遙かに勝っています。これも“快感開発”の影響でしょうか。
抱かれたい……
彼の手が私に絡まってきました。所謂恋人繋ぎです。
手を繋ぐくらいで身体全体が熱くなるなんて、付き合い始めの高校生みたいですけど、実際にそうなっていますし、それを止められない自分がいます。
アンドロイドの指導を受けた私はそんな簡単に心身とも変わったのでしょううか。
二十七歳の自分が十年も若返ったような変な感覚に陥っています。
必死に自己分析でもして冷静を保っていないと私から彼を襲ってしまいそうです。
経血で汚すとどうなるかは経験済みなので、それだけは避けるためにひたすら我慢しなければなりません。とは言え、カラダは正直です。
普段なら一晩は安心できる大容量ナプキンの二枚重ねがあっという間にいっぱいになっている感覚があります。マズイ……このシーツはまだ買ってから時間が経っていません。
大急ぎでトイレに入るとそれはそれは凄い状態です。あと数分遅ければパジャマとシーツは血塗られて、酸っぱい臭いがしていたことでしょう。
手許にある夜用のナプキンはこれが最後なので、これ以上濡れてしまうわけにはいきません。名残惜しいですが、今日はここまでと我慢です。個室の中でしばし体を落ち着かせます。
が、夫の方が先に寝てしまいました。そう言えば事後はだいたい彼が先に寝入っていたのでそんなものかと思います。あれからも手は握られていますが、もう力は入っていません。
安心したのと名残惜しいのと更には薄明かりで微かに見える彼の寝顔が愛おしいという複雑な感情を持て余して、暫く寝ることができませんでした。
朝になると彼が握る手に力を入れたことを感じて意識が戻りました。
瞬間、昨日のことが甦ります。また洪水状態になるのかと思いましたらそこで手を離されました。続けて欲しいのはもちろんですけど、朝からまたトイレに駆け込むのは凄く恥ずかしい。致し方ないですが我慢です。
こんなことで今日一日無事に過ごせるのかとても不安でしたけど、夫の「可愛い」の声でそれも忘れ、目を開けてしまいました。
こういう不意打ちはずるいし、私のダメージも半端じゃありません。だから…
首に腕を絡ませ、私の唇と彼のそれを強引に合わせます。不意打ちは夫の特権ではないのです。
ふふ、いつもより熱いじゃないですか。
こちらが攻める立場となれば、こういう時でも昨日ほど漏れる心配はしなくても大丈夫そうです。そんな風に冷静な自分に驚きます。
だって私はいつも“マグロ”のようにされるままだったのですから。
夫がいつもよりも早く家を出て行きました。このままここにいるとヤってしまいそうだからどこかでカラダを静めたいそうです。
メイクをしていたらアンドロイドが来ました。
「奥様、完璧です。あとは旦那様が変わられれば『快感学習モード』の目的達成です」
言われていることがわからない私に彼女は続けます。
「奥様はご自分の気持ちを解放できるようになりました。今までは“恥ずかしい”とか“はしたない”という気持ちが性的な行動を押さえ込んでいたのです」
確かにそうです。異論は全くありません。
「ですが、先程のキスは明らかに奥様が自ら行動する気持ちを持っていました。それと、昨晩ですが挿入がなくても充分な快感は得られていたようですから、性感帯も順調に開発されているようです。心とカラダの両面で間違いなく進化しています。それこそが私が望む姿です」
「ありがとう。言われるとおりね。私も自分がこういう人間だと思わなかったもの」
私はセックスに関して自分から求めたことは一度もありませんし、キスもハグも私からしたことは数えるほど、それも付き合い始めのころのことです。アンドロイドが言うように私の心には性的なストッパーが確かにありました。
「夫婦ですから、セックスに恥じらいや躊躇いを持ってはいけないと思います。ただの生殖だけではなく快楽があってこその行為です」
「その通りだと思うわ」
「快楽を求めることは人の本能です。そこに忠実であることが生き物としてのあるべき姿です。旦那様に対して自らを全て曝け出すことは悪いことではありません。夫婦だけの時は本能を解放できる少ない時間なのですからそれをしないことはとても勿体ないことです」
勿体ない、か。初めて彼と交わってから七年以上になります。その間結構そんな時間あったのですね。
「奥様はまだお若いです。まだまだ新しい快感を楽しめますよ」
アンドロイドが抜群の笑みで私を送り出してくれました。
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