♠してはいけない日

「良くなっていますよ」


 もはやレスとは言えない状態にまで俺達の夫婦生活は活発になっていた。

 梨奈のレンタル期間が残り半分まで来たところで、連日俺達夫婦は交わっている。


 気をつけたのは梨奈の気持ちを素直に聞くことだ。

 技術的なアドバイスは最初に受けているから、それに従ってマンネリにならない工夫をしている。だが、その次がわからない。

 アンドロイドが言ったメンタルとは何だろうか、妻の乱れる姿を見るたびにそればかりが頭に残る。



「なっちゃった」


 妻が“女性の日”になったという。

 盛んに交わっていた頃、その期間は風呂でしていたこともあったっけ。殺人事件が起きたような浴室を証拠隠滅とばかりに綺麗にしたのも今は懐かしい。

 その頃みたいにしたいかと言えばその気は起きない。お互い仕事で忙しい身としては風呂掃除に何十分も掛けてはいられないから、数日は我慢が必要だ。


 そして、そういう我慢ができるのがオトナだ。


 と思っていたのは夕方までで、家へ帰ると猛烈にやりたくなった。できないとわかっているからこそ欲望が湧いてくるのは子供と一緒で、下半身がムズムスしているのが自分でもわかる。


「あの~」

「うん」


 ベッドの中で気まずい雰囲気がしている。

 触れてはいけないとわかっていても、俺の手が勝手に彼女の手にかかってしまう。


「できないわよ」

「わかってる。でも、昨日までとあまりに違うから」

「私もそうよ。私だって我慢してるんだから」


 そのとおりで、それ以上は何も言えない。彼女の我慢は性欲の処理だけではなく、昨日までとは違う体調とも戦っているのだ。

 それでも手だけは繋いでくれた。俺が時々軽く握ると握り返してくる。

 それだけでも気持ちが通っている気がして嬉しくなる。こんな風に感じたのは何年ぶりだろうか。


「へへ、何だか学生の頃に戻ったみたいだ」

「うん…」


 彼女の手から僅かな震えが伝わってくる。


「それ以上しないで、私が我慢できなくなるから。夜用のナプキンから漏れちゃったら困るから」


 手を絡めるだけで濡れてくるなんて、そこまで敏感だっただろうか。それこそが性感帯の開発と言うことになるのだろうか。


「わかったから」


 手を離し、彼女の方を向くと暗がりの中、顔はよく見えなくても視線はハッキリ感じる。


「ふふ、初めて恋をした女の子みたいね。恥ずかしいわ」

「昔、そういうことがあったのかい」

「小学生の頃ね。初めて“女の子の日”を経験した頃よ。あの頃も好きだった男の子の顔を思い浮かべるとこんな風に……遠い昔の黒歴史ね」

「そうなんだ。俺じゃないのが残念だ」

「ふふ、今の方がずっと大変な状態だけどね……ごめん、ちょっと替えてくる」


 彼女がトイレに入った後、がもの凄く熱を持っているのがわかった。

 これもある種の開発なのだろうか。


 そんなことを考えていたら、急に眠くなった。

 妙な緊張感から解放されたからか、もう一度彼女と手を繋いだらあっという間に眠りに落ちた。

 朝になってもその手が離れることはなかった。まだ意識の無い彼女の手を軽く握ってみたら、僅かに呼吸が乱れた。

 それ以上してはマズイと思い、彼女が目覚めるまで顔を眺めていた。

 

「可愛い」


 思わず声を出したら、ううんという軽い唸り声と共に大きな瞳が俺を見つめた。

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