♠変わりゆくスコア

「これが今日の旦那様のスコアです」


 示されたのは六十五点。学生ならギリギリの合格点だが、もちろん満足できる点数ではない。

 これをあと二十日のうちに九十点超えにするのが目標だという。

 でも、さっき彼女は本当の歓びに満ちあふれていたみたいだけど、それじゃダメなのか。


「奥様は変わりました。いえ、進化している途中と言った方が良いでしょうか」


 確かにそうだ。ここ一年の交わりは俺が一方的にシたくなった時に俺のペースでしていた。彼女からは殆ど性欲が感じられなかった気がする。

 そして、先程の姿は昔の彼女よりも深い快感に浸っていたように見えた。

 進化している、か…


「どうすれば良いのかを今は申し上げません。あと一週間でその答えを見つけて下さい」

「なぜ答えを教えてくれないんだ」

「最初に私と二人でビデオを見ていた時の様子で、奥様はきっかけがあれば大きく変われると感じました。ですから私がアドバイスしました」

「うん」

「旦那様はそれを自分で見つけないと納得しないタイプの方です。違いますか」


 AV鑑賞は好みのセックスの仕方を探るだけじゃなかったってことか。

 性格の分析までできているとは。


「まあ、そうだけど」

「そのために暫くはこのスコアは付けさせていただきます。旦那様なら全て解決できるはずです」


 そう言われても。


「一つだけ教えて欲しい。それはテクニックの話か、それともメンタルの話か」

「どちらもです。ただ、テクニック的には私がお示ししたローテーションに沿って行えば充分解決できます。ですので、しいて言えばメンタルです」


 間違いなく梨奈を愛しているし、独り善がりにならないように気を遣ってベッドにいるつもりなんだがなあ。



 シャワーを浴びた梨奈がやってきた。

 身体の火照りが収まらないのか普段よりも随分赤みがかかっている。ドライヤーで完全に乾かし切れていない髪からシャンプーの香りがする。

 いつも嗅いでいるものなのに、今日はとても色っぽく感じる。シャンプーにフェロモンが混ざっているのだろうか。

 これで興奮しないと言う選択肢はない…事後の部屋では男女の匂いで俺がむせ返る程だ。


「ふふ、今日はありがとう。沢山貰っちゃった」


 感謝されるほど良かったのだろうか。改めてそう言われると気恥ずかしい。


「ううん、こちらこそ。またしようね」

「約束よ」



 部屋の照明を落として横になったら彼女の寝息が聞こえてきた。

 小さな声でおやすみと言い、額に唇を当てた。


「メンタルか…愛情だけでは足りないか」


 先程、本気で感じていた彼女の顔を思い出しながら意識が遠のいていった。

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