♠甦るあの頃

 帰宅後にシャワーを浴びたらベッドに直行なんていつ以来だろう。

 そもそも裸エプロンで迎えられるなんて想像していなかった。


 彼女がこれ程性行為に積極的だったなんて…アンドロイドが来てから変化が激しい。

 一番変わったのは言葉だ。今までは俺がほぼ動くだけ。ボディタッチに始まり全てが終わるまで常に俺がリードしてきた。梨奈から出るのは溜息と喘ぎ声だけで、何かをして欲しいとかそこをもっと刺激して欲しいとか要望を出すことは一度もなかったように思う。


 それが今日はどうだ。

 身体の動きだけではなく、きちんと言葉で求めてくる。

 荒い息遣いでそう言われるとこちらも応えなくてはいけないと思い、何時になく興奮してしまい普段は絶対にしない体位(アンドロイドが見せたAVで学んだ)まで試したみた。


 学生時代に初めてした頃にはあれこれ変わったことも試したが、彼女から後ろからはちょっとだとか立ってするのは疲れるなどと言われ、結局ある一つのパターンしかしなくなっていった。

 それが求めていることだと思い、自分でも楽だったので、いつも決まりのことだけ。言わば食堂で一種類の定食しか食べないようなものになっていた。

 トンカツだけではなく焼き魚も生姜焼きもあるのに、そこそこ美味しくてお腹がいっぱいになればいつもの奴でいいというのは如何にも人生を楽しんでいない。



「そ、そ、そこを……も、もう少し……あ、ああん…」


 口で、指で、掌で、もっと言えば全身で彼女を乱れさせたい。アンドロイドに教えられているとは言え、久しく感じてなかった感情が湧いてくる。レスになる前のあの頃が甦ってくる。

 同棲を始めた頃まではこんな思いをしてたっけ。


「もっと強く、もっ……あっ、あ…」


 最初の愛撫からのパターンを変えて、梨奈自身ががあまり好きではないという体位を試したら、昨日と違い、いつもよりも深くイっているように見える。これ、アンドロイドが言うところの“快感向上”で良いのだろうか。


「い、一緒に……ハ、ハァ」


 その言葉と同時にカラダが小刻みに震えた。息が大きく乱れ、明らかに今までとは違う反応を見せた。言葉どおりに一緒に終われば良かったのかも知れないが、スケベ心が顔を出し、その姿をもう一度見たくて耐えた。本当にギリギリで元の状態を保ったのだ。


「綺麗だったよ。もう一度その姿を見せてよ」


 梨奈の呼吸が戻ってはいないが、いつもしている姿勢に戻し、軽く自身を動かしたらあっという間に時間が逆戻りして、またカラダが揺れた。


「こ、壊れ……ああ…もう」


 今度は同時に終えた。

 彼女は俺に“だいしゅきほーるど”をしたまま、脱力しながら、俺に唇を合わせている。

 酷く弱い力だが、その唇から出る熱量は今までに感じたことがないほど熱い。長い時間それを楽しんでからカラダを離した。



 梨奈が俺を見る眼が潤んでいる。

 昔もそんな眼をしていたことを思いだした。確か初めて梨奈がイった時にそんな様子だったはずだ。


「良かった。本当に良かった」


 涙声でそう言いながらシャワーを浴びに部屋を出て行った。

 シーツはバケツで水をぶちまけたくらい濡れている。

 さっきの『良かった』の意味を考えながらそれを剥がしていたらアンドロイドから声を掛けられた。

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