❤私の情けないスコア

 夫と二日続けてカラダを合わせたのは何年ぶりでしょうか。

 同棲を始めた頃を思い出し、かなり興奮してしまったことは絶対に知られたくないです。


 翌日、目覚めたらアンドロイドから呼ばれました。

 夫はまだ寝ているのに…と思いながらリビングのソファに座ると渡されたのは一枚のレポート。見たら青くなりました。

 私の行為に対するスコアは一日目も二日目も十五点でした。


 は、何それ。落第点どころか論外の点数じゃないですか。

 朝からこんな物を見せられてはこれから一日のことをやる気も起きません。がっかりしながらレポートを読むとあっという間に目が覚めてきました。


 私のしていることはまさに“マグロ”そのものだそうで、自分からはほぼ努力をしていないと。今は私がリードする必要はないけど、自発的な行動をしないと互いが楽しめないからこれではダメだと書かれています。

 AV鑑賞の分析から彼がして欲しいことや私がすべきことが詳細に記されており、行為中にどんなに自分が興奮しても最後にイってしまうまでは自分も夫に対して努力をしないとダメだと、そういうことをすれば夫が喜び、それを感じられる貴女の歓びも倍増するはずだと。


 記憶を辿れば反論の余地なぞどこにもなく、確かにいつも私はマグロ同然、夫にされるがままになっていました。自ら手も足も動かさず、自分が上になっている時もただ座るだけ。言葉を出すこともしませんし、終わった後もそそくさと自分のカラダを洗ったら着替えてしまうので余韻も何もありません。

 これ程何もしない自分勝手はないということらしいです。アンドロイド曰く、「夫婦生活は共同作業のはずです」、「言葉を発し、身体を動かさなければ思いは伝わりません」と。


 私だって性欲はありますし、行為が始まればそれを楽しんでいたつもりなのですが、自らの行動としては全く評価されないのですね。



 で、残った十五点はとりあえず夫を拒む様な仕草をしていないこと、それだけだそうです。情けない。

 これから十日間でそれを改善するようにと、事細かに私がすべきことが書いてあります。


 正直、とても恥ずかしいことまでするように指示されています。ここまでしないとダメなのかと彼女に問えば「レスのままで良ければしなくても良い」と。

 そうでないとこれからの十日間が最後の交わりになるかも知れないと。


 もちろん私はそれは避けたいです。

 心だけでなくカラダでも愛し合いたいし、子供も欲しいのです。



 夫が起きてきました。トイレを済ませたら彼女が彼と話があると言って寝室に連れて行きました。きっと私と同じようにレポートを渡して話をするのでしょう。



「梨奈、その…」

「あなた、昨日はありがとう。久しぶりに二日続けて貰って…とても嬉しいわ」

「え、いや…ははは」


 こんな台詞を言ったことは付き合い始めて一度もありませんでした。

 とにかく言葉を発すること。したいこと、してもらいたいこと、気持ちが良ければ感謝を、足りないと思ったところは自分が思うところを、今までは夫婦は以心伝心だと思っていましたが、その結果がレスであったのは紛れもない事実です。


 夫婦であっても時には遠慮が必要なことは言うまでもないでしょうが、基本的には言葉で気持ちを伝えないといけないと先程アンドロイドに言われています。

 こんな簡単なことでも第三者に指摘されないとわからないとは我ながら情けないです。

 だから今は素直な気持ちを伝えたのです。


「今日もよろしくお願いしますね」

「う、うん…こちらこそ」


 真っ赤な顔をして目を合わせずに頷きます。


「眼を見て。私も本気だからあなたも、ね」

「も、もちろん…アンドロイドに何て言われたんだ」


 彼女からの指摘点や会話の中身を今は誰にも伝えてはいけないと言われています。

 パートナーが自発的に相手の行動の変化気付くこと、それが大事なのだそうです。

 相手に関心を持ち、相手のことを思いやりながら自らのためにも行動する。これができれば家庭生活は昼も夜も円満だと。


「彼女のレンタル期間が終わるまではナイショ」

「わかったよ」

「うふふ、夜が楽しみになってきたわ」

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