❤初めての感覚

 先日、私の母に夫婦生活もマンネリ気味だと軽い調子で話してしまいました。

 夫である未来彦みきひこさんを愛する気持ちは以前から変わりません。カラダの関係以外は今でも二人で買い物やドライブに出かけたりと昔のままです。


 なぜカラダを合わせなくなったのか。正直自分でも良くわかりません。

 一つだけ言えるのは長年をしていますと、ある種のパターンが読み取れるようになり、次はここに手が来るとかこの姿勢から抜かずにカラダを起こすのだとか、大体予想どおりの動きをするようになります。

 もちろんその度に私もしっかり感じますが、新鮮味がないというか、快感慣れしたというか、最初の頃と比べるとあれ程の感動は起こりません。


 夫と一緒にアダルトビデオでも見て新しいことにチャレンジすれば良いのでしょうけど、私から言い出せばはしたない淫乱オンナと思われるのではないかという不安があり、結局ズルズルと倦怠期に突入しました。


「一肌脱ぐわよ」


 母にそう言われましたが、正直何も期待していませんでした。

 ランチタイムに職場の先輩達から結婚して何年かしたらレスになるのは当たり前と言われていたので、もう仕方が無いことだと諦めかけていたのです。

 三十路前に女盛りが終わるなんて正直辛すぎますが、それまでに随分と回数だけはこなしたので、神様がもう潮時だと教えてくれたのだ、そう考えるようになっていました。


 ただ、子供を作らなかったのが心残りです。仕事も家庭も少し余裕ができてやっとナマでできるようになったというのに……

 夜の関係が疎遠になってからママと呼ばれたかったと思わない日はありませんでした。子供が欲しくなったらその時は何とかなるという考えでできるものではなかったのです。


 そこにこのアンドロイドが届きました。

 夫にナイショで母に相談していたことがわかってしまいました。秘め事を公にして、申し訳ないやら情けないやらで気分が落ち込みましたが、彼はさほど気にしていない様子です。

 あれだけの美女の裸体を見られるだけで眼福だからなのでしょうか。


 夫がアンドロイドと一緒に寝室に行きました。部屋からはそれぞれ違った女性の喘ぎ声が聞こえてきます。相手はセクソロイド…まさか。

 アンドロイドと行為をするのは浮気ではないのでしょうけど、全然気にならないと言えば嘘になります。ハッキリ言って嫌です。本番は私とだけにして欲しい。


 そこは我慢して、その間に「快感学習モード」について、オンラインマニュアルを開いて調べます。


『夫婦が倦怠期になる原因の一つは性生活のマンネリと快感の未開発によるものです。このモードは当社の経験からご利用者様の行為と性感帯の分析を行い、新しい快感を提供し、末永い夫婦円満生活をサポートします』とあります。


 具体的なことが何も書かれていないのはちょっと不安ですが、母の一押しですからそこは信じるしかないのでしょう。


 そして、全裸のまま服を持ち、上気した表情の彼が戻ってきました。


「十分後に部屋に来て欲しいって」


 一言だけ残して、トイレへ駆け込んでいきましたが何をしているかは言うまでもないでしょう。

 私以外としないで欲しいという気持ちが通じたのか、ちょっと嬉しくなりました。


 服を着た夫が部屋に戻るのと入れ違いに私が寝室に入りました。全裸のアンドロイドがベッドへと手招きしてくれます。作り物とわかっていても嫉妬するくらい綺麗ですね。私がこう感じるのですから殿方だと言わずもがな、セクソロイド相手では戦う前から負けています。


 彼女を椅子にしてベッドに座ります。

 背中に当たる双球が潰れる感覚が何とも艶めかしい。同性でも背徳感が湧いてきます。


 右手を私の股間に当て、左手を彼女の半分も膨らんでいない胸に当ててきます。同時にアダルトビデオが再生されました。

 この手ものは学生時代に同性の友達と見たことが何回かあります。その時はただ単に凄いことしてるね位の感想で、自分は今の夫とマイペースでするだけだからと冷めていました。今回は夫の姿を見た後に九十分近い時間を過ごすのです。しかもアンドロイドとは言え初めて肌が触れる女性に抱かれるという格好なので普段は感じない複雑な感情が最初からあります。


 こんな精神状態で男女の絡みをとても冷静には見ていられず、身体の芯が熱くなります。もちろん漏れ出るものもあるわけで、見終わった後はシーツを替えなければ寝られない程でした。

 彼女は一切手を動かさず、指を入れることもありませんでしたが、むしろそれが焦らされているようで新鮮で、私の知らなかった一面を教えて貰ったようです。


 これでは夫よりも彼女との関係をもっと持ちたいと新たな趣味に目覚めそうで、母はそんなことを考えなかったのだろうかという疑問が残ったのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る