第47話 合流
「うーん、全体の進捗が気になるなあ」早坂は独り言をぶつぶつと呟いていた。
「いっそのこと殺してくれ!」と騒ぎ立てていた壮太は、一ノ瀬から慰められ装備を装着しすると泣きそうな顔で正座をしていた。
「良い調子じゃないのか?」精神的ダメージが多きい壮太を独りにしてやろうと思い、一ノ瀬は早坂の隣に立った。
「うん。それはわかるんだけど、猶予が1日あるからと言って24時間戦えるわけじゃないでしょ?休憩をしなきゃいけないし、食事も摂らないと」
「そうなると、良いところ18時間が限度か?」
「何を言っているの?18時間なんかできないよ?僕は7時間が限度だね」早坂は怒った口調で一ノ瀬を見た。
「それで、私たちの次の行動は?まだコアは残っているでしょ?」高森も不憫に思ったのか、壮太から離れ、2人の会話に加わった。
「うーん、コアの数は確かに減ってきているんだけど、あまりにも上手くいきすぎている気がしてならないんだ」
「そうか?俺たちはだいぶやられて気がするぞ?特に、あの角が生えた怪獣みたいな奴には苦戦したじゃないか?」
「ああ、ベヒーモスね。確かにあれは強すぎた」
「私たちの他にも、あんなのと戦った人達っているの?」
「うん。ドラゴンとかケルベロスと戦ったパーティもいたみたい」
「それって強いの?」ドラゴンはわかるだろうが、ケルベロスは想像もつかない高森は真剣な顔で早坂を見た。
「恐ろしく強いよ。もしかしたら僕たちが戦ったベヒーモスよりも強いかもしれない」
「でも勝ったんだろ?」
「いや、負けて全滅したパーティもいたみたい。勿論、勝ったパーティもいるけどね」
「五十嵐さん、そんなに落ち込まないでください」壮太はどんよりとした空気に包まれ、そんな空気を浄化するように花子は優しく声を掛け続けていた。
「いや、いいんだ。もういいんだ・・・」見られてしまった。早坂に、一ノ瀬に、高森に。一ノ瀬は良しとしても一番の問題は早坂だった。
「私に気持ちを伝えようとするのって、そんなに恥ずかしいことなんですか?」
「いや、そんなことは・・・ない。ないよ」
少し怒ったような花子の口調に、壮太は顔をあげて花子を見た。
「間違っていたとは思っていない。俺は・・・」
「ほらほら、いつまでもしょぼくれていないで準備をして!」
またこの展開だ。早坂はタイミングが悪すぎる。いや、敢えてこのタイミングで声をかけているのかもしれない。
「お兄ちゃん、次はどうするの?」
「近いところから潰していくしかないね。一ノ瀬くんたちとも話したんだけど、時間には限りがあるから。ということで、五十嵐くん、行くよ。ほら立って!」
「ああ、わかった」壮太は正座を解いで、膝に付いた土を乱暴に払った。
「これから何が起こるかわからないから、ああいうのはまた別の機会にして」
「はい、すいませんでした」壮太は自分でもよくわからないが、なぜか謝っていた。
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フィールドはそれほど広大に作られていない。というよりは、これから手を加えようとした矢先に問題が発生してしまった。
それでも、出現したモンスターのレベルは出鱈目だった。本来であれば、洞窟の最深部だとか、火山の登場に生息しているはずの巨大モンスターが草原や沼地に出現するのというのは嬉しくないサプライズでしかなかった。
「おーい!」「こっちです!」複数の人間の声が聞こえる。
「お兄ちゃん!」花子はその方向を指さした。
「わかってる。はーい、合流します!」
ログアウトしないで生き残ったパーティは、そのまま残りのコアに向かっている。そうなると別のパーティに出くわすことが自然と多くなっていった。
壮太たちは5人、別のパーティは2人、また別のパーティは10人と人数はバラバラだったが、戦力は確実に増えていた。
「早坂さんと合流できたので、うちのパーティは早坂さんの傘下に入ります」
傘下に入ると言うと聞こえが悪いが、やはり早坂家の威光はこの世界でも示されていた。
「まるで極道みたいだな?早坂組ってところか、インテリヤクザだ」
「そう僻まないの。そんなことを言ったら五十嵐くんだって僕の部下だよ?僕がクラン兼パーティのリーダーなんだから」
「え、そうだったのか?」
「君は誰に従っていると思ったの?」早坂は不思議そうに壮太を見た。
「いや、従うもなにも、俺は花ちゃんの盾役だから」壮太は少し照れながら答えた。あれだけ恥ずかしい目にあって「殺してくれ!」とまで叫んでいたのに、つい本音が漏れてしまった。
「うーん、盾役は有難いんだけど、あんまり妹にちょっかいを出さない欲しいな」
「ええと、それは、あの」
「お兄ちゃん、早く移動しないと」
「そうだ、人数も増えたことだし、急がないと」
花子は早坂の背を押し急かした。壮太に可愛らしく手を振って。
正直なところ、壮太は困惑していた。花子が自分に対してどのような感情を抱いているのかわからない。ネックレスをプレゼントしてくれるということは、嫌われてはいないはずだ。だが、だからと言ってそれが「好き」とは違うとは思い、頭に霧がかかったようにモヤモヤしていた。
「五十嵐くん、置いていくよ」
「わかった、すぐに行く」
早坂に呼ばれ、壮太も駆け足で合流し、たったの5人だったパーティは、いまや20人に膨れ上がっていた。
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