第46話 見世物
「コアはあのベヒーモスだったみたいだね。随分とえげつないことをしてくれる」
無力化を終えた早坂は、いささか怒ったいるように見えた。
パンパカパーン。例によってセンスのない音が鳴る。レベルが上がるのは良いとして、この音は不愉快でしかない。
「お、凄いな、俺はレベル68まで上がっている」
「私は64だ。花ちゃんは?」
「私は変わっていないです。62のままです」
「僕も少しだけ上がっただけだ。63か」
「俺は・・・頑張ったと思うんだけど、64だ」
一ノ瀬は68まで上がった。功労者なので当然だろう。
高森は止めを刺した程度なので、大して上昇していない。
花子は戦わず、強化と回復に努めていたので、レベルは変わらず。早坂も花子とさして変わらないが、攻撃を加えていたのでレベルが1つだけあがったようだ。
壮太は巻き込まれたにも関わらず、早坂と変わりない。なぜか釈然としななかった。
「あのベヒーモス、レベル65もあったみたい」早坂は冷静に分析をしている。
「そういうことは早く言ってくれ!」助かったとはいえ、散々な目にあった。壮太は文句の1つでも言わないとやっていられなかった。
「だって、確かめる前に攻撃されたから。あ、そうだ」
早坂はウインドウを開き、「今はどんな感じなのかな?」と連絡を取り始めた。
「良いペースです。すでに半分以上、制圧したと思って問題ないです」
「そう、それは良かった。問題はなさそう?」
「それが・・・応援要請がきていまして、太郎さんたちのすぐ近くです。北西に3キロほど離れた地点なんですが、だいぶ苦戦しているようです」
「わかった。応援に向かうよ。ええーと、僕と一ノ瀬くん、それから、高森さんも行けそう?」
「俺は問題ない」一ノ瀬は頷くと、ストレッチを始めた。
「私も大丈夫だよ」感覚が掴めてきたのか、高森もやる気満々だった。
「早坂、俺と花ちゃんは?」
「五十嵐くんは装備がボロボロででしょ?装備の修理が終わるまでそこで待っていて。花子、五十嵐くんの回復をお願いね」
「わかった。気をつけてね」
早坂たちは、そう言うなり走り出していた。
「えーと、花ちゃん、修理ってどうやるの?」
「ちょっと待ってくださいね」花子はウインドウを開くと壮太の装備のことを説明した。
「わかりました。五十嵐さん、一度、インベントリに装備を収納してください。少々時間がかかりますが、きちんと修理をして戻します」
「VRMMOってそういうこともできるんですか?」
「できないですよ」通信相手の男性は力強く言い切った。
「は?」意味がわからない。できないのに、なぜ装備を収納しなければいけないのか、壮太にはまるでわからなかった。
「できないですし、本来であればしてはいけないのですが、私たちはこの日に備えて心血を注いできました」
「は、はい」勢いに気圧されて返事しかできない。
「だから、邪道であろうが、卑怯と罵られようが、甘んじて受けとめます」通信相手の男性は明らかに興奮している。
「ええーと、わかりました。それじゃ、お願いします」
「任せてください!」男性は鼻息を荒くして答えると、勝手にウインドウが閉じた。
装備を全部インベントリに仕舞うと、壮太は半袖Tシャツと短パンの姿になっていた。
「うわうわ」壮太は恥ずかしくなり、慌てて両手で体を覆い隠し、その様子を見ていた花子はクスクス笑った。
「気にしないでください。別に下着じゃないんですから」
「でもさ・・・やっぱり恥ずかしいな」
ふと、壮太はあることに気がついた。この場所には自分と花子しかいない。これは千載一遇のチャンスなのかもしれない。
「花ちゃん。あのね、ええと・・・」
「どうしたんですか?」
「いや、この際だからはっきり言っておこうと思って」
緊張で震えそうになる。だが、この機会を逃すと、次はないかもしれない。
「花ちゃんはみんなから可愛いって言われていると思うし、俺もそうなんだけど・・・」
「はい」
「ええと、なんというか、俺もそうなんだけど、外見だけじゃなくて、うーん」しどろもどろになる。告白するつもりではないが、気持ちを上手く言い表すことができない。
「俺はもっともっと花ちゃんのことを知りたいって思っていて・・・」
「はい」
「だから、これからも友達、いいや、できることなら、それ以上に、な、な、なりたいとかなんとか」
「はい、終了でーす」突然、早坂の顔が壮太の前に現れた。
「え、もう行ってきたのか?」
「余裕だったよ。僕たちはベヒーモスをやっつけたんだんだから」
「あのさ、変なことを聞くようだけど、お前、いつからそこにいたんだ?」聞くのが怖いが、聞かずにはいられない。
「花ちゃんはみんなから可愛いって言われているとか、その辺りかな?」
なんでことだ。ほぼ最初から聞かれていた。壮太は恥ずかしくなり、真っ赤になった顔を隠すようにブンブンと横に振った。ふと、2人の人影が見える。一ノ瀬と高森だ。
「まさか、2人ともいたの?」
「五十嵐はまどろっこしいんだよ。もっときちんと自分の気持ちをさ・・・」一ノ瀬は地団太を踏んでいるように悔しがっている
「見ているこっちが恥ずかしくなっちゃった。それに、どうしてTシャツに短パンなの?」高森は呆れ顔で、蔑むような視線を送っている。
「花ちゃん・・・もしかして戻ってきていることに気づいていた?」
「はい。でも、なかなか言い出せなくて」花子は申し訳なそうに俯いた。
「だから、はいしかな言わなかったのか・・・」
壮太はTシャツと短パンで走り出すと、「高森さん、飛び切り大きいの落として!もうダメだ!いっそのこと殺してくれ!」と泣きそうな顔で大声をあげた。
「早坂くん、どうするの、あれ?」
「放っておこう。ぼちぼち装備の修理も終わるころだろうし」
早坂の言う通り、「五十嵐さん、修理がおわりました」と壮太のウインドウが開いた。
「いや、いいです。そのままお返しします」
「何をおっしゃっているんですか?」
「本当にいいんです。お構いなく!」
「五十嵐さん、ふざけないでください!」
「至って真面目です。大真面目です」
壮太が惨めに絶叫しているとき、「五十嵐さん、ありがとうございます。なんとなくですけど、気持ちは伝わりました」花子は誰にも聞こえないように小さく呟いていた。
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