第45話 チームワーク
「高森さん、俺はこのまま突進するから、そのまま続けて」
ベヒーモスに高森の魔法が直撃すると、壮太と高森まで巻き込まれてしまう。
壮太はボロボロの大楯を構えながら、ベヒーモスに突っ込んで行った。
ドスン。鈍い音が響き、壮太とベヒーモスがぶつかりあう。現実世界であれば、体格差で壮太は容易に弾き飛ばされているだろうが、ここはゲームの世界だ。そう言った常識が通じないから面白い。ひっくり返りそうになりながら、やはりこの世界が無くなってしまうのは惜しいと思わずにはいられなかった。
「おお、五十嵐、恰好良いじゃんか!」
よく見ると、ベヒーモスの頭の上に一ノ瀬が剣を突き刺して、振り落とされないように掴まっていた。
「お前は大したもんだ。でも、後は俺に任せろ」
「ギリギリまで刺し続けてやる」
「わかった。でも、落ちてくる前に逃げろよ」
暗雲が立ち込め、稲光も激しくなっている。1回目よりも遥かに激しい。
メテオを2回も食らうとは・・・と思いながら壮太は踏ん張った。
乱気流の中から、先程よりも一回り大きい隕石が姿を現した。
「これはダメかもなあ」
「おい、弱気になるな!」一ノ瀬はまだベヒーモスの頭の上にいて、片手で火の玉を作り連打していた。
「なんでまだいるんだよ!上を見ろって!早くどこかに避難しろよ!もうこのやり取り2回目だぞ!お前は馬鹿なのか?」
「わかった、死ぬなよ」一ノ瀬は頭部に刺した剣を引き抜くと、もう一度剣を突き刺した。
「そういうのは、もういいからダッシュ、ダッシュだ!」
「わかったから、そう急かすな」一ノ瀬は剣を引き抜くと、瞬く間に姿を消した。
「一ノ瀬、ありがとうな」姿が見えなくなり、壮太はつい本心を漏らした。
正直言って心強かったし、一ノ瀬のおかげでかなりのベヒーモスはかなりの深手を負った。
ゴゴゴゴ、大気が震え、壮太とベヒーモスも頭上に高森特製の巨大隕石が姿を現した。先程よりも迫力があり過ぎる。やはり高森には魔女の素質があるようだ。
「ウゴオオオ!」ベヒーモスは唸り声を上げ、壮太から離れようとした。危険を察知したようだ。
「ダメだって!逃げようとするなよ。俺だって滅茶苦茶怖いんだから!」動きを封じるために、壮太はベヒーモスの足の甲に銃槍を発砲し、そのまま槍を突き刺した。
「花子、とにかく回復し続けて。キツイと思うけど頼むよ」
「うん。お兄ちゃんも障壁を作り続けてね」
「五十嵐くん、いつも君にだけ負担をかけてごめんね」
「いつも、そうやって素直なら良いのに」花子は額に汗をかきながら、苦しそうだが笑って見せた。
「それだと、彼が調子に乗り過ぎちゃうからさ」早坂も照れくさそうに笑った。
壮太からはかなり離れていたが、早坂兄妹は必死で壮太の援護を続け、一ノ瀬は高森のフォローに回っていた。
巨大隕石が壮太とベヒーモスを目掛けて落ちてくる。
一ノ瀬は高森を抱き抱え、更に距離をとった。
「これは凄いな。ここもヤバそうだ」
早坂もあまりの大きさに驚き、花子の手を取って後ろへ下がった。
ズドドドッ、「うおっ」「きゃあ」衝突の衝撃で、早坂と花子は吹き飛ばされたが、一ノ瀬が2人をキャッチした。
ビルが崩壊したように土煙があがる。飛び散った岩の破片を、一ノ瀬が縦横無尽に動き回り剣で切り落とした。
「ゲホゲホ、花子、大丈夫」
「うん、ケホッ、私は平気。それよりも、ケホッ、五十嵐さんは?」
「何も見えないよ。あ、花子、危ない!」花子を目掛けて、楕円形の岩が飛んでくる。
「どりゃあ」飛んできた破片を一ノ瀬が体で受け止めた。
「一ノ瀬さん!」
「これくらいなら俺にもできるから」一ノ瀬もボロボロだったが、笑みをみせた
「一ノ瀬くん、君は本当に凄いよ。見た目だけじゃなくて中身も伴っているなんてズルいけどね」早坂はよろけながら立ち上がった。
「五十嵐みたいなことを言うなって」
「そうだよ、五十嵐くんだよ!どうなっているの!」
「まあ、なんとか生きているみたいだぞ」
頭が働かない。体も動かない。あれ?俺は何をしていたんだっけ?
眩暈がする。ダメだ、何も考えられない。
「お疲れさん、よく頑張ったな」倒れそうになった壮太を一ノ瀬が受け止めた。
「ああ、本当に疲れた・・・」
「五十嵐さん、ちょっと待っていてください」ポーションでマジックポイントを回復した花子が息を切らせながら壮太の胸に手を当てた。
温かい、優しい光だ。ぼんやりと数分前のことを思い出す。
「うお、俺、生きてるの?嘘?」
「生きているよ」力を使い果たした高森を連れた早坂の姿が目に映る。
「はい、高森さん。これを飲んで」早坂は精魂を使い果たしてしまったような高森にポーションを手渡した。
「うん、五十嵐くん、本当にごめんね」高森は今にも泣きそうな顔をしていた。
「いや、決め手がなかったから、むしろ助かったよ」壮太は花子から回復されたおかげで思考回路が元に戻りつつあった。
「五十嵐くんの言う通り、あのままじゃ僕たちがやられていたと思う。全然気にしないでいいから」
「お前がそういうことを言うな!俺が言う分には良いんだよ。お前は俺に感謝するべきだ」
「わかっているよ。五十嵐くん。本当にありがとう」早坂は深々と頭を下げた。
「え?やっぱり俺は死んだのか?ゲームで死んでも走馬灯が駆け巡ったり、幻覚とかって見るものなのか?」
「バカだな、見るわけないじゃないか」珍しく謝ったと思えば、いつもの早坂に戻っている。
「そうだよなあ」壮太はよろよろと立ち上がり、早坂の肩を軽く叩いた。
「チームワークの勝利で良いのか?」
「勿論だとも!それに、一ノ瀬くんの功績は大きいよ。五十嵐くんが防御に徹していたとしても、攻撃が通らなければどうにもならなかった」早坂は一ノ瀬の功績を素直に称えた。
「いや、別に俺は・・・」
「一ノ瀬さん、照れないで素直に喜べばいいんですよ」花子が一ノ瀬を脇をチョンと突くと、「おっ、花ちゃんって、やっぱり可愛いね」と臆面もなく答えた。
「一ノ瀬、今までのは全部嘘だ。お前、今更何を言っちゃってくれてるの?よし、このまま、もう一勝負だ!」
ボロボロの鎧と曲がった銃槍を一ノ瀬に向けようとした壮太を、早坂が無下もなく叩き落とした。「そういうのは後でやってくれるかな?」
「早坂、一ノ瀬には気をつけろ!あいつ、何を考えているかわからないぞ!」
「ゴホンゴホン」高森はわざとらしく咳払いをすると「五十嵐くん、私は回復出来たらもう一度、あれを落とすことができるよ」
「あれ、高森さん・・・もう大丈夫なの?」
「早坂くんからポーションを貰ったから魔力はすっかり回復したよ。それで何を揉めているの?」
「すいません、本当にすいません。滅茶苦茶怖いんです、あれが直撃するとき、ビビりまくっちゃって」壮太は平身低頭して高森に謝り続けた。
「花子、彼氏ができそうなときは、必ず僕に報告してね。兄としては心配だよ」
「まあ、五十嵐さんが私のことを可愛いって褒めてくれるのは今に始まったことじゃないし、初めて会ったときから、ずっと変わっていないから」
花子はまんざわでもない素振りをしていたので、早坂は本当に心配になっていた。
「五十嵐くんから、『お兄さん』って呼ばれるなんて考えたくもない。そんなの御免だ」早坂は花子に聞こえないようにブツブツと呟いた。
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