第42話 優秀とはほど遠い一団
「塔ごと木っ端微塵にしちゃったんだけど、これでも大丈夫なのかな?」
「すぐに確認します。少々お待ちください」早坂はウインドウを開いて指示を仰いでいた。その背後では「五十嵐くん、本当にごめん」と高森が平謝りしていた。
「今回は仕方ないよ。高森さんに悪気がないのはわかっているから。ケホ、ケホ。確かに俺たちは急に強くなりすぎている。コントロールできないのはわかった」
「五十嵐くん!ありがとう!」高森の顔がパッと輝いた。
「しかし、あれだけの魔法が使えるなんて、高森さんって魔女の素質があるんじゃないの?」
「それって、喜んでいいのかな?魔女って言うのがちょっと気になるんだけど・・・」
「喜んで良いと思いますよ。さあ、五十嵐さん、手を貸しますね」
「私も私も」
高森と花子から手を差し伸べられ、壮太は鎧に付いた埃を落とすようにパンパンと叩くと、2人から引っ張られるように立ち上がった。
「五十嵐くん、お疲れさま。僕はちょっと調べたいことがあるから、あの瓦礫のところに行くよ。君ははそこで休んでいて」
「そうさせてもらう」
「あの瓦礫をどうするつもりだ?」一ノ瀬と高森が早坂に続き、「私は五十嵐さんの回復をする」と花子はその場に留まった。
「あの瓦礫の中に、地球儀みたいなものがあるみたいなんだ。それがコアなんだって」
「そのコアをどうするんだっけ?」
「えーと、ウィルスを打ち込むんだっけ?」
「そう、高森さんの言う通り。それで一時的に無力化させるんだって」早坂は教わったことを、まるで台本を読むようにそのまま話した。
「ここから探すのか?時間がかかりそうだな」一ノ瀬は自分の身長の倍以上ある瓦礫の山を見つめて独り言を呟いた。
「早坂くん、いっそのこと、私が魔法で横に吹き飛ばしちゃおうか?」
「いや、それだとそのコアも一緒に飛んでいっちゃうかもしれないし、高森さんは気づいていないだろうけど、だいぶ魔力を消耗しているよ」
「そう言われると、確かに疲れているかも・・・」
「だから、ここは僕に任せて。横がダメなら縦にするまでさ」早坂の魔導書がペラペラ捲り始める。「みんな、少し後ろに下がって」そう言うと、瓦礫の山がクレーンゲームで持ち上げられたように宙に舞った。
「あれ、そうじゃないのか?」
「一ノ瀬くん、何か見つけた?」
「ああ、地球儀みたいなものが赤く点滅をしている」そう言うや否や、一ノ瀬は勢いよくジャンプしてコアを掴み落とした。
「一ノ瀬、お前の身体能力には感心するけど、もう少し考えて動いてくれ」花子のおかげで体力を取り戻した壮太は、合流するなり額に手を当てた。
コアというものがよくわからないなら、できるだけ慎重に扱うべきだ。猶予は1日しかない。イレギュラーな事態をわざわざ引き起こす必要はない。
「おお、丁度、バスケのボールのサイズだ」一ノ瀬は落としたコアを掴むと、喜々としてシュートの構えをとっている」
「おい、一ノ瀬、話を聞けって!」
「五十嵐くん、そんなにビクつかなくても大丈夫だよ・・・多分だけど」早坂は自信なさ気に一ノ瀬をフォローした。
「お前のそれも禁止だからな!自信がないなら余計なことを言うな!」
「とりあえず、お兄ちゃんが言った通りにやってみましょうよ」堪らず花子が仲裁に入った。
「ちょっと待ってね、確かインベントリにあるはずだから。お、これか?」早坂の手に。どこからどうみても注射器にしか見えない物体が現れた。
「それは・・・どう見ても注射器だな。それをどうするんだ?」
「ちょっと待って。一ノ瀬くん、それをこっちに頂戴」
「はいよ」一ノ瀬はバスケットボールをパスするように、早坂に向けてコアを投げた。
「速いって!」案の定、早坂はキャッチできず、宙に舞ったコアを花子がリバウンドするように掴み取った。
「一ノ瀬!」
「悪い悪い、バスケをしている気分になっていた」
「しつこいようだけど、取り扱い注意だからな!次も同じようなことをやったら、お前を盾でどつくから、覚えておけよ!」壮太は嫌な汗を大量にかいていた。未完成且つ、人間の知能では計り知れない力が働いている世界なのだから、慎重に慎重に期すべきだ。それなのに、一ノ瀬はまだ事の重大さに気づいていない。
「まあまあ、五十嵐くん、そんなに目くじらを立てて怒らないの。どれ、これをここにグサッと」早坂は花子からコアを受け取ると、無力化させるらしい注射器を突き刺した。
あまりにも乱暴すぎる。本当にログアウトできるのか、壮太は急に心配になった。ログアウトできなくなるとしたら、それは自分と花子だけでいい。壮太は最悪の展開で、自分にとって最高の展開をした。
「成功です。太郎さん、やりました!」
早坂のウインドウが開くと、歓声が聞こえた。
「成功だって、五十嵐くん。これなら何の問題もないでしょ?」早坂が勝ち誇った顔をしたので、「そうだな」と大盾で早坂の体を叩いた。
「あのさ、なんで僕を攻撃しているの?」
「いやあ、なんかムカついたから。これだけで攻撃になるのか?初耳だ」
「五十嵐、俺が悪かった。次から気をつけるから早坂を攻撃するな」
高森と花子は少し離れた場所で3人を眺めていたが、「はあ」と同時に溜め息を吐いた。
「花ちゃんも大変だね」
「ええ、高森さんも色々あったみたいで、お兄ちゃんがご迷惑をおかけしました」
「別に早坂くんだけじゃないよ。まあ、いつも適当にやってきたんだから、別に不思議なことはないんだけどね」高森が苦笑したので、花子もつられて笑った。
「それでも結果は出しましたから、良しとしましょうよ」
「そうだね。今更どうこうなるわけでもないからね」
「高森さん、花子、成功したよ!それと、花子、僕を急いで回復して!」
早坂が壮太に盾で叩かれながら、力を失ったコアを高々と持ち上げながら2人を呼んだ。
「行こうか、花ちゃん」
「はい。行きましょう」
とりあえずは1つ目はどうにか成功したが、壮太たちが同時にログインした時間帯のパーティの中では完全に出遅れていた。連携のとれたパーティはすでに5つ目のコアまで抑えこんでいたが、本人たちはその事実を知る術がなく、早坂は「やったぞ、大成功だ!」と奇声のような歓喜の声を上げ続けていた。
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