第40話 決行日
10月27日。壮太たちは12時により少し前に、いつの病院に揃っていた。
開始時間は正午ぴったり。予定の参加人数は約12000人。平日なので、壮太達には代返且つノートをとるために人員が割かれ、花子は学校を休んだ。
「待ち遠しいな」一ノ瀬はやる気に満ち溢れ、「私にもその余裕をわけて欲しい」と高森は緊張を隠せないでいた。
「僕たちは開始10分後にログインするから、正確には12時10分スタートだね」早坂は平然を装っているのか、それとも緊張感を見せないのか、いつも通りだった。
「五十嵐さん、ちゃんと付けてくれています?」
「ああ、勿論。でも、やっぱり勿体ないなあ」
「お守りなんですから、身につけないと意味がないですよ
壮太は花子からログイン時にネックレスをつけて欲しいとお願いされていた。勿体ないと思ったが、花子からお願いされては仕方がない。断ることなどできなかった。
「花ちゃんはいつも通りだね」
「五十嵐さんは違うんですか?」
「正直に言うと、気が重いなあ・・・何が起こるかわからないんじゃ、お化け屋敷よりも性質が悪いし」
花子は「フフッ」と笑い、「みんなそうなんだけどね」と壮太も笑ってみせた。
職業特有のスキルなどは説明したとこで理解できないし、使ったことがないスキルを下手に発動するほうが危険だと早坂が判断した。
「ただ、パッシブスキルは効いているから楽になると思うよ」
「ねえ、そのパッシブとかって何?」
「発動ではなく、能動的に、うーん、要するに自動的に、しかも有利に働いてくれているってこと」早坂は説明するのが面倒になったのか、端折って一ノ瀬にも同じように伝えた。
「太郎さん、準備をお願いします」スタッフに呼ばれ「うん。みんな、覚悟はできた?いや、そう言うと何か重苦しいから、まあいつも通りで」と親指を立てた。
「いつも通りでだけで良いんじゃないか?。あと、その親指の意味がわからない」
「五十嵐くん、そんなにピリピリしないでよ。ビビっちゃった?」
「あーうるさい、うるさい。2人とも少し静かにして!」とナーバスになっている高森に怒られ、「ごめんなさい」「すいませんでした」と大の男2人は頭を下げた。最近、高森から怒られてばかりいる。
「時間です。始めます」
「さあ、鬼が出るか蛇が出るか」壮太はデバイスを装着し、ベッドに頭をつけて深呼吸を繰り返した。こんなことに巻き込まれるとは思ってもみなかったが、参加する以上、もう腹を括るしかない。それに花子を守ると約束した。
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「花ちゃんは緊張していないの?」
「勿論、緊張していますよ。でも、お兄ちゃん、一ノ瀬さん、それに五十嵐さんもいますから」デバイスを装着すると、花子は自分に言い聞かすように高森を勇気づけた。
「一ノ瀬くんは頼りになるとして、他のに2人が私には不安なんだけど・・・」
「大丈夫ですって。私たちは運命共同体なんですから」
「花ちゃんって、たまにわけのわからないことを言うね?でも、ありがとう」顔は見ないが、花子には高森は笑顔になってくれた気がしていた。
「五十嵐さん、本当に守ってくださいね」目を閉じて、花子は祈るように小さく呟いた。
「ログイン開始」ウィィーン、この機械の唸り声を聞いたはいつ以来だろう。壮太は目を閉じて、再び目を開けると、憧れだった、あの世界に再び立っていた。
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「ここはどこなんだ?全く見た覚えがない」一ノ瀬は辺りを一通り見回すと、早坂に尋ねた。
「なるべく、判明しているコアの近くに転移をお願いしたから、正直言って僕にもわからない」
「お、なんだか凄いなあ」壮太は身に着けている装備を確認して驚いた。
「そうでしょ?現状で最高の物を用意したから」そういう早坂は何も変わっていないように思えた。
「あ、私の衣装が黒から、青に変わっている。こっちのほうが全然良い!」フードを被っていた高森は、嬉しそうな声を上げた。高森が木刀に見える杖ではなく、きちんとした杖をもっていたので壮太は安心した。
「俺はこのマントが邪魔だ」一ノ瀬は兜を装備しておらず、盾を背に装着し、肩に黒いマントがついている。そもそも全身が黒で統一されているので、一ノ瀬から言われなければ壮太は気が付かなかった
「俺にもよくわからないけど、つけておけって」マントとは珍しいが何かしらの効果があるのかもしれない。無理に外す必要もないだろう。
「いや、やっぱり邪魔だ、これは要らない」顔を左右に振ったところで外れるわけがない。それなのに、一ノ瀬は首を左右に振りながら文句を言い続けた。
「まあまあ、一ノ瀬さん、落ち着いてください」久しぶりに見たシスターの花子は清楚で可憐で、そして壮太にだけは相も変わらず天使に見えていた。
ウィーン、早坂のウインドウが勝手に開き、誰かが話かけてきた。
「太郎さん、問題なそうですか?」
「うん、大丈夫」
「それから、朗報です。すでにかなりの数のコアの無力化を確認しています」スタッフの男性は興奮していた。
「え、もう制圧したパーティがいるんですか?」壮太は驚き、勝手に会話に参加した。ログインしてまだ5分も経っていない。熟練したパーティがいるとは聞いていたが早過ぎる。
「ええ、太郎さんたちよりも先行しているパーティですが」
「ああ、なるほど。そう言えば、時間差でログインしているんでしたね」
「でも、また増えちゃうかもしれない。僕たちも急がないと。また何かわかり次第、連絡を頂戴」
「了解しました」ウインドウが閉じ、早坂は辺りを見回した。
「それで、俺たちはどこに行くんだ?」一ノ瀬は装備を確認しながら、やたらと意気込んでいる。
「どこにって・・・あそこに塔があるじゃないか。あきらかにそれっぽいのがあるけど、違うのか、早坂?」一団の500メートルほど先に、入口の両端に石像が並んでいる大きな塔が見える。
「あそこで合っている・・・はずだよ?」
「なんで疑問形なんだよ?お前、ここまで来ても頼りにならないなあ」
「でも、お兄ちゃんの言う通りみたいです。見てください」
花子は塔を指さすと、あちこちで砂塵が舞っている。
「何、あれ?」高森は目を凝らしているが、よくわからないようだ。
「俺もあまり視力が良くないんだ。一ノ瀬、わかるか?」
敬礼するようポーズをとっていた一ノ瀬は「物凄い数のモンスターがこっちに向かってきている」と冷静に答えた。
「あ、本当ですね。かなり多いですし、種族も混合していて滅茶苦茶ですね」
「どうして花ちゃんまで、そんなに落ち着いているの?」壮太は慌てて大楯を構えた。
「だって、もう戦うしかありませんし、あれじゃ逃げられませんよ。標的は明らかに私たちみたいですから」花子は至って冷静に答えた。
「高森さん、くれぐれも塔は壊さないでね。その代わり、好き勝手に魔法を放って構わないから。それから五十嵐くんはできる限り前に出て」
「いざとなると、やっぱり嫌だな。でも仕方がない、やるか!」壮太は大楯を構えたまま、小走りでモンスターの集団に向かって行った。
「私もやるよ!」早坂から許可を受けた高森は、杖を両手で持ち上げると目を閉じた。
「ちょ、ちょっと!なんかイメージと合わないんだけど、電気が走っているみたいにビリビリするんだけど!うわ、やっぱり、無理!」高森の悲鳴に続いて、壮太の横を巨大な火の玉が次々と飛んでいく。
「だああ!」背中に巨大な雷の玉が直撃し、壮太は前のめりに倒れ込んだ。既視感というより、高森に狙われている気がしてならない。
「ごめーん、五十嵐くん。うまくコントロールできない!」
「もういいよ、慣れた!ただ、なるべく当てないでね!」
かくして、早坂率いる、あまり当てにならなそうなパーティは、まずはコアがある塔に近づくために、数の上だけでは5対500ほど戦力差がある戦闘に突入した。
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