第38話 ハイリスク

「やり方としては、まず被験者、つまり僕たちみたいにデバイスを装着して、あの世界で戦ったことがある人だけ、しかもできるだけ大勢で同じ時間に一斉にログインする。そうすることで処理速度を強引に落とす」



「随分と荒っぽいなあ。それで?」壮太は首を傾げながら、続きを促した。

「現段階で怪しい地点は、ある程度予測できるんだけど、点と点が線みたい続いて、いて、しかも点が多すぎて本体がわからないのが問題なんだ」

「それって、外からのアクセスで潰せないの?」

「僕も花子と同じように考えたんだけど、結論から言えば無理らしい。外からのアクセスをことごとくブロックしているみたい」

「だから、直接ログインして本体というか、その点を見つけて破壊するしかないということか?」一ノ瀬は随分と理解が早くなった。もしかしたら、自分なりにVRMMOというものを研究していたのかもしれない。



「点と言うより、コアと考えても良いのか?」

「うん、僕も五十嵐くんと同じように考えている。ただ、本体ではないからね」

「そのコアを見つけて破壊したら、このゲーム自体そのものがぶっ飛ぶんじゃないのか?」あの感覚を味わえなくなるのは残念だが、壮太は早坂の話を聞いていると、それは充分に有り得る話と思った。

「コアの破壊ではなく、一時的に止めるんだ。抑制するためにウィルスを打ち込むっていうほうが正しいのかな?まあ、つもりそういうこと」

「破壊だろうが、ウィルスの注入だろうが、結果は変わらないと思うけど」悪気がないのだが、壮太にはその方法が良策とは思えず、つい悲観的になってしまった。

「方法がそれしかない以上、上が仕方なく了承したみたい。再開発するほど金銭に余力があるかどうかは別として、二の轍を踏まないように、これからは気をつけるんじゃないの?」

「お前と話していると、どうしても他人事にしか聞こえないんだよな。お前の家も直接関わっているはずなのにどうしてだろうな?」

「五十嵐さん。お兄ちゃんは元々こういう人ですから」

「ああ、そうだったね」

「そこの2人、なんか腹立たしいけど本題に移るよ」



「先に言わなければいけないのは、当然リスクがあるということ。ハイリスクハイリターンじゃなくて、ハイリスクノーリターンの可能性もある」

「リスクは承知の上だ」一ノ瀬はすでにやる気満々だ。

「ねえ、いざっていうときにログアウトできなくると、どうなるの?あそこに置き去りにされるの?」心配そうな顔で高森は早坂に問い掛けた。高森の不安は最もだ。それだけは勘弁してもらいたいと壮太も危惧していた。

「そうならないための作戦だよ。もしも、ログアウトできなくようになったらお終いだよ。だから、そうなる前に手を打つ」

「今ならログアウトができるっていうことか?」

「そうなるね。だからこそ、チャンスは今しかないんだ」



高森が難しい顔で考え込んでいる。無理もない。確かにリスクが高すぎる。そんな高森の心情を察したのか、「だから無理強いはしないよ。直接の関係者じゃないみんなにお願いするのはお角違いだし、辞退しても無理はないとわかっているから」早坂は優しく高森に話しかけた。 

「僕は自分で声を掛けた3人で始めたことだから、終わりっていうのは変だけど、僕も含めて4人で問題を解決したいと思っているんだけど、高森さんが辞退しても恨んだりしないよ。むしろ、今までありがとうと言うべきなんだ」



「うーん、うーん」高森は唸りながら葛藤している。

「高森さん、本当に無理をしないほうがいいよ。悩む気持ちはわかるけど、この状況で参加するのはリスキーだよ」

「高森さんにはゆっくり考えてもらうとして、五十嵐くんはどうなの?」

「一ノ瀬ほど簡単には結論を出せないけど、安全面だけは本当に頼むからな。それさえクリアできれば、いいよ、参加する。とことん付き合って、早坂に土下座で礼を言わせてやる」

「頼もしい限りだよ。本当にありがとう。ただ、僕は絶対に土下座をしないけどね」



「言わなくてわかると思うけど、私も参加するから」

花子から飛び出た突然の参加表明に、早坂だけではなく壮太も慌てふためいた。

「花子、それはダメだよ」

「花ちゃん、俺もそう思う。花ちゃんには参加して欲しくない」

「お兄ちゃん、これは早坂家の問題なんだよ。私だって責任を取りたい」

「その気持ちだけで充分だよ。兄さんや姉さんもログインする予定だから、花子には安全な場所で見ていて欲しい」兄として早坂が真剣に懇願しているのが壮太にはよくわかった。



「嫌だよ。私は参加する」花子は考えを改めないようだ。強い口調できっぱりと言い切った。

「花ちゃん、危ないからやめようよ」それでも諦めきれない。壮太も花子を危険な目に遭わせたくなかった。

「大丈夫、いざっていうときは五十嵐さんが守ってくれるから。そうですよね?」

「いや、それを言われちゃうと・・・」困った。何も言い返せない。壮太は腕を組んで、足でリズムを刻むように、トントンと鳴らした。



「早坂、花ちゃんが参加したいっていうんだから、素直に認めよう」

壮太の後押しで花子の表情がぱっと輝いた。「五十嵐さん、ありがとうござます」花子は深々と頭を下げた。

「ちょっと待って。無責任なことを言わないでよ!」早坂が怒るのはわかっていたが、壮太も後に引けなかった。

「だから、花ちゃんは俺が全力で守る。俺はタンクに徹して、花ちゃんだけでなく全員を守る」

「あー、父さんになんて報告すればいいんだ・・・」額に手をあて、まるで生気を吸い取れたように早坂はよろめいた。

「もう、うるさくて考えがまとまらない!」高森はいきなり立ち上がると「いいよ、私も参加する!」と自棄を起こしたように大声を上げた。



「高森さん、リスクは覚悟の上だね?」

「もちろん、わかっているよ。但し、何か異変が起きる前にログアウトさせてよ!あの世界は面白いけど、閉じ込められるのは御免だからね!」

「よし、5人でやろう!」

「一ノ瀬は気楽でいいな。高森さん、俺もできる限りフォローするから」

「大丈夫。私にも意地があるの!いいじゃい、やってやろうじゃない。とことんやってやる!」

やはり、高森のにしか聞こえない。壮太は一抹の不安を抱きながらも、全員で参加できることが嬉しかった。とはいえ、花子の参加は寝耳に水だ。本当なら参加して欲しくないが、花子から直々に「守って欲しい」と頼まれては、全力でその期待に応えるしかなかった。


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