第34話 何かがおかしい

「へえ、それでネックレスをプレゼントされたの?」電話口の高森はやけに刺々しかった。

「良かったな、五十嵐!」

「うん、まあ、自分でも驚いた。まだ現実感がない」

高身長のイケメンと学園のアイドル的存在、それと凡人は3人で話すことが多くなっていた。早坂から誘われなければ、一ノ瀬と高森は接触したかもしれないが、壮太がこの2人と親しくなるとは、本人だけでなく周囲の人間も思わなかっただろう。

リアンという、また謎の人物と知り合い、壮太がオークに木っ端みじんにされた夜も3人で話していた。



「まさか俺たちが戦っている最中にデートしているとは・・・これはもしかして脈ありじゃないのか?」一ノ瀬は浮かれている。壮太の恋が成就するのを願っているのだとしたら、天然記念動物に指定されるくらいの善人だ。

「別にデートとかじゃないって」デートという言葉だけで壮太の頬は緩んでしまう。否定はしたものの、自分ではデートだと思い込んでいた。

「甘いよ、一ノ瀬くん、甘すぎる。女の子はそんなに単純じゃないから」高森はなぜか機嫌が悪い。壮太と花子がショッピングモールから戻ったときには、すでに機嫌が悪かった。



「あのさ、俺、何か高森さんに迷惑をかけるようなことをしたかな?」

「そういうわけじゃないけど、五十嵐くんってチョロい、あ、ごめんごめん。なんでもない」

「今、明らかにチョロいって言ったよね?まあ、その通りかもしれないけどさ」

壮太は勿体なくて付けられないネックレスをまじまじと眺めながら、花子の真意が推し量っていた。なぜ、プレゼントしてくれたのたのかがわからない。お礼とは言っていたが、プレゼントを受け取るほどのことをしたとは思えなかった。なにせ犬死にしたのだから。



「あ、それから早坂くんから聞いているかどうかわからないけど、しばらくテストはしないって」

「え!そんなこと聞いていない!なんで?どうして?」

「私に聞かれてもわからないよ。私だって残念なんだから」高森は心底残念そうに溜め息を吐き、壮太はなるほどプロモーションの目論見はあながち間違っていないのだと実感した。



「俺だって高森と同じで残念だけど、やっぱり調整が必要みたいだ」

「調整、調整って、あいつもそればっかりだな」壮太は花子との唯一の接点が消えてしまい、悪態を吐いた。

「まあ、もうすぐ学校が始まるし、待つしかないだろう」

「そうそう、忘れていたんだけど、原田さんと井上さんってどうなったの?殴り合いをしたの?それとも仲直りをしたの?」

「五十嵐くんさ、選択肢がおかしいよ。なんで殴り合いが選択肢に含まれているの?

私も詳しいことはわからないけど、仲直りはしたみたいだよ、一応は」

「一応ね・・・そうなのか、一ノ瀬?」聞くのが怖いが興味はある。壮太は意地が悪いと思いながらも尋ねてみた。

「俺はそれに関して何もわからないんだけど、2人からメッセージはきた」なぜか、一ノ瀬の声が急に低くなった。



「くたばれ!優柔不断男だとさ。酷いよなあ」

「それは穏やかじゃないな。取り合いを止めて休戦したのか、それとも別に誰かを見つけた。そうなのかな、高森さん?」

「私には何も連絡がないからわからないけど、一ノ瀬くんだけじゃなくて五十嵐くんもこれでわかったでしょ?女は怖いよ」

「うん」「そうだな」壮太と一ノ瀬は瀕死のゴブリンを容赦なく叩きのめしていた高森の姿を思い出し、静かに頷いた。

「これは私からの忠告だから、肝に銘じておくように」

高森は自分のことで素直に2人が言うことを聞いたとは露程も感じていなかった。



                ✦



「お兄ちゃん、呼んだ?」

「うん、ちょっといいかな?」早坂は高級な椅子で膝を組み、クルクルと回転している。

「それで話って何?」花子はいつものように早坂のベッドに腰をおろした。

「2つあるんだ」早坂はどう見てもピースサインにしか見えないが、人差し指と薬指を立てた。

「まずは五十嵐くんのこと」

「うん」花子は気まずそうに俯いた。

「あのさ、僕は思い違いをしていた。彼は使い物にならないどころか、花子のおかげで物凄いやる気をだしてくれる。多分、良い所を見せたいんだろうね。だからら・・・」

「だから?」花子は顔をあげて、早坂の続きを待った。

「仲良くなるなとか、好きになるなとかは言わない。それは僕が決めることじゃない。花子が決めることだから。でも、ほどほどに、ね?」

「別に好きとかそういうんじゃないし、付き合うとか考えていないし・・・」花子は明らかに照れていた。その仕草をみて早坂は気が重くなった。自分が思っている以上に花子は壮太に惹かれているのかもしれない。



「話を続けるよ。2つ目。どちらかというと、こっちのほうが大事なこと」早坂は真剣な面持ちで花子を見据えた。

「どうやら、僕たちの邪魔をしている連中がいるようだ」

「それって、出資社とか関連会社の誰かということ?」花子は事の重大さに気づき、険しい顔つきで早坂に尋ねた。

「そこまで掴めていないんだけど、今日の現象は明らかにおかし過ぎる。なんで、あんなにレベルの高いオークが突然出現したのか、それと捕獲したのにデータが破損してしまったせいで、理由が全くわからないんだ」



「まさか、リアンさんが仕組んだとか?」花子の表情が強張り、早坂は否定をするように手を横に振った。

「いや、それはないと思う。リアンさんは利用されたのかもしれない。いや、そう考えたほうが良いと思う」

「利用って、そんな・・・」

「確かに未知の領域に手を出しているし、莫大な利権が絡んでいるから、僕も心配だったんだ。関わっている企業が余りも多すぎるし、父さんだって全体のどこまで把握できているのかもわからないし・・・」

「一郎兄さんと二葉姉さんには相談したの?」

「うん、報告はした。ただ、兄さんや姉さんも何も掴めていないらしくてさ」

「じゃあ、少し様子を見るの?」花子は残念そうに視線を落とした。

「そうするしかないね。内通者がいるとは考えたくないけど、常に最悪な展開を考えておかないと」早坂も無念というように机を一度だけ叩いた。



「せっかく、みんなが慣れてきたのになあ。特に五十嵐くんの行動に、僕は物凄く興味があったんだ」

「お兄ちゃん、その言い方だと五十嵐さんが実験材料みたいで可哀そうだよ」

「そういうわけじゃないんだけど、レベル2なのに、よくあんな高レベルのオークの前に立ち塞がることができたなあって。あんなの防げるわけないし、それも本人が一番よくわかっていただろうけど、怖くなかったのかな?まあ理由は花子なんだろうけど」

「私は素直に嬉しかったな」

照れる花子を見て、早坂はなぜか嫌な気分になった。妹を取られるとかそういう類のものではなく、単純に腑に落ちなかった。なぜ?どうして?と疑問符ばかりが頭を過ってきた。

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