第28話 壮太と一ノ瀬の内緒話
「高森ゴブリン撲殺事件」と壮太が勝手に命名した日の夜。壮太と一ノ瀬は内緒話をするように、こそこそと電話をしていた。
「高森って、あんな性格だったのか?」一ノ瀬にしては珍しく動揺していた。
「いや、そこまでは知らないけど、金にがめついことと自分の容姿にそれなりに自信を持っているのは知っていた。猫を被っているとも言えるけど」
「凄いな。探偵みたいだ」一ノ瀬が感嘆の声をあげたので「お前が鈍いだけだ」と壮太は冷たく言い放った。
「高森さんもそうだけど、花ちゃんも怒らせると怖いのかも」
「いやあ、あの子は大丈夫だろう」壮太の不安など杞憂だと言わんばかりに一ノ瀬は自信満々で答えた。
「だから、お前は鈍いんだよ。お前はモテるんだから、もう少し考えろ。疑え、配慮しろ、ついでにモテるのもやめてくれ、その身長と顔を交換しろ」
「五十嵐、お前、少し言い過ぎじゃないか?」
「すまん、つい本音がでた」
「本音って・・・お前は捻くれ過ぎじゃないのか?そこを直せば彼女だってできると思うぞ」
「あーあー聞こえない、聞こえない、聞きたくもない」
小学生が喧嘩しているようなものだ。実にバカバカらしくて醜い。単純に壮太が一ノ瀬を羨んでいるだけのことだ。
「あのさ、もしもだぞ、これで原田さんと井上さんが参加していたらどうなっていたと思う?」
「どうなっているんだろうな?」一ノ瀬は壮太の問いに呑気に答えた。
「想像してみろ?高森さんだけじゃなくて、原田さんと井上さんが3人がかりでゴブリンを殴る、いや、もはやリンチだな。俺は想像しただけで悪寒が走る」
「そう言われれば・・・うん、惨劇だ」一ノ瀬は現実世界で原田と井上の取っ組み合いを見たと言っていた。さすがに鈍い一ノ瀬でもその光景を想像できたのだろう。声のトーンが一気に下がった。
「それで、止めは花ちゃんからの氷漬けだ。俺はショックだった。花ちゃんは容姿とか気にしていないし、気にする必要がないと思っていたのに」
「お前は女心がわかっていないからな」一ノ瀬は残念そうに溜め息を吐いた。
「お前に言われたくないんだよ。その上から目線をやめろ!誰がお前を修羅場から救ってやったと思うんだ?確かに俺は彼女が今まで1人もいないし、自慢じゃないがDTだ。その何がいけないんだ?」壮太は言い終わった後、ぜえぜえと息を切らした。
「なあ、この不毛な言い争いは止めて、今後について話そうぜ」
「同感だ。俺も取り乱した」
「とにかく、今は早坂の言う通りに動くしかないんだよなあ。なんか歯痒いんだけど」
「それは仕方がない。でも、あのポンコツのおかげで俺たちはテストとはいえ未来のマシンで遊ぶことができているんだ。あれ?」壮太は珍しく、正論を言っていること自分で驚いた。早坂を正当化するなんて初めてかもしれない。
「次はいつになるんだろうな?」
「さあ?でも俺にはβテストと呼ぶにはおかしいとしか思えない」壮太は理解できるかどうかわからないが一ノ瀬に持論を展開することにした。
「どういうことだ?」案の定、一ノ瀬はわかっていなかった。
「いいか、βテストって完成が近づいたときにする、言い換えれば販売できるかどうかの最終テストみたいなものなんだと俺は思っているんだけど、あれはβテストの段階まで、どう考えても達していない。イレギュラーが起き過ぎている」
「お前の説明でなんとなくわかった。まあ、俺もそう思うときがある。景色もなんだか違和感があるし・・・あれはどう見ても犬だったし」
「そうだろ?今回の高森ゴブリン撲殺事件だっておかし過ぎる。なんで後方の魔法使いである高森さんが、戦士であるお前よりも力強く殴れたのか俺には理解できない。撲殺だぞ、撲殺。あんなの普通のRPGじゃあり得ないぞ」
「なあ、あのゲームって現実世界の知能とか筋力が反映されるのか?」
「おお!」壮太は一ノ瀬がまともな質問をしてきたことが嬉しかった。
「それはないみたいだ。ただ言っているのが早坂だから、どこまで当てになるのかはわからない。でも、現実世界の能力を引き継げるとしたら不公平になるだろ?腕力がある奴はゲームでも最初から強い。頭の良い奴は最初から頭が良いなんて、それじゃ現実の延長線のゲームだ。そんなゲームなら俺はプレイしたくない」
「お前と話すと勉強になる」
「よし、それなら500円をくれ」
「なんで500円なんだよ。別に良いけど」
「嘘だよ。本気にするな」
壮太がいう500円は高森に支払った画像代のことだった。
高森と花子の2ショットだが、正直言って花子だけで良かった。高森は学内で高嶺の花と称され、今でも高森に好意を抱いている男子生徒は少なくない。
例外に漏れず、壮太だってその独りで、高森と初めて話したときは緊張で手が震えそうになった。
ただ、花子と知り合ってしまった今となっては、高森の粗ばかりが目立ち、街で芸能事務所からスカウトされても不思議ではない花子は、高嶺の花を超越して「地上に舞い降りた天使」とさえ思うようになった。俺も相当痛いな、と自覚はしていたが、兎に角にも花子の存在は、早坂から無理難題を押し付けられ、不当な扱いを受けてもそれを押しのけてやろうと思う、壮太のモチベーションを上げる大きな要因だった。
「しかし、今回のことで花ちゃんの怖さを少しは知ってしまったけど、本当に可愛いよなあ。早坂の妹という汚点を除けば完璧なんだけど」
「お前は変な病気に罹っているみたいだ。あの子は確かに可愛いけど、高森だって可愛いじゃないか?」
「本当に変な病気に罹っているのかもな。でも、お前はそのスタンスで良いんだよ。俺と同じ病に罹ると、あのポンコツクランは崩壊するからな」壮太はしみじみと胸をうちを明かした。
「なあ、女子高生を狙うって犯罪にならないのか?」
「馬鹿か!そんなに歳は離れていないだろうが!俺から希望を奪うようなことを言うな!あと女子高生を狙うって語弊があるぞ!言い方を考えろ!」
「どうどう、そんなに怒るなよ」一ノ瀬は壮太の踏んではいけないスイッチを踏んでしまったと思い、壮太を暴れ馬扱いして落ち着かせようとした。
「うう、しかし、早坂が邪魔だ」壮太は一応落ち着きをみせたものの、危険とも捉えかねない発言をしていた。
「おいおい、変なことを考えるなよ」
「大丈夫だ。それはない。早坂は確かに障害だが、花ちゃんはどうやらブラコンらしいからな。本当に残念だ」
「まあ、花ちゃんと仲良くなることからだ。それで上手くいくといいな」
「相変わらず気の利かない励まし方だな。まあ、地球が逆回転するようなことがあれば俺にもチャンスはあるかもな」
「そんなことがあってたまるかよ」
「わかっているって。あくまでも可能性の話だ」
壮太は何だかんだありがなら、一ノ瀬と随分仲良くなっていた。イケメンを嫌う壮太には一ノ瀬は敵と言っても過言ではなかったが、その人柄のせいか嫌味がなく、つい心を許してしまう存在だった。
「それじゃ、またな」
「おう、またな」
「高森ゴブリン撲殺事件」から話はだいぶ脱線したが、今日も今日とて壮太は一ノ瀬と仲良く話を終えた。壮太は憎きイケメンとかなり親しい間柄になっているとは露程も思っていなかった。
現実世界で女子生徒から邪魔者扱いされる日が、そう遠くないうちに訪れるかもしれないというのに。
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