第17話 未来への扉
「これを頭に装着してください」壮太たちは準備が整い、花子論議を繰り広げていると、白衣の男性から見た目はVRゴーグルだが、後頭部まで機械で覆われた試作段階のデバイスそれぞれに手渡した。
「重いので注意してください」いざ被ってみると、本当に重くて壮太は頭は後ろから誰かに引っ張られているような感覚を覚えた。
「なんだかフルフェイスのヘルメットみたいだな」一ノ瀬の声だけが聞こえる。ゴーグルのせいで視界は遮られているが、どうやら一ノ瀬は重さに耐えているようだ。余裕があるように感じた。
「うー相変わらず重たいなあ」そして、やはり早坂は壮太と同じように苦戦している。苦しそうな声をあげているので、すぐにわかった。
「みなさん、そのままゆっくりと仰向けになってください。いいですか?ゆっくりとです」言うのは簡単だが、ゆっくりというのが難しい。壮太の頭の落下速度が速いのか、「支えますね」と誰かが補助してくれた。
「そうです。そのまま、ゆっくりと頭を寝かせてください」
「わかりました」助けを得られたおかげで、壮太はどうにか新世界の扉を開く態勢が整った。
「なんかドキドキするな」一ノ瀬は恐怖よりも好奇心が勝ったようだ。絶叫マシンの順番が回ってきたように声を弾ませていた。
「僕はもう3回目だから、慣れちゃったよ」
一ノ瀬と早坂は思ったことをそれぞれ口に出していたが、壮太は目を閉じてその瞬間を待っていた。
「それでは、準備が整いたましたので、始めさせて頂きます。1時間を予定していますが、それよりも短くなる可能性があります。詳しいことはあちらで太郎さんから説明があると思います。太郎さん、宜しくお願い致します」
視界が遮られているので、誰が説明しているのかはわからないが、壮太は「あちら」という言葉に興奮を覚えた。
「それでは、スタート」
その言葉とともに機械が唸るような声を上げ、真っ暗だった壮太の瞳は眩い光に包まれた。
7色ではとても足りず、12色よりも更に多い、24色パレットで彩られた光のトンネルを壮太の体が弾丸のように走り抜けていく。
VRとは違い、自分の体が見える。触ることもできた。衣服はぼやけていてわからないが、壮太は楽しくなってウルトラマンのように右手を前に伸ばしていた。
トンネルの出口は目を覆い隠すように一段と光に包まれていて、いつの間にか壮太の体は真っ白い壁面な円柱の真ん中に立っていた。
パタパタと自分の体を触ると病院着を着ていたままで、現実なのか仮想空間にいるのか判別がつかなかったが、「みんな、大丈夫?」という早坂の声が全方位から聞こえたことで自分が本当に未来のゲームの領域に足を踏み込んだのだと実感した。
「これは本当に凄いなあ」
「怖かったけど、私、なんだか感動しちゃった」
一ノ瀬と高森も感銘を受けたようだ。あれほど怖がっていたのに、恐怖心を現実世界に置いてきたようにはしゃぐ声が聞こえてきた。
「あまり時間がないし、今回は初回だから僕のほうでそれぞれの役割を決めさせてもらうよ」
「おう」「わかった」「了解」「お願い、お兄ちゃん」」とそれぞれが同意すると、円柱の建物が消え失せ、木々が多い茂る緑地の前にそれぞれの姿があった。
「お、何か強そうだな。これは剣なのか?」一ノ瀬は戦士にしたのだろう、豪華と呼べないが鎧を身に纏い、手にした剣をバットのように振っている。
「私のは何なの?なんだかハロウィンのコスプレしているみたいなんだけど、これって魔女?」
「高森さんは魔法使いです」そう答えた花子は綺麗な髪の毛をポニーテールにして、回復役であるヒーラーの服装を身に纏っていた。白色と青色が絶妙に交わった衣服を身に纏った美少女が敬虔なシスター演じるなんて、「それはシスターではなく地上に舞い降りた天使だ」とわけのわからないことを思いながら壮太は花子に魅入っていた。
「花子ちゃん、可愛いなあ。私も黒い服じゃなくて、そっちが良かった」そう言いながら魔法使いの代名詞とも呼べるとんがり帽子を被り、若干スカートが短い高森の姿も花子ほどではないが充分に可愛いかった。ただ、杖が木刀に見えて仕方がないのだが、それは開発途中だから仕方がないのだろう。
「それで、五十嵐はどこにいるんだ?」
「は?俺はここにいるだろうが?一ノ瀬、初めての経験でおかしくなったのか?」
「いや、声は五十嵐だけど、お前の外見は五十嵐じゃなくなっているぞ」
「確かに・・・ぷっ」高森は壮太をジッと見ると、笑うのを堪えた。
「おい、早坂。お前、俺に何か余計なことをしたのか?そもそもお前はどこにいるんだ?」
ガサガサと茂みが動き、一ノ瀬は凛々しく剣を構え、高森は一ノ瀬のフルスイングを正しいと勘違いしたのか、杖を両手で持ちバッターのようなの姿勢をとって待ち構えた。
「待った待った、僕だよ。早坂。ペッ」茂みから姿を現した早坂は花子と同じような神父の服装に見えたが、壮太は何か違和感を覚えた。
「お前、それ上級職だろ?」
「当たり。さすがだね、五十嵐くん。僕はとりあえず賢者にしておいた」早坂は壮太の問いに、どこか自慢気に答えた。
「お前、とりあえずの使い方を間違っているぞ。なんで初めから賢者なんだよ。ああいうのは努力して努力して、やっと神殿みたいなところでジョブチェンジするのが普通のRPGじゃないのか?」
「ほら、ずっと言っているけどこれもチート対策の一環だよ。それにしても五十嵐くん、随分と変わったねえ」運営側のチート行為を証明している賢者の早坂は、壮太を舐めまわすように見て、やはり笑った。
「おい、嫌な予感しかしないが、俺に何をした?」
「ちょっと待ってね」早坂は宙に手を伸ばすと、右下で長方形のウインドウが開き、壮太はいつの間にか手鏡を握り締めていた。
壮太は恐る恐る自分の顔を覗き見た。なぜか黒い眼帯をしている。無精ひげも伸びている。頭にはバンダナのようなものが巻かれ、何より驚いたのは前歯が2本だけビーバーのように突き出ていることだ。
「俺だけこれってどういうことだよ!みんな現実世界と同じ顔じゃないか!」
壮太は怒りのあまり手鏡を地面に叩きつけた。
「五十嵐くんにはアバターをどこまで変更できるか試してもらったんだ。あれ?言ってなかったっけ?」
「言ってないし、聞いてないし、俺が着ている縞々の囚人服はなんだ?そもそも俺の職業を何にした?」
「五十嵐くんは盗賊、じゃなくて、シーフだよ」
「お前、思い切り盗賊って言ったよな?それにシーフは盗賊を恰好よく言っただけじゃねえか!」
やっとのことで未来の扉を開くことができたのに、壮太は早坂からの仕打ちに膝から崩れ落ちた。
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