第16話 壮太と高森の葛藤

左側の部屋に案内された壮太たちは、集中治療室にありそうな医療機器がベッドの横に配置されている部屋でメディカルチェックを受けた。病院着のようなものに着替えさせられたので部屋が男女で別けられたのだろう。壮太は花子と別室にされた理由を知り、この着替えを恨めしく思った。



「それで、俺たちは何のゲームをやるんだ?」一ノ瀬は腹を括ったのか、着替えを終えると険しい表情で早坂に問い掛けた。

「それを説明していなかったね。ここは王道のRPGだよ。というか、現状ではそれしかできないんだ」

「あーるぴーじ?」一ノ瀬は首を傾げたが、「要するにドラクエみたいなものだよ」と早坂は乱暴な説明をして「ああ、勇者とかいうやつね」本当にわかっているのだろうか、一ノ瀬は納得したように頷いた。



「あのさ、RPGしかできないなら、俺たちは何のためにFPSをやったんだ?最初からRPGをやれば良かったんじゃないのか?まさか2回目のクラン活動からVRMMOになるなんて聞いていないぞ」

「僕だってこんなことになるなんて思っていなかったよ」

「お前、本当に関係者なのか?」

壮太は窓際のベッドに腰を下ろすと、忌々し気に早坂に問い掛けた。花子のことで壮太は動揺し、早坂のこと逆恨みしていた。性質が悪いというのはこういうことを言うのだが、壮太にはそこまで考えが及ばなかった。

「五十嵐くんの指摘通り、僕も次は普通のRPGをしようとは思っていたんだけど、普通のRPGとVRMMOのRPGって別物でしょ?一ノ瀬くんと高森さんには変に慣れてもらいたくなくてね。それにFPSをやりたいって言ったのは五十嵐くん、君だからね」

早坂はそこで言葉を区切ると、意味深長に「それにね」と続けた。



「それに、なんだよ?」

「ここまできたからには白状するけど、僕は五十嵐くんを試していたんだよ」

「なんだよ、下手な鉄砲で当てたのはお前なのに、まだ俺の代役を探していたのか?」

「今は違うよ。五十嵐くんで確定した」そう言うと、早坂は真ん中のベッドに腰を下ろした。

「最初は五十嵐くんがいつも独りでいるから可哀そうだと思って声をかけたんだけど、何となく僕の勘がこの人なら大丈夫じゃないかって知らせていたんだ。そうしたら思った通り、結構気が利くし、悪知恵が働くし、ゲームにも精通していた」

壮太は泣きそうになりながら横に寝転んだ。まず同情されていたことがショックで、しかも試されていたときた。悪知恵に関して言えば誉め言葉ではない。



「でも、そのおかげで俺たちは知り合えたわけだし、良いじゃないか。なあ、五十嵐?」一ノ瀬はフォローに回ることが多くないのだろう、はっきり言ってフォローが下手だ。壮太は横になり、両手で顔を覆い隠した。

「それに、早坂の妹さん、花子ちゃんだっけ?あんなに可愛い子と一緒にゲームができるんだから、結果オーライだと思えって」

壮太の体がピクリと反応した。花子という名を責めるわけではないが、確かにあんな美少女JKと知り合うことなんて、この先の人生でもないだろう。そう思ってしまう

ほど早坂の妹は別格だった。



「五十嵐くん、先に言っておくけど妹にちょっかいを出したら、このクランから問答無用で脱退だから」

「え、マジで?」

「うん、大マジ」

早坂の言葉は、壮太にはまるで死刑宣告のように聞こえた。

「ええと、花子ちゃんはクランに加入するのか?」一ノ瀬は必死になって間を取りもとうとしてくれている。

「うーん、どうだろう。僕は気が進まないんだけど、クランに入れろってうるさいからなあ」

壮太は髪の毛を掻き無理したい衝動に駆られていた。未来を体現するゲームをプレイすることができる。それに、そこいらのアイドルなんて勝負にならない美少女と一緒に遊べる。それなのに、下手をするとクランをクビにされる。これは詰んだのかもしれない。ただ、「参りました」と投了する気がないのは、それだけ花子が壮太のタイプだったということだった。



「嫌だなあ、早坂くん、そんなことあるわけないじゃないか」

壮太は無自覚でクビになる可能性を作ってしまっていた。



                ✦



別室では、高森が花子の一挙一動に目を光らせていた。

名前に関しては両親が名付けたので批判などできないが、彼女にはもっとふさわしい名前の似合うと思った。余計なお世話だろうが、この美少女ならキラキラネームでも違和感もなく使いこなせただろう。



「高森さん、着替えるのが早いですね?」

「花子ちゃんは制服を着ていたからね。私は私服だったから」

花子は高森よりも身長が高かった。165cmくらいあるはずだ。何より高森が敵意を剥き出しにしていたのは花子のバストだった。



「花子ちゃんって胸が大きいんだね?」

「そうですか?あまり気にしたことがないんですけど」

「ブラのサイズを聞いてもいい?」高森はほぼエロ親父と化していたが、これ以上自分が傷つきたくないので必死になっていた。

「なんだか、高森さんにセクハラされているような気がするんですけど」花子は食い気味に質問を投げ掛けてくる高森に不信感を露わにしていた。

「そんなの気のせいだよ。花子ちゃんみたいな可愛い子に会った子ことがないから凄く興味があって。女同士だから問題ないでしょ?」

「高森さんだって、こういうと失礼かもしれないですけど、すごく可愛らしいですよ」

チッと舌打ちしそうになるのを我慢して、高森は「ありがとう、そういう風に言ってくれると嬉しいなあ」と精一杯の作り笑顔で応えた。



「それで、バストのサイズって、やっぱり言わないとダメですか?」

「CとかDとか、そんなので良いから、ね?」

「確かDだったと思います」花子は諦めらたのか、しぶしぶ高森の質問に答えた。

「ああ、そう、Dなんだ。ありがとう。もうこれ以上は聞かないなら安心して」

ちなみに高森はCカップで、身長は156センチで小柄。それなのに胸はある。しかも愛らしい顔立ちいうのが最大の武器であり、誇れる長所だった。

それが全て花子に敗れた。年齢も花子のほうが若いし、顔立ちでも勝てる自信はなく、胸のサイズも負けた。

高森はこれが屈辱で、醜い嫉妬というものだと痛感させられた。

「花子」なんて名前は関係ない。そもそも、花子だってアイドルに見えるが一般人だ。だったら、私は何の為のプロモーション要員なのだろう?



高森は壮太と違う意味で落ち込み、次の一手をどう打つか、どう挽回するか、そのことで頭が一杯だった。

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