第10話 余談 一ノ瀬渡の自己紹介

一ノ瀬渡、年齢は18歳。身長は186センチ。体重は・・・そんなのこと知りたくなししどうでもいい?わかった、じゃあやめよう。



高校生のときは、バスケ部で副キャプテンを務めていて、大学に進学してもバスケ部か同好会に入るつもりでいた。ただ、見学に行った際、皆のやる気のなさに呆れた。ダラダラとバスケを続けるなら、何か別のものに挑戦したいと思った。



確か5月の上旬だったはずだ。はっきりとは覚えていないが、早坂と名乗る男から突然、声をかけられた。社会学の講座を終えたばかりのときだ。

「ねえ、一ノ瀬くん、ゲームに興味はない?」

まず、どうしてこんなことを聞いてきたのか俺には不思議で謎だったが、それでも聞かれた以上は答えるしかない。俺は正直に話すことにした。

「うーん、どちらかといえばないなあ」俺は嘘を吐かず、ありのままを早坂という男に話した。中学、高校とバスケに青春を捧げていたこと。俺の家には家庭用のゲーム機、それから携帯ゲーム機、どちらも所持していない。

ただ、友人の家でサッカーゲームをしたり、格闘ゲームなら、多少はわかると付け加えた。



「改めて僕の名前は早坂、早坂太郎。ゼミは違うけど、君のことは知っていたよ。高身長のイケメンですでに注目を浴びているからね」早坂と名乗った男は初対面にも関わらず、俺のことを褒め称え、好奇心で目を輝かせていた。

「ええと、早坂だっけ?それで俺に何の用なんだ?ゲームがどうこう言っていたけど」

「単刀直入に言うと、僕のクランに一ノ瀬くんも参加して欲しいんだ」

「ええーと、そもそもクランって何なんだ?」

「仲間うちで作った組織というか、そうだな、一ノ瀬くんに説明するならチームメートが一番わかりやすいのかな?」



「チームメートか・・・ただ、俺はゲームのことをあまりよく知らないぞ。なあ、別の人を当たったほうが良いじゃないのか?もっとゲームに詳しいやつとかさ」

「まあ、そう言うと思っていたよ」早坂は俺の答えを予想していたらしい、人差し指を突き出すと、「交換条件とは言わないけど、高性能のPCをあげるっていうのはどう?」

「どうって言われても・・・」俺は早坂という男を警戒した。チームメートになるだけなのに高性能のPCをくれるだって?そんな都合の良い話なんてない。俺は世間の話題には疎いほうだが、学内で身を潜めて宗教に勧誘する話は知っていた。もしかしたら、これは宗教の勧誘の第一歩なのかもしれない。



「先に言っておくけど、俺は信仰している宗教はないけど、自分で決めない限り宗教に入るつもりはないからな。それじゃ」

踵を翻し、早坂と別の方向に歩き出そうとすると「ちょ、ちょっと待って!」と早坂はすばっしこく俺の正面に回り込んできた。

「そう思われても仕方がないかもしれないんだけど、あいにく僕も無宗教でね。やっぱりこれを持っていて良かった。はい」

そう言うと、早坂は財布を取り出して名刺を俺に差し出した。名刺には『未来を築き上げる(株)HAYAHASAKA 第4プロモーション事業部 早坂太郎』と記されていた。



「早坂って大学生じゃないのか?」

「大学生だけど、家の手伝いで働いてもいるんだ。念の為にネットで会社名を検索してみてよ。少なくても宗教の勧誘の疑いは晴れそうだから」

俺はスマホを取り出して、早坂の言う通り会社名を検索すると確かに会社は存在した。

「だけど、このHAYASAKAと俺の目の前にいる早坂が本当に関係しているのかどうかは判断がつかないぞ」

「うん、それくらい疑い深いほうが賢いよ」早坂は疑っている俺に笑顔を見せた。

「だから、学生証のコピーをとって貰っても構わないし、念の為に一筆書こうか?仮に僕が宗教の勧誘で君を騙したとしても、その証拠があれば僕は裁判で必ず負ける」

「いいや、そこまでしなくても良い。そうだな」俺は腕を組んで少し考えた。

「その高性能のPCの金額が幾らなのかは知らないけど、貸してくれればそれでいい。どうしても貰わなければいけないなら、残念だけど俺はお前に協力できない」

俺はよくお人好しだと言われた。面倒見が良いのは長所であり短所でもあると指摘されたことがあった。



「高森さんって知っている?僕は君とは違う吉川先生のゼミなんだけど、同じゼミ生に高森裕子さんっているんだけど、知らない?」

「悪い、知らないな」世間に疎い俺が学内の事情に詳しいわけがない。

「凄く可愛い人で、もう狙っている男が沢山いることで、僕たちの間ではちょっとした有名人なんだけど」早坂はまるで自分の身内を褒めるほうに高森のことを絶賛した。

「それで、その高森がどうしたんだ?」

「高森さんにも一ノ瀬くんと同じように声をかけたんだ。だけど、彼女にも散々怪しまれて困ったよ」早坂は無念というように項垂れた。

「それで、彼女にはPCを貸して、アルバイトという形で参加してもらうことになったんだ」

「アルバイト?」俺は思わず聞き返していた。

「そう、アルバイト」

「同級生が同級生にアルバイト代を出すなんてあまり聞かないぞ」やはり何か変だ。俺は改めて早坂を警戒した。

「こういうと嫌味に聞こえちゃうかもしれないんだけど、うちって会社を経営していててそれなりにお金を持っているんだ。だって社名も早坂でしょ?」

俺は名刺をもう一度確認した。HAYASAKA、はやさか、確かに同じだ。

「高森さんのアルバイトは必要経費扱いで問題ないし、もしかして一ノ瀬くんもバイト代が欲しいって感じ?」

「いや、それはさすがにいいや」同級生からアルバイト代を貰うなんて気が引けるし、俺はなんとなくその構図が嫌だった。



「それで、実はあと1人、目をつけている人がいるんだけど、そのことで一ノ瀬くんにお願いがあるんだけど・・・」

早坂は申し訳なさそうに「その人にもPCを貸すんだけど、一ノ瀬くんはPCを貰ったってことにしてくれない?」と嘘を吐いて欲しいとお願いしてきた、。

「どうしてだよ?」

「まだ判断がつかなくてね。でも、うまくいくはずなんだ、僕の計算では。いや、勘かなのなか?まあどっちでもいいや。それで、そう男性なんだけど、彼には最終的にはPCを譲り渡すつもりなんだけど、少しだけ時間が欲しいんだ」

「俺がPCを貰ったことにすれば状況は好転するのか?」早坂の考えが俺にはわからなかった。そもそもクランということさえ、いまいちよくわかっていないのだから。



「これは僕の予測でしかないんだけど、そのほうがスムーズにことが運ぶと思うんだ」

「でも、俺は嘘を吐きたくない」

「嘘は最初の1回だけで良いし、いずれきちんと僕から彼に説明するよ」

何だか、ややこしいことに巻き込まれた気がする。素直にバスケを選んでおけば良かったのかもしれないと俺は後悔した。



「あのね、クランの活動って毎日じゃないからね。不定期も不定期。だけど一か月に一度は活動したいと思っているんだ」

「そんなスローペースで良いのか?」

「今は本番前の試験運転中っていう感じだから、全然構わないよ」

「試験運転?」

「そう、試験中というかテスト段階かな?初期の人数の通り、4人になったら全て説明するよ。うちのプロジェクトの話も。だから、今はクラン活動に参加してくれるだけでいいんだ」

プロジェクトか・・・一体、早坂は何を目標にして、俺たちをどうしようとしているのだろう。



「なあ、早坂」

「なに?」

「そのクランとかが俺の性にあわなかったから躊躇なく辞めるし、PCも返すからな」

「それを今言おうとしていたんだ。辞めるのは自由だし、無理強いはしないから」



こうして俺は奇妙なクランというものに加入して、高森や五十嵐と出会った。早坂のいう彼とは五十嵐のことだった。一緒にゲームをする前に少しだけ早坂から聞いたので、隠れて五十嵐を見たことがあった。大人しそう奴に見えたが、話してみると俺なんかよりも全然ゲームに詳しくて頼りになった。

一見すると早坂と仲が悪そうだが、俺には五十嵐が楽しんでいるように思えた。。





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