第5話 内容のない反省会
翌日、壮太は参加もしたくない反省会に参加していた。
場所は大学内にある食堂。早坂からメッセージが5回も送られてきて、壮太はうんざりしていたし、わけのわからない活動も辞めると早坂に言うつもりでいた
「なんで途中でやめちゃったの?」
「男なら最後まで戦えよ!」
壮太は顔を会わせるなり、高森と一ノ瀬から責め立てられた。
外見は良い2人だが、この2人は何か欠落している。壮太はペットボトルのコーラーを飲みながらをだんまりを決め込んだ。
高森には取り巻きというか、常に3人組で行動しているようで、なぜか知らない女子生徒2人が一緒になって食堂にいた。ただ、その2人の視線は明らかに一ノ瀬に向かっていていて、目がハートマークになっているのではないかと思うほどの熱視線を送っていた。
残念なことに、その2人は壮太には一切興味を示さなかったので、壮太は2人を女子生徒Aと女子生徒Bと勝手に名付けた。
「お待たせ」集合をかけた早坂が10分遅れて食堂に姿を現した。
「遅いぞ!」と壮太が責めたて、「まあ、いいじゃん」と一ノ瀬は爽やかに許し、「バイト代って振込だっけ?手渡しだっけ?」高森は早坂を見るなり金の話をし始めた。
こんなものはクランではない。ギルドだとしても同じことだ。多分サークルだって、ここまでいい加減ではないだろう。
そもそも集められた目的の意味がわからない。壮太と一ノ瀬、高森。どうして自分達が早坂に誘われたのか目的がはっきりしないので、一緒に何かを成し遂げるという気持ちがまるでないのだ。
「昨日は、お疲れさまでした」遅れてきたくせに、早坂は偉そうに挨拶をした。
「まあ、最初なのであんなもんでしょう。いずれ慣れるから安心して」と早坂は上から物を言い、壮太は聞いているだけで、むかっ腹がたち、頭が痛くなった。
「ねえ、早坂君、私たちもクラン活動でいいのかな?できれば参加したいんだけど」
「私も、私も参加したい!」
女性生徒AとBがすぐに話に割り込んできた。目的がバイトなのか、それとも一ノ瀬なのかはわからなかったが、壮太にはどうでも良かった。どうせ今日で辞めるんだ。俺が辞めても一ノ瀬狙いの女子2人が増えるだろう。壮太はそっぽを向いて残っていたコーラーを飲み干した。
「ごめんね、今は貸し出せるPCがないんだ。用意できたら誘うから」
「そうなの?残念だけど待っているね」と女性生徒Aが答え、「私も待っているから」と女子生徒Bも残念そうに答えた。
「ちょっと4人で話させてもらってもいい?すぐに終わるから」
「わかった」「じゃあ、裕子、また後でね」脇役には相応しいと思ってしまった2人が姿を消し、早坂は勝手に今後の活動内容について話し始めた。
「五十嵐くんは知っていると思うけど、もうすぐVRMMOが正式にサービス開始になるんだ。それまでにチーム力を高めたいと、僕はそう思っている」
壮太もVRMMOがリリースされるのは知っていたが、なにせ周辺機器が嘘みたいに高くて手が出せず、興味はあったが諦めていた。
「ねえ、そのブイ?エルモウって何なの」高森は残念ながら舌が追い付かないようだ。
「俺は知っているぜ。あれだろ、かなり前に流行った3人組のバンドだろ?」
壮太は「それはMMOじゃなくてYMOな、イエローマジックオーケストラだよ」なんて突っ込うのをやめた。大体、VRはどこにいった?それに、どうしてお前はそんな古いことを知っているんだ?その知識を少しだけゲームの知識へ向ければい良いのにと思ってしまった。
一ノ瀬と高森の言うことはとんちんかんで、的外れの会話をいちいち訂正するのが面倒だし、そんなことをしても疲れるだけだった。
「VRっていうのは、ヴァーチャルリアリティーことで、すごく簡単に説明すると仮想空間のこと。それでMMOっていうのは、その仮想空間で人種の垣根をこえて不特定多数の人が同時に遊ぶことだよ」早坂は鼻息を荒くして更に続けた。
「しかも、凄いのは自分のアバターで五感全部を使って遊べるんだ。ゲームとはいえ、ついにここまできたんだよ!凄いと思わない?」
「あ、アバターって映画なら見たことある。青い人だよね?かなり前の映画だけど当時は話題になったよねえ」
「あー、俺は観れなかったんだ。いいな、高森。面白かったか?」
「うん。レンタルでとっくに出ているよ。一ノ瀬くん、機会があるなら観てみなよ、私は面白かったなあ」
早坂の熱弁は残念ながら2人には届いていないようだ。早坂もそのことに気づき、壮太と視線を合わせ「凄いと思わない?」と鼻息を荒くして聞いてきたので、気圧された壮太は「まあ、確かに凄い時代になったよな」と相槌をうった。
「だけど、あんな高い代物、俺には買えないぞ」
「え?それって高いの?」アバター談義が終わったのか、やっと高森が話に参加してきた。
「はっきりとは言えないけど、十数万か、もしかしたら。もっとするかもしれないよ」壮太は雑誌で得た知識を自信なさげに答えた。
「俺だってそんな金を持っていないし、それをゲームに使うっていうのはなんだか勿体なくてなあ」一ノ瀬はゲームの知識や興味もない。その意見に賛同する人も多いだろう。決して的外れではない。壮太にもそのことくらいは理解できた。
「それに関しては何とかなると思う」
早坂の発言に珍しく3人で顔を見合わせた。
「何とかなるってどういうことだよ」壮太は率直に疑問をぶつけた。
「あれくらいなら揃えられそうなんだ」
「あれくらい」だと?壮太は聞き間違えたと思ったが、早坂が金持ちのボンボンであることを思い出した。
「あのさ、早坂の親って何をしているんだ?」
「ええと、会社を経営していて」
「それは聞いた」
「あとは持ちビルが何棟かあって、駐車場なんかも経営しているし、あとは・・・」
「わあ、早坂くんのおうちってお金持ちなんだね」高森の目が燦燦と輝き、「早坂、今度、アイスでも奢ってくれよ」一ノ瀬は冗談交じりに笑ってみせた。
アルバイトでゲームに参加している美女と、MMOとYMOを間違えてしまう残念なイケメンは、本当に話を聞く気があるのか疑いたくなるほど思ったことをすぐ口にしていた。
「ちょっと、待て。お前の家の総資産ってどのくらいあるんだ?」聞くのが怖いが、壮太は本当の金持ちというのに興味があった。セレブという表現は嫌いだが、億万長者という言葉があるくらいだ、きっと通帳に記載できないほどの金を持っているだろう。壮太は無自覚で一ノ瀬たちに文句を言えないようなことを尋ねていた。
「それは僕にもわかんない。でも、VRMMOの開発には、うちも一枚嚙んでいるんだ。だからツテはあるっていうこと」早坂は平然とそう言ってのけた。
「なんか面白そうだね。それってバイト代があがったりしないの?」
「俺は青い人になるのか?それで恐竜みたいの上に乗ってで飛ぶのか?」
「一ノ瀬、うるさい、アバターは映画のアバターじゃないから」
早坂、誘うならもう少し知識のある人間を誘えよ。口には出せないが壮太は早坂の人選ミスを恨んだ。人集めの客寄せパンダとして二人に白羽の矢が立てたとしても、まだ早すぎる。いや、早すぎるのではなく、元々この二人には向いていないのだ。
「それで、五十嵐くん、何か言いたいことがあったみたいだけど?」
早坂はズルいと思った。VRMMOを引き合いに出された。これでは「俺は脱退する」とは言えなくなった。
「いや、別にたいしたことじゃない。またにする」壮太は気持ちの悪い作り笑顔で、早坂にそう答えた。
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