第2話 たったの4人

大学は東京郊外にあり、一流ではなく、二流と三流の狭間にいる大学に、壮太は埼玉県から約1時間かけて通学していた。

早坂と連絡先を交換したと思ったら次の日には「五十嵐くんの家にセッティングに行くから」と車で壮太の実家にPCだけでなく色々な機材を持ってきた。



「お前ってボンボンなの?」

「なんで?」

「だって、あの車ってお前のだろ?それにこのゲーミングPCとか相当高いだろ?マウスだって今までこんなに良いものを使ったことがない」

「いやあ」と早坂は薬指で頬を掻く。「まあ、親が会社を経営しているくらいだよ」



カチンときた。「凄いな、早坂太郎くん」

「だからフルネームは止めてって言ってるじゃん!」

壮太の勉強机に持参したPCを置き、忙しなく作業をしていた早坂の手が止まり、恨めしそうな顔をで壮太を見た。

「ごめんごめん。でも半分は本気だから気にするなって」

「はあ」早坂は作業に戻り、「五十嵐くんは性格が悪いね。だからなんだ」

壮太の顔が無念と恥ずかしさで、みるみるうちに赤くなる。

「おや、図星だったかな?」

「別にぼっちじゃない。まだ大学に入って間もないから友達ができないだけだ」

反論するとますます惨めになる。壮太は傷が深くなる前に「まさかと思うけど、お前のクランって俺で二人目じゃないよな?」と確認をとった。



『平凡なぼっち』と『金持ちの変人』なんて見るに堪えらない。

二人ぼっちなんて言葉はないが、そんなのお断りだった。

「そこは大丈夫」早坂は作業を終えたのか、PCのセットアップをはじめ、「君で4人目だから」と自慢毛な顔で壮太にヘッドセットを渡した。

「4人って・・・普通は20人くらいいるんじゃないのか?」

壮太は早坂からヘッドセットを受け取り装着してみる。明らかに高級品だ。フィット感が心地よくて、マイクも自由自在に動く。



「五十嵐くん、戦いは数じゃないよ」

「なんか、そのセリフってどこかで聞いたことがあるな。オリジナリティを感じない」

「それはいいから、どう、つけてみた感じは?」

壮太は問題ないという風に頷いた。

「それで、早坂は何のゲームのクランをしているんだよ?」

そういえば聞くのを忘れていた。RPGがポピュラーだが、一から始めるのもしんどかった。

「なんでもいいんだよ。クランメンバーが望むなら、僕のどのゲームのクランマスターになる」

「お前はポリシーはないくせに自信だけはあるんだな?」壮太はヘッドセットを外して、早坂が買ってきたスポーツドリンクをゴクゴクと飲み干した。

「それ、気をつけてね。機械に水は故障の原因になるから」

「へーい」壮太は立ち上がって、背後のベッドに腰を下ろした。

「一通り準備は整ったから、これでいつでも参加できるよ。ちなみに五十嵐くんの好きなオンラインゲームは?」

注意したはずの早坂が、キーボードの真上で壮太と同じスポーツドリンクをがぶがぶ飲んでいる。



「うーん」そもそもオンラインゲームをしたくない壮太には、何のジャンルでも良かったが、辞めるきっかけになったシューティングゲーム、一人称視点の、いわゆるFPSでリベンジを果たしたかった。

「FPSで面白いのってあるのか?俺がやってきたのは有名どころだけど、その分、ユーザーの質が悪い。悪すぎる」壮太は嫌な過去を思い出し、苦虫を噛み潰した顔をした。

「あるよ。コールオブフィールド9」

なんだか、聞いたことがあるゲームが合体している。

「それって公式なゲームなのか?いかにもパチモンって感じがするんけど・・・」壮太は空になったペットボトルを置いて汗を拭った。5月だというのに、今日は27℃もある。



「ちゃんとしたゲームだから安心してよ」

早坂も飲み干した空のペットボトルをどうしたらいいのか、6畳の微妙に狭い壮太の部屋をウロウロしている。

「ほら、こっちに貸して」

「ありがとう、じゃあ今回はシューティングでいこう」

早坂は心底嬉しそうに笑い、チャームポイントのエクボだか、月面クレーターだかを思いっきり作った。

「じゃあ、僕はこれで」

「もう帰るの?」引き留めておきながら、このまま早坂がいても何をしたら良いのかわからないが、壮太は社交辞令でついそんなことを言っていた。



「早く帰って準備をしないといけないから」早坂はそわそわしている。

「あのさ、俺まだPCのゲームってやったことがないんだけど」

「大丈夫、すぐに慣れるし、ボイスチャットで教えることもできるから」

もの凄く不安だが、早坂は作業には熱をいれていた。ゲームの操作に関してはきちんと指導をしてくれるようだ。



「まあ、なんとかなるよな」壮太も真剣に参加するつもりでもなかったので適当に答え、早坂は乗ってきた高級そうなステーションワゴンの運転席の窓を開けると「じゃあ、今夜始める前に電話するから」と事故でも起こしそうなほど勢いよく急発進をして帰って行った。



悪い奴ではない・・・と思う。壮太は玄関を開け部屋に戻る。さあこれからどうしよう?楽しみにしているとか思われるは癪だし、悔しい。

時間を潰そうとプレステの電源を入れる。ウィンウィンウィン、仮面ライダーが変身するような音が鳴り、カラータイマーが時間の制限を示しているように点滅を繰り返す。



あ、これはヤバいかも・・・

受験勉強で約半年間、禁じてはいなかったが我慢していたプレステはこの日、その生涯に幕をおろした。



もう嫌な予感しかしない。壮太は溜め息を大きく吐いてベッドにダイブした。

そもそも4人のクランで、あと2人ってどんな奴なんだ?

早坂と同じようなボンボンで「初めまして五十嵐氏」「おやおや、新しく加わった同士でござるか?」などと言とわれたらどう対応したら良いんだ?

「そうでござる。お二人も早坂氏の友人でござるか?」とでも返せばいいのだろうか?

いくら暇で、なかなか友達ができなかったとはいえ、やっぱりこんな誘いを受けなければ良かった。壮太はまだ見ぬ二人のことを勝手に想像し、気が重くなったせいか、瞼まで重くなり、そのまま眠りについてしまった。

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