ポンコツクランに誘われました

モナクマ

第1話 お誘い 

俺って「ぼっち」に見えるのかな?五十嵐壮太は食堂の長椅子に独りで座っていた。

大学に進学してまだ1か月半、とっくに沢山の友達に囲まれている奴がいれば、壮太のようになかなか友達ができず、「あれ?友達ってどうやったら作れるんだ?」と悩む奴も少なくなかったはずだ。



バイトをしようにも、まだ授業割がわからないし、代返を頼む友達もいない。そうなると必然的に授業に出るしかなくなる。学生の本分は勉学、そうは言ってもさ、と愚痴りながら壮太は今日も今日とて真面目に授業を受けた。

授業が終わると日差しが眩しくて目を細め、ニコニコ微笑んでいるお日様が、4人で談笑しながら歩く学生たちを温かく見守っているように思えて腹立たしくなった。



スマホで時間を確認する。11時半、次の授業まであと2時間もある。「さて、どうしたものか」壮太は天を仰ぎ、まだ微笑んでいる太陽に向かって忌々し気に「どっかに行けよ」と手を振った。



大学ってこんなものなのか?友達が沢山できて、新入生歓迎コンパとかで女の子と知り合って、あわよくば付き合う。そういうものじゃないのか?

誰に問い掛けるだけでもなく、自問自答を繰り返す。理想と現実が違いすぎる。壮太は独りで苛立ち、本人は気づいていないが、通りすがった学生達から「あいつ、何か変だぞ」と敬遠されていることに、残念ながら壮太は気づいていなかった。



「君、五十嵐くんだよね?」

背後から声をかけられ咄嗟に身構える。見覚えはあるが名前が思い出せない。170センチの壮太とほぼ同じのくらいの身長で、体形も壮太と同じ、中肉中背、「こいつは誰だっけ?」と壮太は言葉には出さず考え込んだ。



「ええと、早坂だっけ?」やっと思い出すことができた。

「はい、正解」早坂はニッと笑い、顔にエクボができた。

そうだ、こいつは早坂・・・なんだっけ?下の名前が出てなこないが、同じゼミのオリエンテーション旅行の自己紹介で両手の人差し指を頬にあて「エクボがチャームポイントの早坂です。みんなよろしくね!」とか言って周りを凍りつかせた奴だ。

あのエクボは可愛くないしチャームポイントでもない。あいつのエクボは月面クレーターだ。同じゼミで口の悪い奴がそんなことを言っていたのを思い出した。



「ええと、何か用かな?」

「用がないと話しかけちゃいけない決まりでもあったかな?」早坂は大して長くもない前髪を指先でこねくり回している。



「それで、早坂・・・えーと、もう、いいや」いちいち名前を聞くのが面倒だ。

「俺に用でもあるのか?」

「突然だけど、五十嵐くんはゲームが好き?」

「はあ?」

「だからゲームだよ、オンラインゲーム。協力プレーだよ」

「いいや、あんまりというか、むしろ嫌い」

「なんでさ?」早坂はWHYとでも言いたげに両手を広げてオーバーリアクションをとった。



あ、やっぱりこいつは無理だ。遅かれ早かれ嫌いになる。壮太は気が付かないうちに後ずさりしていた。



「昔はやっていたんだけどさ、オンラインはマナーが悪すぎる。陰湿、陰険極まりない。現実世界の憂さ晴らしをしている奴ばっかりで嫌いだ。いや、嫌いになった」



事実、2年ほど前までは壮太もオンラインゲームをしていたが、味方が味方が攻撃する「フレンドリーファイヤー」、通称FFという嫌がらせをされ、勝利すると「下手くそが調子に乗るな!」とメッセージが来て、負けると「下手くそが、もっと練習しろ!」と何とも理不尽なやり取りが続くようになり、運営も一向に改善する余地がなかったので、あるときを境にオンラインゲームから足を洗った。



「そのときはソロで?」

「ほとんどソロで野良みたいなもんだけど、クランには所属していた。まあ本当に所属していただけど」

「今度は大丈夫、僕がいるから」早坂は目を輝かせ、壮太の手を握ろうとしたので、壮太は豪快に後ろへジャンプした。

「おお、いい身のこなし。文句なしだね」うん、うんと早坂は頷いている。

「お前、大丈夫か?熱中症にはまだ早いぞ」ほとんど交流がないのに、壮太は早坂のことを「お前」呼ばわりしていた。



「あのさ、なんで俺なの?俺をお前のクランに誘った理由は?」

「だって五十嵐君、いつも独りでいるから善意で誘ったんだよ」

壮太は膝から崩れ落ちそうになった。こんな奴に憐れみを掛けられているのかということと、やはり傍から見て「ぼっち」に見えていることとダブルパンチだ。



「いや、せっかくだけど遠慮させてもらう」

「ちょ、ちょっと待って」早坂は両手を広げて通せんぼのポーズを取った。やけに汗もかいているようにも見える。



「前言撤回します。お願いします。僕たちのクランに入ってください」

「あれ?大学でも保健室っていうのか?俺も付き添うから早く休んだほうがいい」

「だから違うんだって」早坂は両手をプルプル振って、壮太はこういう生き物っているよなと、すでに違うことを考えていた

「五十嵐くん、一回で良いから参加してくれない?」

「なんで?」

「なんでもだよ!」



収拾がつかない。試しに聞いてみる。「それってプレステ?」

「いいや、PCゲーム」

「じゃあ無理だ。俺のPCはゲームができるほどのスペックはないから」

失礼しますというように頭をさげて去ろうとする壮太の手を、早坂は強引に引っ張り顔を近づけた。

「大丈夫。PCなら貸すから」

「貸すって、ああいうのって高いんだろ?お前そんなにPCを持っているの?」

「全部で4台かな?」得意気になる早坂に苛つきながら、暇つぶしにはなるかもしれないと、壮太は早坂の提案に乗りつつあった。



「飽きたり、マナーが悪い奴がいたら一発で落ちるし、もう二度とやらないから」

「全然それでかまわないから」

早坂は壮太の両手を掴み、嬉しさのあまりブンブンと上下に振り回した。



空を見上げると、太陽が分け隔てなく、皆に平等に光を与えるように燦燦と輝いている。

壮太は安請け合いしたことや、早坂の口車に乗ってしまったこと、「ぼっち」に見えていたことなど、ほんの数分間の出来事を思い出して恥ずかしくなった。



「五十嵐くん、顔が真っ赤だよ。君のほうこそ保健室に行かなくて大丈夫かい?」

「うるさい!」

「五十嵐くんは思っていたよりも狂暴なんだね。頼もしい限りだよ」

早坂は喜々として飛び跳ねていた。



こうして、変人にしかみえない早坂に誘われ、壮太は早坂がクランマスターを務めるクランに、「臨時要因」かつ「お試し」という形で参加することになった。

あとで思い出したが、早坂の名前は「太郎」だった。

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