第8話 プロポーズ

 鋸山に着いたけど、平日だったから人は少なかった。2人は千葉まで来たからと、歩きながら手をつないだ。初めてそうやって外を歩いたけど、B君の手は白く滑らかで華奢だった。Aちゃんの手は指が短くて、日焼けしていた。AちゃんはB君ががっかりしていないか、ちょっと気になった。


「Aちゃん、大好きだよ。これからもずっと一緒にいようね」


 B君は改まって言った。


「うん。いようね」


 Aちゃんはプロポーズされたような気分になって、有頂天だった。

 しっかりと手を握った。


「地獄のぞきに行ってみようよ」


 鋸山には、崖の上から少し傾斜が付いていて、さらに下を覗くことができる『地獄のぞき』という場所がある。柵が付いていて、落ちる心配はないのだけれど、高所恐怖層の人には怖いところだ。


「私、高いところ全然、怖くないの・・・」

 Aちゃんが言った。

「すごいね。じゃあ、先に行ってみて」

 B君は怖がっていた。

 Aちゃんは、キャッキャ笑いながら、崖の先端に近づいた。

 コルクのサンダルで足元がふらついていた。


 後ろからB君が後を追った。

 Aちゃんが友達に写真を送るために、柵に寄りかかってスマホで写真を撮っている。その背中はB君にとっては目線の下にあった。B君の目は冷たかった。

 

 B君はAちゃんのショートパンツの上の方を手で掴むと、一気に持ち上げて、柵の横棒を鉄棒の軸のようにして、くるっと回転させた。それまで3秒くらいだろうか。


 Aちゃんは一瞬で空中に放り出されて、谷底に落ちて行った。落ちて行く時、どんな顔をしていたかもB君には見えなかった。森の中に落ちて、全く見えなくなった。


 

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