第7話 鋸山

 2人は駅で待ち合わせたけど、すぐに一緒には座らなかった。

 知り合いに会うかもしれないからだ。


 Aちゃんはその日のために、できるだけおしゃれをして行った。

 麦わら帽子をかぶって、上はちょっと肩が出るブラウスみたいなのを着て、下はショートパンツ。足元はヒールのあるコルクのサンダル。小柄だったら、ちょっとでも背を高く見せたかった。2人は電車の中でお互いをチラチラみて、照れ笑いしていた。B君も、育ちの良さそうなスマートな中学生で、背が高くてかっこよかった。


 東京駅に着いたら、2人はやっと合流した。

 どちらも笑顔だった。中学生だけど、明らかにカップルだとわかる微笑ましい光景だった。


 最終的に、2人は千葉県にある鋸山という所に行くことにした。東京駅から2時間くらいかかるところだ。標高329.5メートルで、日本80名山の景勝地。昔は房州ぼうしゅう石の産地として栄えていた。最寄り駅はJRの浜金谷駅で、山頂へやロープウェイか徒歩で登ることができる。


「有名なの?」Aちゃんは尋ねた。

「うん。お父さんが登山が好きで、日本80名山の全部に登ろうとして、僕も小学生の時に来たことがあるんだよ」

 こういう親はいる。普段塾に無理やり通わせて、気晴らしと称して自分の行きたいところに子どもを連れて行く。

「景色がすごくきれいなんだよ。景色が『天空の城ラピュタ』にそっくりなんだって」

 Aちゃんは、そのアニメのことは名前しか知らなかった。1986年の作品だからだ。

 でも、きっとキレイな所なんだろうと思った。好きな人と行くならどこでも楽しい。

「鋸山のほとんどは日本寺にほんじっていうお寺の土地なんだって。奈良時代に聖武天皇が行基に建てさせたお寺の一つで、関東で一番古い国のお寺なんだよ」

「へえ。そういえば、そういう人いたね」

 Aちゃんは、中学受験の社会をちゃんとやってなかったから、ほとんど覚えていなかったけど、聖武天皇が各国に国分寺を建てたことは何となく記憶にあった。

「それで、そこにお願い地蔵尊っていうのがあって、名前を書いてお地蔵さんを置くと願いが叶うんだって」

 Aちゃんはときめいた。女の子はそういうのが好きだ。

 B君とずっと一緒にいられますように、とお願いしよう、と心に決めた。


 中学生はそんなに景色や登山に興味がないものだから、2人はロープウェイで登ることにした。Aちゃんは景色よりも、これから起こることが気になっていた。この後、2人で泊まるホテルでのこと・・・親にばれて、どれほど怒られることも。考えると怖かった。


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