第十二話 エンヴィー・タッソ

 廊下を迷いなく進んだカイトは、教師が集まる職員室へと入っていった。


 「失礼します。シリウス学園長へ封筒を預かっているので、面会をお願いします」


 入室するなり堂々と言い放つカイトを他所に僕は、壁に背を預けて待っていた。すると、カイトが一人のエルフ男性と二人の男女と共にこちらへ来たので、姿勢を正した。


 「あなたがアース君ですね?私は、シリウスといいこのアルバ魔法学園の学園長をしています。後ろの二人は試験官をつとめます」


 女性がぺこりと頭を下げたのでこちらも頭を下げる。しかし、男性の方は頭を下げるようなことはせずむしろ、こちらを睨みつけていた。それに気づいた僕に対してシリウスさんが言う。


 「アース君、こちらの試験官はエンヴィー・タッソと言い、平民に対して厳しい人なんです」


 「学園長、高貴なる我が貴族の学び舎に平民などという低俗な者は不要だと常々言っていると思うが?私は今すぐにでもここを離れたい気分だ」


 「高貴なる貴族のエンヴィー・タッソさん」


 「なんだ平民」


 相変わらずこちらを睨みつける視線は変わらない。


 「食事はされていますか?」


 「平民と違い、毎日しょくしているに決まっているだろう」


 ニコッと笑顔を僕は貼り付けた。


 「そうですか。高貴なる貴族の一員たるエンヴィーさんが、低俗なる平民農家が作る食料を食べられているのですね。しかし、毎日食しているということは、心では低俗なる平民を認めているということ。でなければ、貴族が作る食料しか食べないわけですから…安心しました」

 

 「何が言いたい」


 「おや、高貴なる貴族であるエンヴィーさんはどうやら、言語理解能力が低いよう。この程度のことを理解出来ない方が何故、高貴なる学び舎にいるのか疑問です。むしろ、教師ではなく生徒の立場でいる方が納得できますが」


 ピクピクと青筋を張るエンヴィーは、勢いよく右拳で殴りかかって来た。しかし、その拳は届くことなく、カイトによって阻止される。


 「学園長、これは暴力行為の未遂ではありませんか?貴族でありながら正当な理由のない暴力を行使することは、貴族に定められた規則に反する行いですよね。このことをハルシオン国王陛下に伝えて貰っても?」


 「ええ、もちろん伝えますよ」


 この時になってようやくエンヴィーは、自分の愚かな行いの末路に思い至り慌てだした。何故なら、今まで散々厳しく言ってきた低俗なる平民に自分がなるのだから。

 人は、より良い待遇の中で生活しているとそれが当たり前と認識してしまい、その生活より低い待遇を受け付けないもの。その為、今のように必死になって学園長に媚びる訳だ。


 「では、エンヴィー試験官には職員室での待機を命じます。私は、陛下へ報告がありますので。筆記試験からお願いします」


 そう女性に言ってエンヴィーを職員室に放り、足早にその場を去ったシリウスさん。

 僕達は女性の後について試験場へと向かった。

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