第七話 城
宿屋『羽休め』を出てギルドマスターとトリスさんと別れた僕らは、アルバ城の門前へと【転移】した。駆けつけた近衛騎士団長の後ろを歩き、アルシオンさんの城内説明を耳にしながら部屋の一室へと到着した。
さすがに図書室で過ごすのは外聞きが悪いということで、空き部屋を貸してもらうことになった。図書室には明日、案内を付けることになり夕食を頂いた後、就寝。
必要最低限の家具が置かれたシンプルな一室で、男爵位までの来客が泊まる用だったこの部屋を気に入った僕は、図書室の本を読み終えるまでの間を過ごすことにした。
コンコン
とノックする音が聞こえたので扉を魔法で開けると、昨日駆けつけた近衛騎士団長が立っていた。
長袖の白シャツにフード付きで膝下まで長い黒色ジャンパーを羽織り、くるぶしの辺りから青色に変わっている黒色のメンズパンツ姿。黒・青・白の三色で彩られた半長の安全靴を履いた僕を見て、騎士団長は目が点になっていた。
貴族服、アルバ王国の市民服、冒険者の防具そのどれにも当てはまらない格好に、なんと言えば良いのかわからないといった表情をしていた。騎士団長の絞り出した言葉は「良い軽装ですな」だった為、僕は苦笑した。
「陛下より言伝を預かっております。『家族を紹介したいので朝食を共にしないか』とのことです」
「わかりました。案内お願いします」
部屋を後にし、騎士団長についてアルシオンさんの待つ食堂に向かった。
「父上、昨晩訪れた来客の方も朝食を共にするのですか?」
「あぁそうだよ。アルトと同じで十二歳だから仲良くなれると良いね」
食堂に近づくにつれ話し声が聞こえて来たが、何も聞こえなかったように騎士団長は扉を開けた。
「初めましてアースと言います。歳は十二で先日、冒険者登録をしたばかりの新人です。よろしくお願いします」
「改めて、俺はアルシオン・フォン・アルバ。アルバ王国の国王だよ。国王だからと固くならず今まで通りに接して欲しい。妻のミューズと長男のアルトに次男のディークだ」
それからは朝食が始まり、カチャカチャと食器の音が響く静かな食事が続いた。しかしそれは彼の言葉で破られた。
「アースは冒険者なんだよな。学園には通わないのか?」
この世界には学園があるのか!?
僕の驚いた表情にアルシオンさんは微笑えんだ。…が、すぐに真面目な顔をして口を開く。
「アース君は普通ではないからね、学園に通うのはありだと思うよ」
「父上、アースは普通じゃないの?」
「あぁ。十二歳で冒険者登録をして生活するんだよ?両親が止めるところをアース君は一人で王国に来てるんだ。周囲の同年代の生活や知識を吸収して普通を知っても損はないと思う」
ハハハ…。
異常って意味での普通じゃないと言いたいんだろうな。
そう思った僕の気持ちに気付いてかアルシオンさんは、僕の思いなど無視して話を進めた。
「うーん。そうだなぁ、やっぱり学園に行って欲しいなぁ。何か起こってからでは遅いし」
「神様っていう普通ではない存在のアース君が普通を知る機会だから、是非とも通って力を抑えて欲しいんだよね」と、言ってるようにしか聞こえない僕からすると、最早断りようがない。確かに僕は神であり下界に降りたばかりで普通を知らない。時間短縮の為に転移を使うくらいだから、同年代の普通や常識は必須だろう。
そこまで考えて僕は、返事をする。
「そう…ですね。王国の常識も知りたいですし、学園に興味もあります」
「食後にでも話をしよう。ところで、食事はどうだい?」
「美味しいですよ!」
目を輝かせるようにパン以外を褒めちぎった僕。夫人の柔らかくなった表情を気にしつつ、朝食を無事終えた。
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