第六話 宿屋『羽休め』

 「いらっしゃいませー!」


 扉を開けるとカランカランと来客を告げるベルが鳴り、次いで幼い子供の声がした。店内の雰囲気は明るく賑やかだ。

 扉付近に受付があり、正面の一階部分はそのまま食堂となっていた。奥に厨房があり、店員のお姉さんが出来た料理をテーブルへと忙しなく運び、お手伝いだろうか一人の少女が駆け寄り、「お一人ですか?」と尋ねて来る。


 頷いた僕に少女はギルドカードをお願いしますと言う。


 「あ、Eランクの方なんですね」


 渡したギルドカードを見て残念そうにため息を吐く少女。この宿はランクで判断するのか?

 近くの冒険者が、少女と同じ様に落ち込んだ表情でこちらを見る。


 「この宿はCランク以上の方か紹介状のある方しか泊めない決まりなんです。お引き取り下さい」


 「紹介状の有無を尋ねること無く、ギルドカードだけで判断した挙句、ため息を吐いて客の気分を害す。それがこの宿屋の総意なんだね?」


 僕の発言を耳にした冒険者達がこちらをギロリと睨む。

 少女はというと、「それが何か?」と睨みつつ挑戦的な態度を取った。しかし、察しの良い一部の冒険者と配膳をしていたお姉さんは、僕の確認するような言い分に違和感を持ったのか、ことの成り行きを見守っていた。


 「君とそこの冒険者達は、もう少し客に敬意を持った方が良い。奥の冒険者とお姉さんを見習うことだね」


 パチン

 と、指を鳴らすと同時に転移を発動したことで、瞬時に対象の人物が呼び寄せられた。


 一人は歩き途中のアルシオンさんで、もう一人はギルドマスター…だったが、たまたま書類の受け渡し中だったようで、トリスさんも巻き込まれていた。

 突然の大物の出現に、すぐには理解出来なかった冒険者達は、お姉さんが落としたトレーの音で我に返り目の前の人物達に構わず、叫び声を上げた。



 ええぇぇぇぇぇぇ!!??



 なんだなんだと厨房から出て来た男女も扉付近の人物に目をやり悲鳴を上げる。唯一、事態を飲み込めずにいるのは受付の少女だけだった。目の前の景色が一瞬にして変わったことに困惑する三人と、驚き興奮が冷めぬ食堂の面々を他所に少女が言い放った。


 「誰か知りませんけど、低ランクのあなたもお連れの方もお引き取り下さい!」


 僕が簡単に三人へ説明をすると、話し合いを始めるトリスさんとギルドマスター。そして「え、今、どうやって俺はここに??」と言うアルシオンさんの疑問に答える僕という二手に別れた。

 奥から男性がヨロヨロと少女に近づき、頭を押さえつけるようにして跪かせた。少女は事態が理解出来ず混乱している様で、一部の冒険者達も混乱していた。

 大人気ないとはいえ、客あっての店を蔑ろにするようでは先が思いやられると判断してのことだと、自分を納得させた僕は、アルシオンさんにこう尋ねた。


 「泊まるとこがないから泊まりに行って良いですか?図書室で構わないので」


 「え?空いてる部屋ならあるよ」


 国王陛下と気軽に話すあの少年は何者なんだと、ヒソヒソと話す冒険者達を気にとめず話し終えたトリスさんが、男性を立ち上がらせて話し合いの結果を伝えた。


 『とりあえず様子見で、改善がければギルドから薦めることを取り止める』


 男性は深々と頭を下げ、僕ら四人は宿から出ることにした。





 宿には泊まれなかったけど、城に泊まれることになったから結果オーライ?

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