第12話

遡ること1時間前・・・


「いいか、まず俺がアジトの正面から突っ込んで騒ぐ。そんで騒ぎになれば中にいるギャング達は俺の方に集まってくるはずだ。それも、ギャングどもを倒せば倒すほどだ。」

最寄りの喫茶店で、タキは恵海を救出するためのプランを海里達やウォン社長に解説していた。

「集まるって・・・なんで分かるワケ?」

「ただの一般人にやられたとなったら、ギャングとしちゃカッコつかねぇ。死に物狂いで俺を排除しようとするはずだ。で、俺が騒ぎを起こして、ギャングどもが俺に集中している間に、お前らが裏口から中に忍び込む。そして恵海を救出!」

「筋は通っちゃいるが・・・」

「でも、相手はギャングだよ?銃とか持ってたらどうする気?」

「銃は使わねぇはずだ。」

タキの言い放った一言に、海里達は首を傾げた。

「銃なんか使えば、それこそ近隣住民に警察を呼ばれる。向こうだって警察沙汰にはなりたくないだろうからな。」

「なるほど・・・っていうか、タキさんってそんなに頭回ったっけ?」

「おう、我ながら自分の頭脳が怖いぜ・・・」

タキは自信ありげにドヤ顔してみせた。

「でも、お前らはいいのか?自分で言うのもなんだが、危険なことは間違いねぇ。」

「へっ、今更なんだよ。道具だってすでに買ってるのに。」

タキ達の足元には、近所のショッピングセンターで買った、武器になりそうなものが入ったビニール袋が置かれている。

「ビビってたら、恵海を助けられないじゃん!」

「おい、ヂーミン。お前は帰ってもいいんだぜ?さっきからビビってる感じだしよ。」

「冗談!僕もやるよ。今後の生活に波風立てたくないからね。」

海里達もやる気に満ちていた。すべては大切な仲間を助けるために。



そして現在・・・

「オラァッ!!」

アジトに乗り込んだタキは、ギャングの顔面を殴り飛ばした。

『何事だ!』

『騒がしいぞ!』

その時、騒ぎを聞きつけた他のギャング達が集まってきた。

「へへっ・・・予定通り、だっ!!」

倒れたギャングの両足を掴んで持ち上げ、そのままジャイアントスイングで振り回した。

「ンドリャアアアアア!!」

そのまま集まったギャング達に向かって投げつけた。

『うわっ!!』

「こんなモンかよチンピラども!まだまだ食い足りねぇぞコラァ!!」

『こいつ、日本人・・・?ウォンの部下じゃないのか?』

『何者なんだ・・・?』

ギャング達は自分達に向かってくる正体不明の男、タキの存在にどよめきを隠せなかった。

そんな中、タキはドロップキックを繰り出し、ギャング達を床に転ばせた。

「何言ってンのか分かんねぇぞゴラァ!日本語喋れェ!!」


同時刻、

『おい、表の方から侵入者が来たらしい!』

『ウォンの奴か!?』

『いや、どうやら日本人らしいが・・・とにかく行くぞ!』

裏口の見張りをしていた二人が正面入口へ向かって行った。

「よし・・・行ったな。」

それを遠くから隠れて見ていた海里達。3人はそれぞれ武器になるものを装備していた。海里は金属バットを、キラリは石をたっぷり詰めたバッグ、ヂーミンは腰に水性スプレーにガムテープを下げていた。

裏口の見張りがいなくなったのを見計らい、中に侵入した。

中に入ると、そこは休憩所のようだった。中には誰もおらず、海里達はこっそり入っていく。

「よし、誰もいないな・・・」

廊下に続く扉を少し開け、外を見渡す。

「よし!」

誰もいないことを確認し、廊下に出る。

「恵海ちゃんは一体どこに・・・」

「倉庫とか?」

「あっ、待て!」

海里は廊下の影の人影に気が付いた。そこには、ドアの前に立つ見張りの姿があった。

「あそこか・・・」

「さすがに、見張りはいるか・・・どうやって近づくか・・・」

「私に任せて!」

「キラリ?」

キラリは名乗りを上げると、その見張りに近づいて行った。

『ッ!誰だお前は!』

「ねぇ、おじさ~ん。私~、ここの人に雇われたんだけど~・・・・」

キラリは見張りの男に馴れ馴れしく近づき、男の顎を撫で始めた。

「私とぉ、ちょっといいことしない?」

上着のボタンをはずし、胸元を露出させた。男の目線からは下着に包まれたキラリの谷間が見えた。

『お、おお・・・』

男は鼻の下を伸ばして胸元を眺めた。明らかに下心を丸出しにしていた。

それを見たキラリは・・・

「この・・・ドスケベッ!!」

持っていた石詰めのバッグを振り回し、男の顔面に叩きつけた。

『なっ・・・!?』

「ごめんなさい・・・っと!!」

続けてヂーミンが駆け付け、足払いで男のバランスを崩し、

「でやぁぁぁ!!」

そこに海里がバットを振るい、脳天に叩きつけた。不意打ちで頭を殴られた男はその場に倒れ、気絶した。

「やった!」

「隠せ!気づかれる!」

海里達は気絶した見張りの男を部屋の中に入れた。そこにヂーミンが腰に下げたガムテープで両手両足を高速し、口を塞いだ。

「恵海!」

その間に、キラリは部屋に囚われていた恵海を発見した。

恵海は眠っているのか、目をつむって倒れている。

「おい、おい!しっかりしろ!」

海里はキラリの頬を叩き、起こそうとした。

「う、うん・・・」

恵海は目を開いた。

「恵海!」

「恵海ちゃん!」

「恵海っ!」

「みんな・・・?」

目を覚ました恵海はあくびをしながら体を伸ばした。

「おはよう・・・」

「おはようって・・・呑気だなぁ・・・」

「お前、何も覚えてないのか?」

「えと・・・後ろから変な人に捕まって、変な匂いのするハンカチ嗅がされて・・・それから記憶ない・・・」

寝起きのせいか、恵海は目をしぱしぱ瞬きしながら、ゆっくり呟いた。

「眠らされてたのか・・・」

「とにかく、よかった・・・」

「あれ?タキさんは・・・?」

恵海はその場にタキがいないことに気が付いた。


そのころ、タキは既に20人ほどのギャング達を倒していた。

「はぁ・・・はぁ・・・まだまだやれるぞ、オラァ!」

『な、なんて奴だ・・・!これだけの人数を相手に・・・!』

『ば、化け物だ・・・!!』

ギャング達はタキの戦いぶり、次々と倒れていく仲間たちを見て、恐れおののいていた。

「はぁ・・・さすがにしんどいな・・・」

20人も相手にしたせいか、タキに疲れが見え始めていた。倒し切れていないギャングはまだ残っていた。状況は悪化しつつある。

だが、タキは笑っていた。まるでこの状況を楽しむかのように。

「やっべ・・・こんな状況なのに、楽しくなってきやがった!」

タキはこの状況に喜びを感じ、両手を震わせながら、再度ギュッと拳を握った。

その時、

『ほぉ、骨のある奴がいるらしいな。』

『せ、先生!』

ギャング達から「先生」と呼ばれた男が部屋の奥から現れ、階段から降り、タキの前に姿を見せる。

『先生!』

『お前らじゃ役不足だ。俺に代われ。』

男が命令すると、ギャング達はすごすごと後ろに下がっていく。

「よぉ・・・なかなかの腕らしいな。」

「日本語・・・?アンタ、日本人か?」

タキは男に尋ねた。先ほどまで中国語を話していた男がいきなり日本語を話しているのだから、当然といえる。

「いや、中国人だ。仕事柄、日本人とも取引するんでな・・・自然と言葉が身についた。」

「仕事・・・?用心棒か?」

「いや・・・」

男はゆらりと体を動かした・・・かと思いきや、目にも止まらぬ速さで突進し、敵の眼前に現れた。

「っ!!」

「ハッ!!」

獣の如き拳が連続で繰り出され、タキを襲う。タキはそれを次々と捌いていくが、男はその隙を見計らい、

「ハイィィィッ!!」

鋭い掌底を腹に叩きつける。しかし、タキは咄嗟に腕を下げ、掌底を防いだ。

「ぐぅっ・・・!!」

掌底を喰らい、タキは後ろに下がった。そして確信する。この男は強いということを。

「俺は、殺し屋。名はハオチェン。」

「殺し屋・・・通りで強いワケだ・・・」

「こい、遊んでやる。」

ハオは指をクイッと動かして挑発した。それを見て、タキはニヤリと笑いながら拳を鳴らした。

「上等だぜ・・・!!」

二人はお互いに構え、にらみ合った。そして互いに突進し、拳と拳がぶつかり合った・・・


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