第11話

「恵海!恵海ーっ!!」

「恵海ちゃーん!!」

タキとヂーミンは大声で恵海の名を叫びながら、中華街を走り回っていた。

「クソ・・・!どこ行ったんだよ・・・!」

「おーい、タキー!」

その時、同じく恵海を探していた海里とキラリが二人と合流した。

「いたか?」

「ダメ・・・全然見当たらない・・・!」

事の発端は数十分前に遡る。中華街で肉まんの店に訪れたタキ達は、そこで恵海がいつの間にかいなくなっていることに気づいた。それで慌てて中華街を探し回っていたのだ。

「一旦ホテルに戻ってるとかない?」

「それはねぇ・・・と思うぜ。ここからホテルまでだいたい3、40分だ。歩きで戻るのはキツイ。」

「それに、恵海ちゃんの性格的に考えて、僕らに一言言ってくると思うんだよね・・・」

いくら考えても、答えは出なかった。同時に焦りも感じていた。

「私・・・もう一回探してみる!」

キラリは街中へ駈け出そうとした。それを、海里が腕を掴んで止めた。

「ま、待てよ!こんだけ探していなかったんだぞ!」

「でも・・・何かあったらどうすんのよ!」

キラリは目に涙を溜めながら叫んだ。好意を寄せる相手が突然消えたのだから、当然といえる。

「落ち着け!慌ててたら、見つけられるモンも見つけられねぇ!」

タキはキラリを落ち着かせようと、言葉を投げかける。

その時、

「あっ!タキさん、あれ!」

ヂーミンが声を上げ、向こうを指差した。そこには恵海の姿があった。だが、違和感があった。タキ達といた時はもっと地味目な服を着ていたのに対し、今目の前にいる恵海は白いワンピースを着ていた。

「恵海!」

しかし、そんなことを気にしている余裕はなく、タキ達はすぐさま恵海に駆け寄った。

「恵海ー!」

タキの呼びかけが聞こえたのか、恵海は顔を向けた。だがそれと同時に、黒スーツの巨漢二人が現れ、道を塞いだ。

「っと・・・なんだてめぇ!」

「你什么都不做」

(中国語・・・?)

巨漢は中国語で喋っていた。

「タキさん、この二人日本人じゃないよ。中国人だ。翻訳してみるよ。」

「ああ?お前、出来んのか?」

「まぁね。とりあえず、今この人は『なんの用だ』って言ってた。」

「なんの用だぁ?てめぇらこそ、恵海になんの用だ!そこどきやがれ!」

タキは巨漢二人に向かってまくしたてる。その横で、ヂーミンはタキが言ったセリフを中国語に翻訳し、二人に伝えた。

『エミ・・・だと?適当なことを言って、お嬢様に近づく気か!』

(お嬢様・・・?)

「タキさん、あの女の子、もしかしたら恵海ちゃんじゃ・・・・」

「ええい、まどろこっしい!とっととそこ、どきやがれ!!」

ヂーミンの話を聞かず、タキは無理やり押し通ろうとした。

「ああ、ちょっと・・・!」

しかし、巨漢はタキを払い、顔面を殴った。

「!」

「へっ・・・そうかい。こっちの方が手っ取り早ぇ!」

タキはお返しとばかりに巨漢の顔を殴った。さらに、そこから胸倉をつかみ、頭突きを食らわせた。

『こいつ・・・!』

隣にいたもう一人の巨漢はすぐさま攻撃しようとした。だが、タキはすかさず股間を蹴り上げた。

『はうっ!?』

「どりゃっ!!」

さらにそこから回し蹴りを繰り出し、巨漢を蹴り飛ばした。

「へっ、こんなモンかよ。」

『こいつ・・・!調子に乗るな・・・!』

巨漢二人はよろよろと立ち上がり、懐に手を入れた。

(こいつら、武器を・・・!)

タキは二人が武器を取り出すと予想し、身構えた。

その時だった。

「住手ッ!!」

街一帯に響き渡りそうな大きい声が轟き、タキ達の前に白髭を蓄えたスーツ姿の老人が現れた。

「今、あのおじいさん、『やめろ』って・・・」

『しゃ、社長・・・!』

「社長・・・?あっ、なんか見たことあると思ったら・・・!」

「知ってんのか?ヂーミン。」

聞かれたヂーミンは知っていることを話し始めた。

「中国で有名な大手企業のウォン社長だよ。食品、家電、洋服・・・あらゆるジャンルに手を回してる巨大会社で・・・台湾でも結構有名だった。今、日本に支部を作るって話も聞いたよ。」

「社長だぁ?」

ヂーミンの話を聞き、タキはズカズカとウォン社長に近づいた。

「社長さんよぉ、こいつら俺らに因縁つけて、俺のこと殴りやがった。それに、どういう了見であの娘に近づいてんだ!」

「ほぉ・・・ワシもそこそこ有名なつもりだったんだが・・・知らん者もいたか。」

「日本語喋れンのか。だったら話は早ぇ!さっさと答えやがれ!」

タキはウォン社長の胸倉をつかんだ。しかし、ウォン社長は取り乱す様子もなく、答え始めた。

「まずは、ワシの部下の非礼を詫びよう。だが、お前は勘違いをしておる。そこにいる娘は、ワシの孫娘、リンだ。」

「は・・・はぁ!?」

「リ、リン・・・!?」

「つまり、そっくりさん!?」

タキ達は突然の事実に驚き、声を上げた。ようやく見つけた恵海が、ただのそっくりさんだったのだ。

「実は・・・さっき劉老リウロウ会から電話があってな・・・」

「リウロウ・・・?」

「この中華街に身を置く、中国ギャングだ。以前からワシの会社に因縁をつけてきてな・・・そいつらから電話がかかってきた。『お前の孫娘は預かった。返して欲しければ、日本円で10億よこせ。』とな・・・」

ウォン社長の話を聞き、ある事実が浮かんだ。それは、「恵海はリンと間違われ、さらわれた」ということだ。

「部下から何も連絡はなかった。変だと思い、こうして見に来たのだが・・・」

「・・・じゃあなんだよ。恵海はアンタらの諍いに巻き込まれたってことかよ!!」

タキは歯ぎしりを立てた。恵海が何も関係のない諍いに巻き込まれ、危険な目にあっていることに怒りを覚えたのだ。

「どうする?警察に連絡する?」

「ダメじゃ。奴らは『警察に連絡したら孫を殺す』と言っておった・・・奴らはまだ攫われた娘が孫娘ではないと気づいていない・・・」

「じゃあ、その劉老会に言えばいいじゃねぇか!そいつはアンタらが探してた奴じゃない!・・・って!」

「こちらの言うことを素直に信じてくれる相手ならいいがな・・・」

思いつく案はすべて提案した。だが、どれも通りそうなものではなかった。

「八方塞がりか・・・」

「でも・・・行かないと!」

キラリはそう言って、駈け出そうとした。

「待てって!場所なんてわかんねぇだろ!それに・・・俺らで行ってもどうしようもないだろ!」

行こうとするキラリを、海里は引き留めた。相手は中国ギャングで、こちらはただの一般人。普通に考えれば太刀打ちできるものではない。

「でも・・・このままじゃ恵海が死んじゃうんだよ!?みんな、恵海を見殺しにする気!?」

キラリは目に涙を溜めて叫んだ。

「私達、出会ってからまだ1年も経ってないけど・・・今まで大きい喧嘩もせずに仲良くやってきたじゃん!言っちゃえば・・・友達じゃん!仲間じゃん!それを見捨てるの!?」

キラリの叫びに、タキ達は黙り込んだ。

「でも・・・相手がギャングじゃ、どうしようも・・・」

「いや、一つだけ手はあるぜ。」

諦めムードが漂うなか、タキは一言呟いた。

「は・・・?」

「キラリの言う通りだ。恵海は俺らにとって、かけがえのない仲間だ。それを見捨てちまったら、俺は一生悔いが残るし、あいつの親にも顔向けできねぇ!」

「タキ・・・!」

タキは胸を張って言い終えると、ウォン社長に顔を向けた。

「社長さんよ、劉老会のアジトって分かるか?」

「分かるが・・・どうする気だ?」

「決まってんだろ・・・取り返しに行くんだよ!!」


――――――――――――――――


『おい、止まれ!』

『お前、何の用だ?』

入れ墨を入れた中国ギャングが警備する、劉老会のアジト・・・そこに一人の男が正面から堂々と現れた。

「ちわーっす♪」

男は軽々しく挨拶をすると、渾身の力で見張りの一人を殴り飛ばした。

『なっ・・・!?』

もう一人が驚く中、男は胸倉をつかんだ。

「うぉらぁぁぁあっ!!」

凄まじい勢いで投げ飛ばし、正面入り口のドアを突き破った。

『な、なんだ!?』

『ウォンの手下か!?』

騒ぎを聞きつけ、中のギャングたちが集まってきた。それを見た男は、ニヤリと笑った。

「俺は・・・タキだっ!頭によーく叩き込んでおけ、チンピラどもっ!!」

タキは高らかに声を上げた。そして、恵海の救出作戦が開始されたのだった・・・



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