第10話
海でひとしきり遊んだ後、タキ達5人は友人達と別れ、予約したホテルへ向かった。
「よくホテルなんて予約できたね。時期的に人いっぱいなんじゃないの?」
「探すのに苦労したぜ。ほら、着いたぞ。」
車を走らせ、5人はホテルにたどり着いた。
「えっ、ここ?」
ホテルを見たタキ以外の4人は唖然とした。
着いたホテルは見るからに古びたビジネスホテルだった。
「古っ・・・」
「うるせぇな!安いとこがここしかなかったんだよ!後、飯は出ねぇからな。」
「この辺、コンビニあったかなぁ・・・」
「あ、ルームサービスは頼むなよ!高いんだから!」
「元から期待してねぇよ、こんなボロホテルの飯なんて。」
5人は荷物を抱え、ホテルへ入った。
「いらっしゃいませ。」
中に入ると、フロントが目に入り、タキはすぐさまそこへ向かった。
「滝沢で予約したんだけど。」
「滝沢様ですね。お待ちしておりました。3人部屋と2人部屋、ご用意しております。」
フロントから鍵を2本受け取り、タキは海里達の元に戻った。
そして、海里に一本鍵を渡した。
「ほい、これ3人部屋の鍵な。俺とヂーミンは2人部屋だ。女は女同士、男は男同士・・・ってことで。」
「おう。」
「晩飯は好きなモン食ってきていいが・・・明日は中華街行くからな。食いすぎるなよ!」
「はいはい。」
タキ達はそれぞれの部屋に向かい、一息ついた。
「ふいーっ、今日は疲れたなぁ・・・」
部屋に入るなり、タキはベッドに寝転んだ。
「タキさん、ずっと寝てたでしょ?」
「朝から運転し通しだったから・・・どうしても眠くてな。」
「僕、外でご飯買ってくるけど・・・タキさんは?」
「うーん・・・」
タキは寝転がりながら財布を取り出し、千円札をヂーミンに差し出した。
「これで俺の分も頼むわ。テキトーでいいから。」
「僕の分は?」
「自腹だよ、バカ!」
ヂーミンはため息をつきながらも金を受け取り、部屋を出た。
「あれ?海里ちゃん。」
その時、偶然海里と鉢合わせた。
「おう、お前も飯買いに行くのか?」
「まぁね。いっしょに行こうよ。」
「いいぜ。」
2人は一緒に買い物に行くことになり、エレベーターに乗って下に降りていく。
「海里ちゃん、なんか変わったよね。」
「さっきイズミにも言われたよ。そんなに変わったか?」
エレベーターに乗りながら二人は会話を始めた。
「だって、前だったら僕とかキラリちゃんと一緒に出掛けたりしなかったじゃない?」
「そういうお前だって変わったぜ。最初はなんか訛りが入ってていけ好かないイケメンって感じだったけど・・・」
「じゃあ今は?」
「スカしたイケメンだな!」
「それ、褒めてるの?」
2人が話している間に、エレベーターは一階に到着し街へと向かっていく。
「でもまぁ、あの人の影響だよね。」
「・・・だな。あいつを見てると、不思議と体の力が抜けるっつーか、一緒にいて楽しーんだよな。それに・・・?」
話を続けようとしたその時、ふと海里はヂーミンの顔を見た。ヂーミンはニヤニヤ笑いながら海里を見ていた。
「なんだよ?」
「ひょっとしてさ、海里ちゃんってタキさんのこと好きだったり?」
「なっ・・・!?」
指摘された瞬間、海里は顔が真っ赤になった。
「あれ?図星だった?」
「こ、この・・・!やっぱテメェいけ好かねぇ野郎だ!!」
「やばっ・・・!」
怒った海里を見て、ヂーミンは慌てて逃げ出した。海里は怒りながらそれを追いかけて行った・・・
そのころ、ホテルでは・・・
「あーっ、また負けたー!」
「えへへ・・・」
恵海とキラリは部屋でトランプゲームで遊んでいた。何度か勝負しているが、恵海が連続で勝利していた。
「恵海ってトランプ強いんだね。」
「ふふ、ちょっと自信ある。」
「次は七並べしよ!」
キラリはカードを集め、切り始める。
「・・・そういえばさ、恵海、よく笑うようになったよね。」
「えっ?そうかな?」
「うん。最初に会った時と比べたら笑うこと多くなったし、ノリがよくなったっていうか・・・」
「・・・タキさんのおかげかも。」
恵海は静かに呟いた。
「最初に私の趣味を受け入れてくれたのがタキさんだった。あの人が背中を押してくれたから、今の私があるっていうか・・・」
「あー、分かる気がする。私も人には言えないけど、あいつに助けられたから。」
キラリはそう言いながらカードを配る。
「まぁ、ちょっとウルサイのが気になるけどね!」
「でも・・・かっこいいよね、タキさん・・・」
恵海はそう言うと、頬をほんのりと赤く染めた。それを見て、キラリはカードを配る手が止まった。
(えっ・・・なに、この反応・・・)
まるで恋する乙女のような顔だった。「そんなまさか」と思いながら、キラリは口を開いた。
「か、かっこいい?あいつが?」
「だ、だってだって!ご飯作るの上手だし、腕っぷし強くてすごく頼りになるし!それに・・・いつも見せてるあの笑顔が・・・すごく、素敵で・・・」
恵海がタキを褒めちぎるところを見て、聞いた時、キラリは心臓に針が刺さるような感覚を覚えた。
「き、気が付いたら、目で追っちゃうの・・・」
恵海は恥ずかしそうに両手で顔を覆った。
認めるしかなかった。だが認めたくなかった。恵海はタキに好意を寄せている。
だが、キラリ自身、恵海がタキに特別な感情を寄せていることには気づいていた。だが、それは単なる憧れだと勝手に思っていた。
(そっか、そうなんだ・・・)
今にも泣いてしまいそうだった。自分の好きな女性が、別の男のことが好きだったこと。
悔しかった。なにより悔しいのが、タキが恵海の気持ちに気づいていないということだ。
(かわいそう、って思っていいのかな・・・)
色々な感情が混ざってぐちゃぐちゃになり、キラリは自分でも思わぬ行動に出た。
「キラリちゃん?どうし・・・?」
キラリは恵海の頬にキスをした。
「・・・え?」
「えっ」
互いに何が起きたかわからず、茫然としていた。が、次の瞬間二人とも顔が真っ赤になった。
「え、ええっ!?な、なんで!!?」
「え、えっと・・・恵海がかわいかったから・・・?」
「か、かわいいって、そんな・・・」
恵海は恥ずかしさのあまり手で顔を隠してしまった。キラリは弁解しようと口を開いた。だがその時、
「おーい!今帰ったぞー!」
ちょうど海里が部屋に戻ってきた。その後ろにはヂーミンの姿もあった。
「は、早かったね!」
海里が戻ってきた瞬間、恵海はいつも通りに振舞って見せた。
「おう、近くに弁当屋あってよ。そこで買ってきたんだ。ほい、恵海はから揚げ弁当・・・ん?お前、どうした?顔赤いけど・・・」
海里は恵海の顔が赤くなっていることに気づいた。
「えっ!?う、ううん!ちょっと部屋が暑いだけで・・・」
「なら、エアコンもうちょい下げるか・・・」
弁当を渡した海里はリモコンで部屋のエアコンの温度を調整し始めた。
「というか、ヂーミンも一緒だったの?」
「さっきまでね。部屋に戻っても、タキさん寝てるし。一人で食べててもつまんないから、どうせなら一緒に食べようと思って。」
「まぁ、ウチらは別にいいけど。」
その後、4人は買ってきた食事を食べながら、談笑を楽しんだのだった。
翌日、タキ達は横浜中華街に訪れた。
「来た来た中華街!よっしゃ、今日は食って食って食いまくるぞ!」
「めっちゃはしゃいでる・・・」
「もしかして、自分が行きたかっただけ?」
4人は一人はしゃいでいるタキを見て、呆れていた。
「おら、お前ら行くぞ!まずは肉まんからだ!」
タキはそう言うと、どんどん奥へ進んでいった。
4人は呆れながらも、タキの後ろについて行った。
(タキさん、子どもっぽいとこあるんだ・・・かわいい・・・)
はしゃぐタキを見て、愛おしさを感じていた恵海。
だが、彼女は気づかなかった。背後から迫り来る、得体の知れない者達に・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます