第9話

「フフフ・・・来たぜ、神奈川!そして!湘南の海!!」

タキは海に来た者たちで賑わう湘南の海水浴場で叫んだ。

タキ達5人は宗太から買った車で湘南に来ていた。ホテルを予約し、遊ぶための道具も持参して来たのだ。

「叫ばないでよ、タキさん。」

ヂーミンは呆れながら砂浜にパラソルを差した。

「いや、湘南・・・いや、神奈川なんて滅多に来ないからよぉ。テンション上がってな。それにしても、女子ども遅いな。」

「着替えに時間かかってんじゃない?」

タキは辺りを見回し、海里、恵海、キラリがまだ来ていないことに気づいた。

その時、

「お待たせ~!」

キラリ達がタキの元に戻ってきた。

『おお・・・!』

タキとヂーミンは声を上げた。いつもと違う姿に驚いたのだ。

海里は上はストライプ模様のビキニに、下にはショートパンツ型の水着を、恵海は肩部分を露出したデザインのフリルがついた水着を、キラリは上を横長のチューブトップ型のビキニに、下にはパンツ型の水着の上にパレオをスカートのように巻いていた。

「いや、これはなかなか・・・」

いつもと見慣れない姿に、ヂーミンは思わず頬をほんのり赤く染めた。

「ん~?意外にムッツリなの?」

「か、からかわないで。」

キラリはヂーミンの顔を覗き込み、からかった。それに対し、ヂーミンはふいと顔をそむけた。

「いや~、馬子にも衣装とはよく言ったもんだ。」

「誰が馬子だ!」

「でも、かわいいじゃねぇか。似合ってるぜ。」

「か、かわ・・・っ!?」

タキにひそかに想いを寄せていた海里は、その相手から「かわいい」と言われ顔を真っ赤に染めた。

「い、いきなりそんなこと言うんじゃねぇよ、バーカ・・・・」

海里は思わずタキを罵倒したが、段々と声が小さくなり、顔も俯いていった。

「あっ、ねぇねぇ!恵海の水着どう?かわいいっしょ?私が選んだの!」

その時、キラリは縮こまっていた恵海の肩をつかみ、タキに水着姿を見せた。

「ちょ、ちょっとキラリちゃん!?」

「おお、確かにかわいいな。よく似合ってんぜ。」

「はうぅ・・・」

恵海も同じくタキに想いを寄せており、褒められて恥ずかしくなり、顔を赤く染めた。

「でも・・・」

その時、タキは恵海の顔まで近づき、メガネに手をかけた。

「え?」

「泳ぐ時はメガネ外しとけよ?預かってやるから、な?」

タキはそう言うと、恵海のメガネを外して折り畳んだ。その瞬間、恵海の顔は真っ赤に染まった。

(か、かかか、顔が近・・・!!)

大好きな異性の顔が眼前まで迫っていたことに赤面する恵海。メガネを取られて視界はぼやけていたが、それでも破壊力は高かった。

「さ、先に泳いできまぁぁぁぁぁす!!」

恥ずかしさが頂点に達し、恵海は海に向かって全速力で走っていった。

「なんだアイツ?アイツも海に来てテンション上がったのか?」

(絶対違うと思う・・・)

当の本人は何も気づかず、他の3人は気づいていた。

「まぁいいや。お前らも行ってこい。」

「タキは?泳がないの?」

「俺は荷物番してるよ。それに、運転で疲れたから寝るわ。」

タキはそう言うと、パラソルの下にシートと荷物を置いて寝転がった。

「じゃあ、また後で。」

「おい、ヂーミン!泳ぎで競争すんぞ!」

「うへぇ・・・マジかぁ・・・」

海里はヂーミンを連れて海へと走っていった。

「私も、恵海と泳ごうっと!」

キラリも恵海の後を追って海へと走っていった。

「若いっていいねぇ。まぁ、俺もまだ若いけど・・・・」

タキはあくびをし、そのまま眠ってしまった。

それからどれだけ時間が経ったか分からなくなったころ、タキの額にヒヤリと冷たいものが当たった。

「つめたっ!!な、なんだ!?」

急に頭を冷やされ、タキは飛び起きた。

「おはよー、タキ。」

「お前ら。」

タキの元に4人が戻ってきた。そしてその後ろには、見覚えのある顔ぶれ揃っていた。

「はぁ~い♪タキちゃ~ん!」

「萌木!」

タキの知り合いでゲイバーのマスター萌木、

「えっと、君は海里の友達の・・・」

「はい、イズミです。あの時はありがとうございます。」

海里のクラスメート、川久保イズミ。

「えっと、そっちは・・・?」

「あっ、俺ヂーミンと同じクラスの大門大志ッス!」

「同じくクラスメートの小坂小神子でーす!」

タキとは面識はないが、ヂーミンのクラスメート、大門と小坂。

「まさか、こんなところで会うとは思わなかったけどよ。」

「そうそう、遊んでたらバッタリとね。」

「僕としては会いたくなかったけど。」

ヂーミンは首を横に振り、ため息をついた。そんな時、大門がヂーミンの肩を抱いた。

「そんなこと言うなって!俺は嬉しいんだぜ?」

大門に合わせるように、小坂も腕に抱き着いて来た。

「私も~!」

「はぁ・・・」

二人に絡まれ、ヂーミンは疲れたような顔を見せた。

「今何時ぐらいだ?」

「もうお昼ですよ。タキさん、ぐっすり寝てました。」

「昼飯時か・・・飯どうすっか・・・」

「そう思って・・・じゃーん!」

キラリは後ろに置いていたビニール袋を見せた。袋の中には焼きそばやから揚げなどが入っていた。

「おっ、なんだこれ?どこで買ったんだ?」

「そこにある海の家で買ったんだ。飲み物も。」

海里も持っていた袋から瓶のラムネを取り出し、タキに手渡した。

「おお、瓶ラムネ!さっき冷たかったのはこれか。」

「せっかくだからみんなで食べましょ!私、お弁当作ってきたの!」

そう言うと、萌木は大きめのタッパーを二つ、シートの上に置いた。中にはいっぱいのおにぎりとおかずが入っている。

「実は友達と来る予定だったんだけど、ドタキャンされちゃって・・・一人じゃ食べきれなくて。」

「つーかお前、料理出来たのかよ。」

「私も作りましたー!」

その時、小坂が元気よく弁当箱を出してきた。

「と言っても、二人分しかないですけど。」

「二人分?」

小坂のセリフを聞き、隣にいる大門を見た。

元々小坂は大門と二人で来ていた。そして弁当は二人分・・・

「あー、そういうことか。」

タキは事情を察し、ニヤリと笑った。

「ま、まぁいいじゃないッスか。みんなで食いましょ!」

「そうだな、じゃ・・・」

『いただきまーす!』

皆一斉に弁当を食べ始めた。

「タキちゃん、はいあーん♪」

「自分で食えるっての!いらねぇよ!」

「やぁん、いけず!」

萌木はタキに弁当のおかずを食べさせようとしたが、タキはそれを拒否した。

その横でキラリは萌木の作った卵焼きを食べた。

「あっ、美味しい!マスター、これ美味しいよ!」

「あら本当!?いっぱい食べてね!ところでキラリちゃん?」

萌木は耳元に顔を近づけ、耳打ちを始めた。

「あのフリルの水着の子が恵海ちゃん?キラリちゃんが好きな子。」

「う、うん・・・」

「カワイイじゃないの~!」

「でしょ~?マスターってば話分かる~!」

恵海を見て、二人はニコニコ笑って会話を弾ませた。すると、萌木は急に真剣な顔つきになった。

「いい?二人きりになったらアタックをかけるべきよ。」

「ア、アタック?」

「スキンシップ・・・か~ら~の~、告・白!よ!」

「ゴクリ・・・」

萌木の一言に、キラリはゴクリと唾を飲んだ。

「ズゾゾ・・・お、この焼きそば美味いな!」

「うん、美味しいね。」

海の家で買った焼きそばを美味しそうに食べる海里。それをイズミは横で見ていた。

「海里ちゃん、ずいぶん明るくなったね。」

「あ?そうか?」

「うん、だって最初のころはナイフみたいに尖ってたっていうか、モロに不良みたいだったから・・・」

(そんな風に思ってたのか。)

イズミのセリフを聞き、海里は内心ショックを受けた。

「でも、最近はよく笑うようになったよね。」

「まぁ、力入れすぎてたっていうか・・・もういいかなって思ってよ。」

「タキさんのおかげ?」

「ぶっ!?」

その瞬間、海里はその場でむせ返った。

「お、お前・・・!本人が近くにいるのに・・・!」

「そういうところはカワイイんだね。」

顔を赤くして慌てる海里に、イズミはクスクスと笑った。

「ねぇねぇ、ヂーミンどう?」

「・・・まぁ、美味しいんじゃない?」

ヂーミンは小坂の作った弁当を食べ、そっけない感想を述べた。

「えー、味気なーい!」

「僕より、大門君に聞いた方がいいんじゃない?」

「え、えっ!?どうして~?」

ヂーミンの一言に小坂は照れ始めた。その隣にいる大門も同様にだ。

(アホらし・・・)

その意味を理解したヂーミンは呆れた顔を見せた。

「あー、ビール飲みてぇ。」

「ダメですよ。車運転するんですから。」

「わかってるよ。」

タキはビールを飲みたい気持ちを抑え、ラムネを飲んだ。

その時、タキはフッと笑った。

「タキさん?」

恵海は不思議に思い、首を傾げた。

「いや・・・俺、こんな大勢で飯食うの、久々でよ。なんか妙に嬉しいっていうか・・・」

「そうですか。」

タキにつられ、恵海も笑った。

そしてタキは皆が和気藹々と話しているのをつまみに、ビール・・・ではなく、ラムネを飲んだのだった。



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