第6話
「あ~、あっちぃ・・・」
日曜日・・・この日海里達はどこにも行かず、談話室でダラダラ寝転がっていた。
「そういやもうお盆かぁ・・・そりゃ暑くもなるかぁ・・・」
「あっついよぉ・・・」
「台湾も相当だったけど、日本もすごいネ・・・」
皆、暑さに参ったのか口数も少なくなってきた。と、その時。
「オラッお前ら!ダラダラしてねぇで外出て遊んでこい!」
タキが現れ、海里達を叱咤した。
「うるせぇな・・・昭和の親父じゃあるまいし。」
「うるせぇよ!俺は平成生まれだ!じゃなくて、ダラダラしてないで何かしろよ!勉強とか、ゲームでもいいから!」
「え~、ゲームって・・・ここ昔の奴しかないじゃん。」
「タンポポ」の談話室にはテレビがある。そのテレビ台の中にはゲーム機が置かれていた。前に住んでいた学生が置いて行った物だ。しかし、そのゲーム機は一昔前の世代のものだった。
「今時、ポリステ2って・・・今はポリステ4とか5の時代だぞ。」
「知るか!置いていった奴に言え!」
タキはまたしても叱咤する。と、その時、タキのスマホに着信が入った。
「ゲッ・・・」
タキはスマホを見るなり、顔色を変えた。うんざりしているような顔つきだ。
「あー、もしもし。」
タキは恐る恐る電話に出た。
「なんだよ、ババア。いちいち電話すんな!・・・あぁ?大丈夫だって!ちゃんとやってるっての!・・・は?たまに顔見せろって・・・!ああ、もう!わかったよ!今から行く!じゃあな!」
しばしの会話を繰り広げ、タキは通話を切った。そして深いため息をついた。
「はぁ~~~・・・俺、出かけてくる。」
「えっ、何?女?」
「アホか!遅くなるかもだから、飯テキトーに食っててくれ。」
タキはそう言いながら足早に出て行ってしまった。
「・・・集合!」
タキが出て行ったのを見計らい、キラリが声を上げ、その一言で全員談話室のテーブルで顔合わせをした。
「さっきの電話・・・誰からだと思う?」
「ババアって・・・言ってたよな。」
「もしかして、お母さん?」
「あー、あの人の性格ならババアって言いそうだネ。」
4人はあの電話はタキの母からの電話で、「実家に帰ってこい」という話だったのではないかと予想した。
「ねぇ、ついて行ってみない?」
「え?」
キラリは突然提案をしてきた。
「私たち、タキのこと全然知らないじゃん?あの人自分の過去とか話さないし。」
「確かに・・・あっ、もしかして、タキさんお見合いするんじゃないノ?」
『お見合い!?』
ヂーミンの突然の一言に海里と恵海が声を上げた。
「タキさんがいつまで経っても結婚しないから、親が痺れを切らして結婚相手を紹介するとか・・・」
「行くぞ。」
海里は突然立ち上がった。
「え?」
「いいから行くってんだ!」
怒鳴り声をあげて仕度を始めた。別に人に言ったわけではなく、自分自身でも確信が持てなかったが、海里はタキに好意を寄せていた。
(タキさんがお見合い・・・気になる!)
恵海も立ち上がり、仕度を始めた。恵海もまた、タキに対して好意を寄せていたのだ。
それに続くようにキラリとヂーミンも仕度を整え、タキの尾行を開始したのだった。
タキは電車に乗って1つ先の駅で降りた。そこから町の中を歩き始める。
その後ろを海里達が気づかれないように尾行している。4人はサングラスとマスクと帽子を身に着けて変装している。
「・・・これ意味あるノ?」
「だって顔隠さなきゃ気づかれるじゃん?」
「そうだけど・・・怪しまれない?」
ヂーミンの言う通り、さっきから自分達の横を通り過ぎていく人たちがこちらを凝視してきた。
しかし、尾行相手のタキは全く気付かず歩き続けている。すると、通りかかったスーパーで足を止め、中へ入った。
「スーパー?何買う気だ?」
「お母さんにおみやげとか?」
海里達も中に入り、遠巻きに様子を見た。タキはお菓子コーナーで足を止めた。その中でもファミリーパック・・・50グラムのものが6袋や、4個入りのものが10袋といった、いわゆる小袋に分けられたお菓子を見ていた。
タキはそれらを吟味し、数分かかってお菓子を選んだ。結局買ったのは、チョコが入ったものを4袋。一口サイズの煎餅が入ったものを5袋、さらに青果コーナーで見つけたリンゴも購入した。
「あれをお土産にするのかな・・・」
「まさか。いくらなんでも、親にあれを渡さないでしょ。・・・親戚が来るのかな?」
タキの行動に疑問を感じながらも、4人は尾行を続ける。
どれくらい歩いただろうか・・・と思うくらい時間が経ったとき、タキはとある雑居ビルの前で足を止めた。
「止まった!」
「30分歩いたけど・・・ここは・・・?」
タキは雑居ビルを見上げ、中へ入って2階へ上がった。2階には窓に「
「探偵事務所・・・?タキの奴、何しにここに・・・」
4人はこっそりと2階に上がり、聞き耳を立てて入り口のドアに耳をくっつける。
「やあ、久しぶりだねタキ。」
「よっ!」
中からかすかに声が聞こえてくる・・・
「今日はどうしたんだい?」
「いや、ババアが『少しは顔見せろ』ってうるさくてな・・・なぁ、宗太。一緒に来てくれよ。」
宗太と呼ばれた男性はフフッと笑い、コーヒーを入れ始めた。
「行きたいのは山々だけど、探偵としての仕事が忙しくてね。」
「そんなに儲かるのか?探偵業。」
「世界に不幸がある限り、仕事もある。そのおかげで飯が食える。」
「不幸ある限り、か・・・」
コーヒーを飲みながら、タキは天井を見つめ、物憂げな表情を見せた。
「なんか、そんな世の中悲しくねぇか?」
「何らしくないこと言ってるのさ。」
宗太は笑い、タバコに火をつけた。そしてタバコをもう1本取り出し、タキに差し出した。
「悪い、俺タバコやめたんだわ。これでもガキを預かってるからな。俺のタバコのせいで不幸にさせたくねぇ。」
「そうか・・・」
宗太はまた笑って、タバコを灰皿に置いた。
「ところで、今日は誰かと一緒に来ているのかい?」
宗太はそう言いながら、入り口のドアに近づき、勢いよく開けた。
『あっ』
あっさりと見つかってしまい、海里達は声を上げた。
「・・・なんでついて来たんだよ!?」
海里達は探偵事務所の床に正座され、タキから説教を受けた。
『いや、気になって・・・』
「だからってなぁ・・・・」
「まぁまぁ、タキ。いいんじゃないか?そう目くじら立てなくても。」
宗太は説教をするタキをなだめると、ポケットから4枚の名刺を取り出し、海里達に差し出した。
「こんにちは。私は須央探偵事務所所長、
にっこりと笑う宗太に、海里達はペコリと一礼し名刺を受け取った。
「へぇ、タキってこんなイケメンな友達いたんだ。」
「そうだネ。もっと癖の強い人ばっかりかと・・・」
「うるせぇ!大きなお世話だ!」
タキは怒鳴り声を上げた。その隣で宗太はクスクスと笑っていた。
「こいつは俺と同じ施設で育ったんだ。そんで小、中、高で学校も同じでな。」
「施設?」
宗太のことを紹介したタキだったが、ある一つの単語が4人に引っ掛かった。
その時、タキは「しまった」と気持ちを顔に出してしまった。
「タキ、隠してたのかい?」
クスクスと笑いながら、宗太は呟いた。タキは何も言わずに黙っていた。
「これはもう、言うしかないんじゃないか?」
「・・・そうだな。お前ら、ついてこい。」
タキは4人を連れて探偵事務所を後にした。
そしてバスに乗って丘の上へにある、とある施設へ向かった。
「ここは・・・」
たどり着いたのは児童養護施設だった。名前は「タンポポ園」。
「あっ、タキおじさんだ!」
その時、施設の子ども達が一斉にタキの元に集まってきた。
「おお、みんな。元気してたか?」
「うん!僕ね、逆上がりができるようになったんだよ!」
「私はねー!テストで100点取れたよ!」
子ども達は我先にタキに褒めてもらおうと喋りだす。施設の子ども達は幼稚園や小学生くらいの子どもが多く、その中には中学生ほどの子もいた。
その子ども達の頭を撫でながら、タキは先ほどスーパーで買ったお菓子を取り出した。
「よーし、そんなすごい子達にはお土産だ!」
『わーっ!やったー!!』
お菓子のお土産に大喜びする子ども達。
「相変わらず大人気ですね、タキさん。」
その時、横からポニーテールの保母が現れた。
「おっ、レイナ!」
「お久しぶりです。こっちの子達は・・・?」
レイナは不思議そうに海里達を見た。
「ああ、俺がやってる下宿のガキども。それより・・・ババアはいるか?」
「園長でしたら、園長室にいますよ。」
「そっか・・・あっ、これ。」
タキはお菓子と同じく、スーパーで買ったリンゴを渡した。
「職員のみんなで食ってくれ。」
「はい、ありがとうございます!」
リンゴをレイナに渡し、タキは4人を連れて施設の中へ入った。
慣れた足取りで奥へと進み、木で作られたドアの前で立ち止まる。タキはその場で息を整え、ドアをノックする。
「開いてますよ。」
その一言を聞き、タキはドアを開けた。
「真一ッ!!」
タキが中に入るなり、女性の声が部屋に響く。
「アンタって子は顔も見せないで!」
怒鳴り声を上げたのは白髪を生やした初老の女性だった。気品漂う理知的な女性に見えるが、先ほど怒鳴りから、怖い印象も漂う。
「この・・・ババア!入ってくるなり怒鳴るんじゃねぇ!」
タキも負けじと叫ぶ。
「ババアとは何事ですか!そんな汚い言葉ばかり使って!」
「うるせぇ!このヒステリックババア!」
「また汚い言葉を!いい加減に・・・!」
その時、園長はタキの後ろにいた海里達に気づいた。
『ど、どーも・・・』
その後、落ち着きを取り戻した園長は海里達にお茶を出した。
「ごめんなさいねぇ、みっともないところを見せてしまって・・・」
園長は申し訳なさそうに笑い、謝罪した。
「い、いえ、お気遣いなく・・・」
「私、園長の滝沢優子と申します。」
「滝沢・・・」
園長・優子の苗字を聞き、4人はタキの方を見た。
「ああ、俺の苗字はババアからもらったんだ。」
タキは不機嫌そうにプイとそっぽを向きながら答えた。
「真一!話すときは相手の顔を見る!」
「ふん!」
タキはその場から立ち上がり、部屋のドアに手をかけた。
「コラ!どこへ行くの!?」
「顔は見せたんだからもういいだろ?・・・子ども達と遊んでくる。」
そう言って、タキは部屋から出て行った。
「まったく、あの子ったら・・・」
優子はため息をついた。その時、キラリが尋ねた。
「あの、タキ・・・滝沢さんって昔はどんな子だったんですか?」
「あの子からは、何も聞いてないの?」
「いえ・・・昔のことは話してくれません。」
「そう・・・どこから話した方がいいかしら。」
優子は物憂げな表情でお茶を飲み、一息つく。そして、ゆっくりと口を開いた。
「あの子は・・・赤ん坊の時、捨てられたの。」
『えっ・・・!!?』
4人は一斉に声を上げた。
まさか、あのいつもニコニコして、時々怒って、怖い物などなさそうなあのタキが・・・捨て子だった。その事実に、4人はハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
「28年前・・・あの日は雨が降ってたわ。園の入り口から赤ん坊の泣き声が聞こえて、見たらそこに赤ん坊がいたの。毛布を敷いた段ボールに入れられて、そこで泣いていたの。書き置きがあって『名前はシンイチです。この子をお願いします。』とだけ書かれててね。」
それから、優子はタキの過去を話し始めた。
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