第3話

 ある日、小学校5年生だった私は、いつも仲良くしている三人に呼び出された。笑いながら、トイレに来て欲しいと言う。少し嫌な予感はしていた。最近、私についての嫌な噂を流しているのを見ていたからだ。


 当時の私には3年生の頃からずっと好きな男の子がいて、態度に出やすかった私の恋心は学年中のみんなが知っているのではないかというくらい、周知の事実だった。そうなったのは、噂を信じるなら、私とその男の子が両思いだったことも影響していると思う。


 大人しく、引っ込み思案だった私がクラスの男子と話ができるようになったのはその男の子のおかげで、明るく笑う一面を覗かせるようになった私を、みんなが応援してくれていると思っていた。

 他の男の子と仲良くしていても、私の好きな人はみんな知っているのだから、変な誤解をされることはないと思っていたのだ。


 そんな私の、独りよがりのお花畑な思考回路は現実とは全く違っていた。いや、合っていたとして、誤解していなかったとしても、不愉快な気持ちにはなるだろう。

 きっかけは、リーダー格の女の子の好きな人が、私に告白をしてきたことだった。自習時間にクラスの時間割表を教室の前方で作っていた私は、隣の席の男子に腕を引っ張られ、強引に自席に戻された。すると隣には違う男の子が座っていて、「好きです」と告げられたのだ。

 当時は知らなかったのだが、その彼がリーダー格の女の子の好きな人だった。彼女とは家が近く、毎日一緒に下校していて一番仲がいいと思い込んでいたのに、その恋心を知らされていなかったのだから、何というかお察しだ。

 告白してきた彼は、素行の悪い、私にとってはあまり関わり合いたくないタイプの人だった。ただ、見た目が良かったこともあり、悪ぶった子に憧れを持つ女子からは絶大な人気を誇っていた。

 そんな彼の告白を罰ゲームか何かだと思った私は、不愉快そうに「それで?」と返した。別の男の子のことが好きな私に、彼が真剣に告白してくる訳がないと思ったのだ。


 私のその生意気な返しが気に食わなかったのか、告白されたこと自体か、はたまたこの話を誰にも話さなかったのが悪いのか。とにかくこの事が、件の女の子の不興を買ったことは間違いない。

 後は、私とよく話す男の子のことを好きな女の子を味方につければ、いじめなんて簡単に始まる。この頃の女の子の好きな男の子は、同学年の数名に集中するものだ。


 放課後遊んでいて怪我をして、助けて欲しいと家に電話したのに来なかった。

 あの二人、いちゃついてると思わない?

 あの子、男子とばっかり話するよね。


 目の前で噂を広められているのを見ていた。習い事に行っていて行けなかった。ただ話していただけ。教科書を見せてもらっていただけ。面と向かって言われないから、訂正する手段もない。


 だけど、どこかでぼんやり思っていた。このグループは抜けた方がいいかもしれない、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る