第2話
小学生の頃、二週間だけ虐められた。小学生の思い出は、今となってはこれくらいだ。
なぜ二週間で終わったのか、それは、私がすぐに違うグループへ移動したからだと思っていた。直接嫌がらせをしてきたのは、当時一番仲の良かった三人で、目立つ子たちではあったけれど、クラス全員を味方につける事はできなかったのだ。
私は、つい最近までそう考えていた。でも真相はきっと違う。三人のうちの一人が、二週間後に話しかけてきたのだ。ただ私の名前を呼んで、「おはよう」と目を見て言ってくれた。それだけだ。
だけど彼女にとっては、どれほど勇気がいったことだっただろう。私はすでに移動した先で楽しくやっていたので、その頃にはもう嫌がらせを受けてはいなかったし、その三人には近づかないようにしていたくらいで、実害は何もなかった。
それでも、話しかけてくれたことによって、いじめの終息を知ることができた。そして、私の自尊心はこの事によって保たれたように思う。
私はその後、クラスの誰に話しかけても、誰と仲良くしても、何ら問題は起きなかったし、むしろ世の中をうまく渡りきった気がして晴れ晴れとした気持ちで小学校の卒業式を迎えた。
反対に、私に話しかけてくれたその子は、その後いじめにあい、あろうことか私もそれに加担した。当時の私は何も気付いておらず、ゲーム感覚でしかなかったが、彼女がいじめられたのは、私に話しかけたことがきっかけだったのではないか。
最近ふと、そのような考えに至った。確かめる術はないが、俯瞰して考えれば至極当然の道理であろう。
私は、この当たり前の事実に気がつく事なく、その後20年ばかりを阿呆の如く生きてきたのだ。自分の力を過信して、いじめですら二週間で終わらせたのだと、私は生きるのが上手いのだと、それはそれは阿呆の如く。
私を救ってくれたその子は、卒業後、私立の中学校へ行った。私が通った公立と変わらず、私たちの住んでいるところから徒歩圏内の女子中学校だ。偏差値が高いわけでもなく、進学校なわけでもない。何を目的にわざわざそこへ入学するのか、そのよく分からない中学校へ行くことを決めた彼女と、卒業後に会うことは一度もなかった。
高校生か、大学生だったか、自分の人生が思うようにいかなくなってきた頃、彼女へのいじめに加担していた事を思い出し、彼女の祖母が営んでいたおでん屋さんを訪ねたことがある。
だけどそのおでん屋は知らないうちに無くなっていて、彼女の実家を辿ることもできず、今に至る。
この時、仮に彼女と会えていたとしても、当時の私ではきっと、彼女の気分を害すことしかできていなかっただろう。
彼女は、私を守り、その結果私よりひどいいじめを受け、みんなとは違う学校へ行かざるを得なかった。きっとこれが、あの時起こった事実なのだろうと思う。
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