幽霊マンションの怪

 私たちはグリモワールをログアウトして、再び外に出る。

 目的のマンションはそう遠くない。徒歩で10分15分くらいだ。


「行ったら何かあるのかなー?」

「どうだろうね、私は小説のネタになったらいいなって思ってるけど」

「そういえば東城ちゃんって小説書いてるんだよね。探偵のイメージ強くて小説家のイメージあんまりないけど」


 痛いところを突いてくる。

 結構気にしているところだ。そりゃ、探偵系Vを名乗っているのだから、小説家のイメージが先に来ることはないのはわかっているのだが。


「そうなんですよ。なので今度別ペンネームで本出すんですけどね」

「TJはさー、そもそも本の宣伝のためにVTuberになったのに、VTuberのキャラが強くなり過ぎたから名前変えて出すって変なことしてるよねー」


 リンちゃんも痛いところを突いてくる。

 なんなのだ、お前らは。私はちょっと傷ついているぞ。


「どうせニコファンは一部の熱狂的な人以外は本買わないから」

「グッズは売れてるんでしょー?」


 おいおい、私泣くぞ。


「売れてるらしいね。姫咲先生が増産が追いつかないって悲鳴あげてたよ。そりゃ、一流イラストレーターがママなんだから、私のファンじゃなくても買うわ。めっちゃ出来良いし」

「あたしはちゃんと本も買うからね」

「見本誌あげるって。築地さんにもあげますね」


 しかし、この人もマッキー並みに背高いな。170はなさそうだけど。

 築地さんと話す時は少し顔を上げることになる。


「ありがとー。で、東城ちゃんはどんなの書いてるの?」

「次出るのはホラーなんですけど、三角形の変な形の部屋に赤い服を着た女性の幽霊が出るっていう……」

「えー、今まさにそんな感じだね」

「そうなんですよ。なのでまた小説のネタになるかなって。ちょっとワクワクしてるんですよね」


 今、直面している謎は私の書いた小説の状況によく似ている。


「あそこのマンションじゃない?」


 築地さんが指さした先にはそんなに古びているようにも見えないが、たしかに奇妙な形のマンションが聳えていた。


「あぁ、敷地の形がちょっと変なんですね。台形っぽいというか。ここに無理やり建てたから、三角形なんだ」

「そういうことかー。あたし、家賃安かったとしてもここはちょっと嫌だなー」

「私もだな」


 そしてマンションの入り口まで来たとき……。


「まただ」


 今度はマンション手前の地面にチョークで数字が書かれていた。


 〇3〇-8-●●


「すみません。ちょっとどいてもらっていいですか?」


 住人と思しき女子大生に話しかけられる。

 私たちが三人並んで地面を覗き込んでいたので、エントランスを塞ぐ形になってしまっていたのだ。


「あ、ごめんなさい」「ごめんね」「すみませーん」


 私たちは道を空ける。しかし、女子大生はマンションに入らない。


「なにか落ちてましたか?」

「あぁ、いえ。ここになんて書いてあるのか見てただけです。もう行きますから」

「あー、その数字……なんか赤い服着た幽霊みたいな女の人が書いてるの見ました」

「え?」


 私の書いた小説にいくらなんでも状況が似すぎてない?

 いったい……どういうこと?

 

―――――――

 私の商業デビュー作『夜道を歩く時、彼女が隣にいる気がしてならない』の発売が迫ってきました。

 変な三角形の間取りのマンションに赤い服の幽霊が出るというお話です。

 今回はその作品のパロディ回になっています。是非とも書籍とあわせてお楽しみいただけると嬉しいです。

(Amazonの予約ランキングが地の底を這っておりまして、ここ最近全然売れている気配がなくてしょんぼりしているのでご予約いただけますと幸いです)


https://www.kadokawa.co.jp/product/322210001442/

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