血文字の暗号

 調べてみると大学の建設予定地の他にもVR電子書店などもできるらしい。


「このあたり学生街になるみたいね」

「リアルの高田馬場みたいにするんですかね」


 グリモワールは歪な形状をしているのでリアルでいうとどのあたりになるのかというのはパッとはわからないのだが、新宿区で学生街というと高田馬場あたりをイメージしているのかもしれない。


「リアルの馬場はゴミゴミしてるからもうちょっと綺麗な街並みにしてほしいなー」


 リンちゃんはそう言うがサイバーパンク好きな私は馬場のような雑然とした感じが好きだったりする。


「リンちゃんはギャル文化好きなんだから、渋谷好きでしょ? あそこもたいがいじゃないですか?」

「えー、馬場とは全然違うよー」


 違わねーよ。むしろ渋谷の方が人でごった返してるだろ。


「わたしも違いはわからないなぁ。あとわたしは歌舞伎町に住んでたこともあるから、馬場なんて綺麗なもんだと思うけどね」


 歌舞伎町の雀荘で打ってた女はまた感性が独特だ。


「あ、ついたよ。ここが不動産業者から紹介されたとこ」


 VR上の建物は外観と内部がまったく違うということはよくある。

 しかし……。


「ボロくないですか?」

「うん、なんか幽霊出そうー」

「出るらしいよ」

「出るのかよ! じゃない、出るんですか!」

「ニコちゃん、わざわざ敬語で言い直さなくていいよ」


 こともなげに言う雀姫お姉さんに思わずため口でツッコんでしまう。


「でもVRで幽霊っていうのも変な話ですけどねぇ」

「とにかく入ってみようよ。入室パスは3人分もらってあるんだ」


 パスを付与してもらい、私たちはこのボロい雑居ビルに足を踏み入れる。


「中もボロいですねぇ」

「なに目的のビル?」リンちゃんも首を傾げる。

「配信で使いやすいところっていうリクエストで何件か見繕ってもらったんだけどね」

「雀姫さんの使ってる不動産屋ヤバいとこじゃないですか?」

「かもねー」


 グリモワール運営の下請け不動産屋はピンキリだ。

 当然、VRサービス開始当初から絡んでいる企業は高級かつ優良物件を多数扱わせてもらっているらしいが、こういうところばかりを管理する企業も当然ある。

 担当者も同行しないくらいだ。


 そして指定の201号室に入室すると……。


「きゃー」

「ひっ」

「きもいですねぇ」


 私たちは三者三様で思わず声が漏れる。


 壁には血のような赤い文字で謎の数字が描かれていたのだった。

 2-5〇-〇〇


 不動産屋の管理ほんとにどうなってんのよ。


「不動産屋にクレーム入れておく」


 お姉さんも顔を顰める。前の住人がやったにしてもこういうのはちゃんとデータ修復しておくべきところだ。

 そして、部屋の間取りも変だ。

 なんか三角形の部屋になっている。もとからこういう形なのかカスタマイズされたものなのかはわからないがとにかく使いにくそうである。


「ニコちゃん、これ何かな?」

「住所じゃないですか?」


 最近、忘れがちだが私は名探偵なのでこういう数字とかを見ると相手の意図が読めてしまうのである。


「たぶん……VRじゃなくてリアル側に対応しているんだと思います」


 私は新宿や高田馬場あたりでこの番地に該当する場所を検索する。

 そこには三角形の間取りの不気味な雑居ビルが表示されたのだった。


「ログアウトして行ってみましょうか」

「えー、怖いー」

「面白そうね」


 2対1で、一旦ログアウトして我々はその不気味な雑居ビルへと向かうことにしたのだった。

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