VR上のあの空き地は……

 私達はVR空間グリモワールに降り立つ。

 カブキシティのVRカフェから三人同時に出る形だ。


「やっぱりこっちのアバターがしっくりくるわ」


 築地あさひさんこと、雀姫(ジャンキー)さんの姿はパッと見は麻雀対決のときとベースとしては変わらず、二本ツノにチャイナドレスの美人さんだ。

 しかし、ディテールはかなり細かい。ドレスの柄の龍とかちょっと動いてるし。

 あ、目が合った。何この装飾、お金かかってるなぁ。


 リンちゃんはいつも通りのピンク髪に平成ギャルスタイル、私は黒髪ボブの探偵ガールだ。

 あんまり相性が良さそうな組み合わせではないけど、リアルだと仲良しなんである。


「じゃ、スタジオ探しに行こうか」

「「はーい」」

「実はわたしのグリモワールのマンションもカブキシティにあるんだよね」

「VRには家あるんですね」

「リアルと違うからねー。別に引っ越したりしないし。ちょっと奮発して買っちゃった」


 このギャンブルマスターの奮発が幾らくらいを指しているのか謎だがちょっと訊く気にはなれなかった。


「不動産屋さんから幾つか候補の物件ピックアップしてもらったから、

回りましょ」


 雀姫さんは仮想ウィンドウでMAPを表示する。


「場所ってこのあたりにするんですか?」


 私が訊ねると彼女は頷く。


「やっぱり歌舞伎町のごちゃごちゃした感じがわたしには合うからね。リアルでも一番土地勘があるのが新宿なの」


 グリモワールはリアルの東京23区に近い構造になっている。

 縮尺そのままの街もあれば、広かったり狭かったりする。人気の街はサイレントで拡張されていたりする。


 私たちがカブキシティの端に差し掛かったとき――。


「あれ、ここなんか出来るんですかね」


 これまでになかったかなり広い範囲が塀に囲われ「建設中」の立て札がかけられている。


「VRで建設中って変なのー」リンちゃんが笑う。

「とりあえず場所だけ確保して、デザインとかプログラムとかやってる間を建設中ってことにしてるんでしょうね」

「なになに……うちの大学の名前だー。グリモワールキャンパスだって。VRで講義受けられるようになるのかなー?」

「え?」


 私はすぐに大学の公式サイトを表示し、リリースを確認する。

 そこにはうちの大学が世界中から学生を募るため、グリモワールと提携し、キャンパスをVR内に作るということ、そして……試験に合格し、学費さえ納めるのであればAIも聴講生として学生となることを認めるという。


「ぴーちゃん……」


 私はぴーちゃんと同級生になれるのかもしれない。彼女の夢がまた一つ叶う日が来るのだ。技術が発展するのは良いことばかりではない。AIに仕事や夢、やりがいを奪われた人たちもいる。

 でも私は技術の進歩に今は感謝したいと思った。


「ニコちゃんどうしたの?」

「何か目にゴミでもはいっちゃった?」

「いえ……なんでもありません。行きましょう」


 VRアバターは涙を流さない。

 

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