配信用の物件

 私の家には二人分のVR機器しかないし、三人でVRカフェに行くことにする。


「リアル側でもVR機材置いておけるスタジオとして使うマンションとか借りようかな」


 築地お姉さんがそんなことを言う。


「自宅はダメなんですか?」

「ホテル暮らしなのよ、わたし」

「あー、海外に住んでたんですもんね」

「別に外国に家があるわけでもないんだけどね。海外のカジノってわたしくらいの太客になるとホテルのスイートルーム勝手にとってくれるのよ」


 私はそういうことも知識としてはあったが、それがどんな感じなのかは想像つかない。


「へー、すごーい。あたし、スイートルームなんて泊まったことないや」

「私もだよ」


 この間、2億稼いだはずなのだが、結局のところ私たちは貧乏女子大生なのだ。

 まぁそれでいい気がする。

 藤堂ニコがリアルでもVRでもスイートなルームでふかふかのソファに転がって安楽椅子探偵やってたらイヤ過ぎる。

 いや、ちょっと面白いけど、推せないだろう。

 探偵事務所みたいな部屋で推理して、結局自分の足で調査に行くのが私にはお似合いだ。


「無駄に広いだけだよ。スイートルームなんて。それに殆どカジノでプレイしてるんだから、ホテルの部屋でゆっくりしてる時間なんてないからね。ちょっと休憩とか、ポーカーテーブルの空きが出るの待ってる時間くらいかな」

「でもベッドとかふかふかなんじゃないですかぁ?」

「殆ど寝ないのよ。カジノギャンブラーって。24時間いつ卓が立つかわからないし。空きが出たらすぐ行くから」

「すごい世界ですね」


 私も睡眠時間はコントロールが利く方だが――毎日3時間睡眠でも特に支障はないが、寝ようと思えば12時間でも寝られる――24時間ずっと気を張って、いきなりゲームがスタートしてすぐに集中できるかといわれると難しい気がする。

 この人はこれまで出会ってきた人たちとはまたちょっと造りというか機能が違う感じがする。


「まぁ、でももうアラサーって年齢も過ぎちゃったし、今はVRの方が強いプレイヤー多いからね。お金も貯まったからもういいやって感じよね」

「あたしと一緒に新しいチャレンジですもんねー」

「そうね。あとこれから相棒になるんだから、敬語じゃなくていいよ。ちょっと歳の差あるけど」

「おっけー」


 受け入れんのはえーな、ピンクギャル。


「私は敬語でいいですよ。距離感っていうかやっぱり単純になれないので」

「東城ちゃんはそういうと思った」


     ※


 そして私たちはVRカフェに入る。

 前にマッキーと一緒に来た駅前の雑居ビルに入ったテナントだ。


「ここはお姉さんに奢らせてね」

「ありがとうございますー」


 築地さんはカプセル状の一般ブースと違う四人部屋をとってくれた。


「個室って初めて。広ーい」

「ホントだ。VR格闘とかスポーツができるような機材も揃ってるんだね」


 私たちは物珍し気に部屋の中を見渡す。


「ま、今回はわたしとリンちゃんのスタジオ物件探しだから、個別ブースでもよかったんだけど、あれちょっと寂しいからね。みんなでここでやろ」

「「はーい」」

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