そして二人は……

 私とマッキー、リンちゃんは大学近くの喫茶店で三人で集まっていた。


「うー、緊張するー。麻雀より緊張するー」

「そんなわけないでしょ。絶対麻雀の方が緊張するから」

「と思うじゃん? TJが絶対なんとかしてくれるって信じてたから意外と緊張しなかったんだよねー」


 マジかよ。私のこと頼り過ぎでしょ。


「あんまりTJに負担かけすぎちゃダメだよ。鋼メンタルって言っても限界あるんだから」


 マッキーが呆れ気味に言うが、お前も私にわけわからん勝負を挑んでストレスをかけてきた側なのだぞ。

 なんかしれっとなかったかのように言っているが。


「で、エラ君こと日比谷藍ちゃんってどんな人?」


 マッキーがまた甘くしたいんだか苦くしたいんだかよくわからん飲み物が入ったカップを回しながら言う。


「リンちゃんはリアルで会うの今日が初めてだからねぇ。マッキーと一緒に行ったホストクラブ以来だし、どんな人か知らないんじゃない?」

「これから知ってくからいーの」

「どんな人か知らないのに2億もあげたの? 別れる時、金返せってなりそう」

「ならないよー。運命の相手だからね。そもそも別れないし!」

「どうだかねー」


 リアルでもピンク髪のギャルはなんだか強がっているように見える。緊張しているのだろう。

 私にはわからない感覚だ。小説に恋愛要素を入れることもあるが、書きながらこんな風にはならない。


「ここに来るの?」

「ううん、あそこの銅像の前に呼び出した」

「お店まで来てもらえばよかったのに」


 マッキーはそう言うがそれはダメだ。


「私が藤堂ニコってことは秘密だから。借金の話聞くのも全部VR上で済ませたよ」

「まぁ、あんたたち二人並ぶとまんまニコ&リンだからね」

「だから、リンちゃんさ、エラ君と合流したらこっち来ずに二人でどっか行ってね。直接お礼言いたいとか言い出すかもしれないけど拒否だから」

「わかったー。やっぱり額が額だから直接お礼言いたいかなって思ってたけど、TJが嫌なら我慢してもらうよ」


 リンちゃんもうっかりVR上で私をあだ名で呼びそうになったり抜けたところがあるが、エラ君も嘘がつけないやつだ。

 リアルで正体がバレるリスクが上がるのはご勘弁願いたい。


「あ、エラ君だ」


 リンちゃんが言う。

 銅像の周りには複数人がいる。

 私にはどれがエラ君だかわからない。21歳女性ということしか知らないのだ。

 と、スマホをみるとエラ君から「着きました」というメッセージが届いた。


「ホントに? 写真のやりとりとかしてたの?」

「してない。でもわかるよ」


 マッキーも半信半疑で首を傾げる。


「まぁ、どの人のこと言ってるのかわからないし、間違ってたらごめんなさいすればいいだけだからね。行っておいでよ」

「ここの代金はわたしが奢ったげるから、ほら行きな」


 私とマッキーはリンちゃんを促して立たせる。


「ありがとう! 行ってくる」


 リンちゃんは鞄を手に取ると駆け出した。


「TJはどの人がエラ君だと思う?」

「わっかんないなぁ。あのピンクのカーディガンの子かな」

「じゃあ、わたしはちょっと離れたところにいる青いジャケットの人」

「あー、あるかもね。それっぽい」


 リンちゃんは真っ直ぐに銅像に向かって走っていく。


 そして……。


 黒いジャケットを羽織った背の高い人に抱きついた。

 パッと見、男性かと思っていたがどうやらあの人がエラ君らしい。


「二人ともハズレだったね。確かによく見ると女の子か。イケメン過ぎてわかんなかった」

「そうだね」


 リンちゃんと日比谷藍は二人で泣きながら抱き合っている。


「帰ろっか」

「そうだね」


 私たちは二人を尻目に映画でも観に行こうかなんて話をしながら駅に向かう。

 ハッピーエンドならそれでいい。あの二人がこの後どんな話をしたかなんて興味ない。


 私から言えるのはただ一つ「よかったね」。

 それだけだ。


――――――――――――

 というわけで、VRのシンデレラ編本編はこれでおしまいです。

 近日中に番外編やニコちゃんが『夜道を歩く時、彼女が隣にいる気てならない』の刊行にあたって久々に実家に連絡する話を書く予定です。


『夜道を歩く時、彼女が隣にいる気がしてならない』の予約受付は先日スタートしておりますので、皆さまこの勢いでポチッとやっていただけると幸いです。

 https://www.kadokawa.co.jp/product/322210001442/


 KADOKAWA公式サイトの紹介ページ貼り付けておきます。

 是非、ニコちゃんへのスパチャ感覚で1冊お買い上げいただけますと幸いです。


 まだ装丁は公開になっていませんが本作のヒロインはニコちゃんが自分をモデルに書いてるという設定もありまして(小柄で暗い髪色ボブカット)、リアル側のニコちゃんってこんな感じの見た目なんだとわかるというギミックもあります。

 赤い女という怪談がモチーフになっているので着ている服は赤ですが。

 近日中にカバーイラストが公開になると思いますのでこちらもどうぞお楽しみに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る