みんなのもとへ――

 最後にパブリックビューイング会場に顔を出す。

 といってもリアルの肉体は自宅のまま、グリモワールをログアウトして、パブリックビューイング会場の裸眼立体モニターに投身するだけなのだが。


 そしてモニター上部についているカメラの映像とマイクの音声がヘッドセットとリンクする。

 と同時に視界が明るくなり、わーーーーーーーーーと歓声の波を受け止める。


「すごかったぞ!」

「ニコちゃんおめでとう!」

「リンちゃんもよくやった!」

「彼氏とお幸せに!」


 そんな声が聞こえてくる。視界の端に表示したコメント欄も祝福のメッセ―ジとスパチャが溢れる。


 リンちゃんと私がそのポジティブな感情の波を浴びているところに、ぴーちゃん、じゅじゅ、フローラが駆け寄ってくる。

 もちろん、全員モニター内のアバターではあるのだが、本当にその肉体が寄り添ってくれているような温かみを感じた。


「おめでとうございマス。素晴らしい対局でしタ」

「ありがとうございます。ぴーちゃんの特訓のおかげです」

「ぴーちゃんいなかったあたしなんてルールも曖昧だったよ」


 ルールが曖昧なまま2億もらえる対局でちゃダメだろ。


「二人とも強かったですね。もうわたしじゃ太刀打ちできないかな」

「そんなことないです。今回はじゅじゅやみんなのおまじないが届いたおかげです」

「そうだよー、みんなの応援届いてた」


 国士なんてそれこそ元気玉みたいなものなのだ。

 あれを自分たちの実力だなんて思ってたら徳を失う。


「カッコよかった! やっぱりニコちゃんは天才だね」

「そうなんですよ、私は天才なので」

「フローラちゃんも応援ありがとねー」

「麻雀配信ブーム来そうなので、フローラもコラボに参加したかったらルール覚えておいてくださいね」

「ニコちゃん、相変わらず私にはきびしーなー。でも今日観てハマっちゃったからちゃんとみんなと遊べるようにルール覚えるね」


 フローラの応援も嬉しかった。ちょっとツンが出てしまうが内心のデレも伝わっているはずだ。


 あとは……。


「ニコー、リーン! おめでとー!! 二人とも愛してるよー」


 客席で興奮しているマッキーに手を振ってやると、マッキーもめちゃくちゃ手を振り返してくる。

 お客さんそして一人ずつの顔を見つめながら手を振っていく。


 そして――。


「配信で応援してくれた皆さんにも感謝を。ありがとうございました。応援してもらってるってわかってたから最後まであきらめずに頑張れました」

「みんな、ありがとー」


 私とリンちゃんが配信視聴者にもお礼を言って、イベントは終了となった。


「こんなに多くの人に応援してもらってたんだねー」

「そうなんですよ。リンちゃんにはあんまり言わないようにしてましたけど」

「わかってたら良いところ見せようとして変な打ち方になっちゃってたかも」

「だと思ったので」

「ニコちゃんの推理力は果てしないねー」


 今日はあまりにも疲労が大きいだろうと気を遣ってもらい、打ち上げはまた後日ということになった。


     ※


 ヘッドセットを外した瞬間、私は自分の中にため込んでいた感情がポロポロと溢れてくるのを感じた。


 私はベッドに突っ伏して泣き出してしまう。


「うわーーーーーーーー」


 お腹も痛い。

 見たこともない桁の大金、そして人の人生を背負って、勝負したのだ。

 幾ら勉強ができて、推理力が人より長けていたって大学生2年生だ。

 そんなに人生経験があるわけでもない。

 ずっと怖かった。

 でも、みんなのためにやるしかなかった。


「うぅ、こわかった……こわかったよぉ」


 勝利した今もまだ負けたらどうしようという恐怖が付きまとい、手が震える。

 枕に顔を埋めて泣いていると、インターフォンが鳴る。


「マッキー……」


 私は涙を拭って、家に迎え入れる。

 真っ赤に泣きはらした目を見ても彼女は何も言わない。


「来ちゃった。ケーキ買ってきたんだ、一緒に食べよ。前、TJがすごい気に入ってたやつだよ」

「うん」

「お疲れ様。よく頑張ったね」

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