解決編 ロン、あなたの負けです。(後編)

 東四局 一本場

 私の親は続く。

 私は鳴きを駆使して、とにかく最短ルートでテンパイを取り――最後の選択だけ本来選ぶべき牌と逆を選ぶ。


「ロン。2900は3200」


「ロン。1500は2100」


「ロン。2900は3500」


 私はジョニーから和了り続ける。点数は安いが四局連続で狙い撃ちにすればそこそこの収入だ。親を連荘しているのでその分300点ずつ加算されていくのも塵も積もればなんとやらだ。

 これで私たちのチームは逆転した。


「どういうことだ! クソがよっ」


 サングラスのチンピラはVR卓を殴りつけるが、卓はビクともしない。

 これがリアルだったら雀卓が壊れていたかもしれない。

 リンちゃんはビクリと身体を震わせる。

 そりゃ怖いでしょうね。

 私もちょっと怖い。


 牌が配られ、対局が始まるが雀妖鬼は話をはじめる。

 特にゲーム性を損なわない会話(自他の牌に言及したり、口頭でのブラフ以外)であればエンタメとして許容されている。


「本当に頭悪いのね。幹部のメンツ丸つぶれね」

「うるせぇ。なんとかしろ!」

「わたしに何とかしてほしいなら、ピンクの子みたいに大人しくしてなさい。あなたが雑魚だってこと、もう探偵少女にはバレてるのよ」


 溜息交じりに雀妖鬼が言う。


「なに?」

「あんたが自分で選択してないってことが気づかれてるの。あの子が開けた手牌見たらわかるでしょ」

「なにがだ?」


 できればもうちょっとこのサングラスのチンピラから点棒稼ぎたかったが、お姉さんには気づかれてしまったようだ。

 ここまでか。


「はぁ。彼女はテンパイまでは最速で到達するように最高効率で打ってるけど、テンパイしたら明らかに損な選択をしてるの。点数が下がったり、待ち牌の数が減るようにしてるのよ」

「下手だからだろうがよ」

「だから、下手なのはあんたなのよ」


 下手なだけではなく頭も悪いらしい。詐欺の主犯はこの男ではないのかもしれない。


「そうですね。えーっとジョニーさん。あなた……AI使ってますね?」

「な、なに?」


 この対局は麻雀アシストAIがインストールされたアバターを使うことはできない……だが、ジョニーの選択はまるでAIのように正確だった。

 AIは常に効率優先だ。そしてそれは諸刃の剣でもある。

 相手もまた正しく打っていることを前提に計算するのでわざと損な選択をする相手には対応しきれないのだ。何度か対戦していれば私の癖として学習するだろうが一発勝負であれば良いカモでしかない。


「あなたのリアルでの写真を見ました。あなたは顔に大きな怪我を負ってサングラスをかけていますね。その時にもすでに違和感があったんですが、今日の大会での"正確過ぎる”打ちまわしを見て、確信を持ちました。あなたはリアルの人体側にアシスト機器を仕込んでいます。それはおそらく眼球でしょう」

「…………」

「証明の仕様がないのであなたをイカサマで運営に突き出すことはできません。VRグローブの件も考えれば運営側もグルで、AIがアバターにインストールされているわけじゃないから反則ではない、という裁定を下しそうな気もします。だから別にいいですよ、AIでもなんでも使ってください」


 私がそういうと鬼のお姉さんは満足げに頷く。


「ほらね。もうバレてるのよ。アシストAIの弱点も含め。だから……ここから先は大人しくしてて、わたしと探偵ちゃんの二人で決着をつける。余計なことしたら……殺すから」

「ちっ。わかったよ」

「ん?」雀妖鬼の視線が鋭く光る。

「わかり……ました」

「よろしい。あんたはもうただ放銃だけしないようにおとなしくしてなさい」


 そして――。


「ロン。1000は2200」


 お姉さんがダマテンの平和(ピンフ)を私から和了し、私の親が流れた。


 南一局。

「ちょっと本気出しちゃおうかな」


 麻雀に本気なんてものはない。本気を出したって配牌もツモも良くはならないのだ。

 だが――。


「ツモ。6000オール」


 雀妖鬼は自身の親で一気に18000点という大量加点をする。


「ニコちゃん……ヤバくない?」

「ヤバい……ですが、まだ私たち二人の親があります。今はこの親を全力で蹴りにいきますよ」


 そして、運良くリンちゃんに速攻のタンヤオ手が入っていたおかげで、これ以上傷を広げずに済んだが順位が最悪だ。

 この試合は同じチームメイトの順位が1着2着なら文句なしで勝利。1着3着でも高確率で勝利となるが2着3着、1着4着の組み合わせになった場合は持ち点勝負となる。

 今は雀妖鬼がトップ、私が2着、ジョニーが3着、リンちゃんが4着だ。

 このままの順位で対局が終了すれば相手チームの勝ちだ。

 ここからスピード勝負にされると非常にマズい。なんとかこちらの加点チャンスを逃さないようにしなければ……。


 しかし、相手は元トッププロで今は裏世界でのトップギャンブラーだ。


「ツモ。300、500」


「ロン。1000」


 あっという間にオーラス(最終局)になってしまった。


「まだ私の親があります。全員マイナスになるまで和了(あが)り続けますからね」

「あら、そう? 楽しみにしてる」


 私は自分の配牌を開く。

 ……ダメだ。遅い。

 和了ることができれば、12000点に仕上がりそうな手だが……間に合うか。

 敵チームの二人にバラバラの手牌が入っていてほしい。


 リンちゃんがそこそこ大きな手で3着浮上してくれてもいいのだが……リンちゃんの捨て牌は2~8の使いやすい牌がバラバラと切られていく。

 きっと配牌が悪かったのだろう。19牌や字牌といった相手にロンと言われにくい安全牌を集めて、ガードを固めている。


 万事休す。

 和了を目指すか、早い手に見せかけたブラフで全員下ろさせてもう一局やらせるしかない。

 しかし――。


「リーチ」


 ジョニーからリーチが入ってしまう。

 最後の最後に自分で決めに来たのだろう。

 しかし、その刹那。


「ロン」


 意外なところからロンの声が上がる。


「リンちゃん?」

「和了れそうだったから。へへへー」


 開かれた手は――


19一九①⑨東南西北白發中


 ジョニーが切った牌は發。


 国士無双十三面待ち。

 紛うことなき、役満だ。


「32000点。初めて役満和了っちゃった」

「リンちゃん! すごい」


 私は驚愕する。そうか、リンちゃんは手の中に端牌と字牌を溜めこむ進行だったから、運が向けば国士無双になる手作りだったのだ。

 ガードを固めていたからこそできた最強の役。


「イカサマだ! こんな都合よく役満が出て堪るか! 何億かかってると思ってんだ!」

「イカサマはあなたたちの方でしょ、AI使ってたんだから。どれだけ喚いても結果は変わりません……あなたの負けです」


――――――――――――――――――

 昨日もお知らせいたしましたが、私の商業デビュー作であり、本作の中でニコちゃんが書いたという設定の『夜道を歩く時、彼女が隣にいる気がしてならない』の予約受付がスタートしました。

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 是非ともニコちゃんへのスパチャ感覚で1冊お買い上げいただけますと幸いです。



 Twitterに告知も出していますので大変お手数ではございますが、RTでの拡散をお願いいたします。


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 今回のシンデレラ編の後に『夜道~』のお話も一本更新予定となっております。

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