解決編 ロン、あなたの負けです。(前編)

 25000点持ち30000点返し。制限時間あり。一定時間経つと自動的に最後に引いた牌が切られてしまう。(しかも持ち時間は同卓者同士で手牌のやりとりをするイカサマを防止するためかなり短い)


 東一局。

 戦いの立ち上がりは静かなものだった。

 全員配牌が悪く、和了(あがり)が出ず。私の一人テンパイで局が流れる。

 ノーテン罰符(テンパイできなかった者が払う1000点)を回収し、次の局へと続く。


「みんな、スロースターターなのかしら?」

「どうでしょうね」


 一人だけ大金がかかった勝負とは思えない優雅さの雀妖鬼が言う。



 東二局

 私は手が悪く、先手は取れないだろう。10点満点で手牌評価をするなら3といったところだ。チートイツに決め打ちしながら、下家の雀妖鬼の様子をうかがう。


「ん?」


 リンちゃんの捨て牌がかなり普通だ。

 そう普通。ということは和了れそうということか。


 基本的には安全牌を抱えていく進行だが、先手が取れたり満貫(8000点)以上が確定している場合はもちろん攻めてもいいという話にはなっている。


 門前手ならいいが、人の牌を使って和了を目指す鳴きが使える手だとしたら、リンちゃんより下家の私から有効牌でアシストすることは難しい。

 自力で和了りきって!


「リーチ」


 リンちゃんが千点棒を供託として場に出す。

 麻雀におけるリーチという役は得点が跳ね上がるオプションがついている最強の役であり、自分がテンパイしていることを宣言し、さらにリーチ宣言後は引いてきた牌は和了る時以外はすべてそのまま捨てなければならない(もう入れ替え不可)、さらに1000点を払わなければならない(和了れば回収できる)。

 それだけのデメリット負ってもなお強いのがリーチという役だ。

 初心者はリーチだけかけ続けていれば上級者ともそこそこ良い勝負ができる。


 私はリンちゃんのリーチに安心したが……。


「じゃあ、わたしもリーチしちゃおうかな。リーチ」


 角のお姉さんがリンちゃんに追っかけリーチをかけたのだ。

 ヤバい。

 なにがヤバいかというと巡目が早すぎて二人の待ちが特定できない。

 最悪、私がリンちゃんの当たり牌を出して、味方内で点数移動させるという緊急避難策が取れないのだ。


 くそぅ。


 とにかく、私は雀妖鬼には当たらないが、リンちゃんには当たる可能性がある牌を選んできっていく。嫌な感じだ。


「ロン」


 私の嫌な予感は的中し、雀妖鬼がリンちゃんからの和了だ。


「5200点ちょうだい」


 リーチ、タンヤオ、ドラ1で5200点+リーチ棒1本の失点で済んだのは不幸中の幸いだ。


「ニコちゃん、ごめんね」

「いいんですよ。満貫なくてラッキーでした。作戦は変えずにいきますよ」


 私がそういうと鬼お姉さんが嗤う。


「作戦ってピンクのギャルちゃんがガード固めて、探偵ちゃんが一人で頑張るって作戦? コンビ打ちでそんなことしてて勝てるかなぁ」


 作戦はバレバレであった。


「違いますよ。役満直撃してあなたをやっつける作戦です」

「あはははは、素敵な作戦ね。がんばって」


 めっちゃバカにされたがやるしかない。



 東三局。リンちゃんの親は流局で流れてしまうが、私がまた一人テンパイだったので罰符で点差を詰める。



 そして東四局。

 ついに私がテンパイ一番乗りだ。


「リーチ」


 と発声し、自分が切った牌を見て、血の気が引いた。

 失敗した。

 VRグローブに慣れたと思っていたのに、極度の緊張からか本来切ろうと思っていた隣の牌を切ってしまったのだ。


 二三三發發と持っており、發と三萬が1枚ずつ捨てられていたので、三を切って一四萬待ちにするつもりが、二萬を切って、三萬・發の待ちになってしまった。

 私の待ちは最大2枚しか存在しない。本来なら両面待ちで8枚あったかもしれないのに。

 最悪だ。


 これで負けたら私のせいだ。


 不幸中の幸いはそれでもテンパイはしていたことだ。もしこれでテンパイが崩れるノーテンリーチだった場合、私はチョンボで12000点支払わなければならないところだった。


 とにかく動揺を表に出さないよう、一定のリズムで今にも和了れそうな気配を出しながら牌を引いてくる。


 しかし……。


「ロン。7700」


 ジョニーの捨てた三萬を見て、私は自分の手牌を倒す。

 VR卓は自動点数計算なので、わざわざ申告する必要はないのだが、なんとなく自分で計算して口に出す方がマナーとして良いとされている。


「くそが。変なところで待ちやがって」


 ジョニーが悪態をつく。


「何やってんの? 足引っ張るなら大人しくしといてくれる?」


 雀妖鬼がジョニーに辛辣な言葉を浴びせる。


「ちょっと手元が狂っただけだ」


 あれ?

 私は今回和了れたことに違和感を覚えた。

 もしかして、このジョニーという男は……やってるな?


 私は今の不自然な和了から、勝機を見出したのだった。


 リンちゃん、勝てるよ。私がきっとなんとかする。

――――――――――――

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