あなた強いのね

「行きましょうか」


 私、の分身である藤堂ニコを立ち上がらせる。

 私自身はずっと自宅マンションの椅子から一歩も動いていない。

 既に24時間ぶっ続けで麻雀を打ち続けたような疲労感だが、次の半荘で最後だ。


「うん、行こう。あんな奴らやっつけて、お金持って帰ろう」

「そうですね」


 とにかく私の推理力があればきっとなんとかなる。そう信じて戦うしかない。


 私達は控え室から廊下を抜け、VIP用ルームへと向かう。


 私達には何も聞こえないが、実況では上手く映像効果やナレーションが乗って派手な番組になっているらしい。

 先ほど観戦した試合ではそうなっていた。


 真っ赤な絨毯が敷き詰められたVIPルームの中央に一つだけ置かれた雀卓。

 私達が足を踏み入れると、反対側の扉からサングラスにアロハシャツのチンピラと、角が生えた鬼のお姉さんが姿を見せる。


 そして、壁全面がいきなりガラスに変わり、夜景が映し出される。

 カジノタワーの最上階のVIPルームはまるで空中に浮かんでいるかのようだ。


 高所恐怖症の人に配慮がない演出だなぁ。

 リンちゃんは「わー、きれー」とか言ってるから、まぁ大丈夫そうだ。

 私も特に高いところに恐怖心はない。


 私達は事前に決められた通りの席順で座る。

 東 雀妖鬼

 南 ジョニー 

 西 藤堂ニコ

 北 リン


 できれば私とリンちゃんの席順は逆が理想だったが仕方ない。

 リンちゃんがガードを上げて戦うので、上手く雀妖鬼の欲しい牌を絞って足止めしてくれるだろう。

 だが、牌を絞られるとわかった雀妖鬼がアシストに回って、ジョニーに連チャンされる展開もありうる。

 この席順なら私がアシストして、リンちゃんに上がらせる戦略が最適だがそれはおそらく上手くいかない。

 私たちの役割分担は逆だからだ。


 贅沢言ってももう仕方ない。不利は承知だ。やってやる!


 私達が卓につこうとした時、鬼のお姉さんが口を開いた。


「さっきの対局観たよ。あなた強いのね」


 私の目を見てハッキリと言う。

 そう私は強いんである。


「まぁ、そうですね」

「謙遜とかしないんだ。面白いね」

「事実ですからねぇ」


 実際に強いんだから、「強いのね」って言われたら返す言葉は「そうですね」だ。


「でも、そっちのピンクの子は麻雀はじめて3年とか4年くらい?」

「えー、違うよー。ルール覚えて1週間。そんな3年もやってないよー。照れるなぁ」


 リンちゃんはお世辞を言われたと思ってそう返したが、おそらく向こうにそういう意図はない。


「1週間であれだけ打てるなら、2年……いや1年もやればきっとプロになれるし、3年やれば頂点も狙えるでしょうね。でも、今この場所に立つには少し早かったかな。わたし達、ラッキーかも」


 そう言って妖艶に微笑んだ。


 なんだとー。

 それは事実かもしれないが同意しないぞ。

 私はムッとする。


「あはは、お姉さんの言うとおりだよー。もっと練習する時間あったらなって本当にそう思う。お金が欲しくてやってるけど、大会終わっても麻雀はつづけるかもー」


 リンちゃんが笑顔でそう返す。

 別に嫌味でもうちょっと時間があったらお前らなんかやっつけられるのにって言ってるわけじゃない。


「今日の結果がどうあれ、また一緒に打ちましょうね。私、麻雀やギャンブル大好きなの。好き過ぎてね、プロなのに超ハイレートのヤクザの代打ちやってプロをクビになっちゃったんだ。タイトルとかも獲ってたのに剥奪されちゃった」


 えー。完全なギャンブル狂いじゃん。

 でも、なんか面白いし感じいいなぁ。ちょっと好きかも。


「そういうわけだ。俺が連れてきた相棒は元トッププロでタイトルまで獲ってる。お前らみたいなケツの青いガキが勝てると思うなよ」


 そう言って、サングラスのチンピラが下品に笑った。

 こいつはムカつくなー。

 日比谷姉妹を借金漬けにした組織のやつだし。


「お互い、楽しみましょうね」


 お姉さんはサイコロボタンを押す。


 …………5


「自5。私の親ね」


 そして、対局が始まる。

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