アキバ

「今日はみんなありがとね! 大好きー」


 リンちゃんがカメラに向かって手を振る。

 徹夜でルールと役を叩き込んできて、今度は手練れ三人相手にいきなり実践形式で放り込まれたにしてはノリが軽くて明るい。さすがギャルである。


 長時間に渡る配信――というか特訓が終了した。

 意外にも同接数はかなり多く、リンちゃんへの応援の声も多数あった。

 彼氏に貢ぐためにギャンブルをやるなんて叩かれそうな話だが、それが病気の妹を救うためだったことや、ギャル風の見た目とのギャップ、私はともかくぴーちゃんやじゅじゅも応援しているということもあってなんかリンちゃんもちょっとした人気者になっていた。


[ぴーちゃんとじゅじゅが応援してるんだから悪い子なわけない]

[《¥5000》オタクにやさしいギャルは需要ある]

[リンちゃんのファンになったわ]

[ギャルチャンネルやろう]


「はい、というわけで明日は一旦機材調達のためにお休みしますので、次の配信は明後日です。明後日からは私とリンちゃんチーム、ぴーちゃん・じゅじゅチームに分かれてのコンビ打ち対決の練習会になります。みんな応援よろしくお願いしますね」


[俺も麻雀やりたくなった]

[私もみんなが何言ってるのか理解しながら見たいから勉強する]

[もう今から当日のこと考えて緊張してきた]

[《¥20000》資金援助しかできないおじさんも2億は無理だ。せめてこれを機材を買う資金の足しにしてくれ]


     ※


 翌日――。

  私とリンちゃんは秋葉原に買い物に来ていた。

 今の秋葉原は表通りはゴーストタウンのような廃墟になってしまっているが、一本奥に入るとかつてのパーツショップが所せましとひしめいている。

 一度、ネット通販に駆逐されたかと思ったメカニック系ショップだが、VRの流行によって今回のように生身の肉体とのフィッティングや調整がリアルでしか行えないということもあって再び盛り返してきたのだ。


 私は自分のパーツをよく買っている行きつけの店があるので、寄り道せずにまっすぐ向かっていく。


「配信中は個人情報とか言っちゃダメだよ。数学科ってだけだからいいけどさー」

「ごめんごめん。でもあそこで釘刺しといてくれたから、うっかりTJって言いかけたのはブレーキかけれたよ」

「TJって呼びそうになってたんだ。勘弁してよね」

「ごめんてー。しっかり寝たし、もういつも通り頭は冴えわたってるから」

「でも万全の状態で対局したら私たち3人相手でも全然なんとかなりそうなレベルだよね」

「照れるなー。でもやっぱり数学的思考で戦略立てられるからけっこう得意かも」

「数学出来る子おそるべしだわ」


 とか言っているとちょうどお目当ての雑居ビルだ。

 【アキハバーラビルディング】

 今にも崩れそうなコンクリ剥き出しのボロビルだが、置いてある商品は半端ない。

 ここの2階がVRパーツショップ【カラクリ】である。

 店内はごちゃごちゃしていてどこに何があるのかよくわからない。

 自分でお宝を見つけたいなんて欲求はないので、すぐさまカウンターに向かう。


「いらっしゃい」


 出迎えてくれるのは店主のお婆さんだ。幾つかわからないが、70歳は超えているように見える。それでVRのパーツとか売ってるのすごい。

 私はぺこりと頭を下げると早々に目当てのものを出してもらえるように頼む。


「VR触覚センサーグローブを2人分ください」

「はい、じゃあ二人とも手を出して」


 私とリンちゃんは差し出されたスキャナーに手を差し入れる。

 データを採ってもらったら、すぐに薄いゴム手袋のようなグローブが二セットカウンターに並ぶ。


「手を入れてごらん」


 私たちは手をグローブに突っ込む。おばあちゃんのPCに有線接続されたそれでこれからテストだ。


「これから調整するよ」

「「はーい」」

「あんたたちの手の上に色んなものをのせていくから、刺激がどのくらいか教えてちょうだい。よし、これは」


 私たちの掌には当然リアルでは何も乗っていない。

 だが――。


「つめたっ」

「つるつるだ。氷ですか?」

「正解。どうだい? ホンモノみたいだろ?」

「はい、手のひらに小さな氷がのってるとしか思えません」


 とかなんとか、これを木の枝とか色んなデータで正しく認識されるかどうかチェックしていき――。


「おっけー。これでバッチリだ」

「ありがとうございます。代金はカードで」


 私は自分のクレジットカードを渡す。


「いくら?」

「リンちゃんは出さなくていいよ。ってか、これ昨日の配信でリンちゃんがもらったスパチャのお金だから」

「なるほどー。じゃあ、お言葉に甘えて」


 ここまで高性能のVRグローブはけっこう高くて、昨日のスパチャだとちょっと足りてないのだがこれはサービスだ。


「あんたたち、これで何して遊ぶんだい? 錯覚とはいえ、脳はしっかり物を触ってるって認識するし、あんまりやりすぎると重さを感じない分リアルで物を持つ時に違和感でたりするからほどほどにね」

「あ、VR麻雀です」

「あはははは、わざわざ麻雀牌の触覚のためにこんなの使うのかい。面白いね」

「盲牌もばっちりです」

「しっかり勝っておいで」

「ありがとうございますー」


 こうして私たちは店を出た。

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