新しい相棒

「自信満々だね」

「こういう運が絡むゲームはハンデ背負ったり、徳を積む方が勝てるんですよ」

「オカルトじゃないか」


 ジョーカーの笑い声が聞こえる。

 今回はボイス通話のみで相手の顔を見ることはできないが、あの真っ赤な口を三日月のようにして笑っているのだろう。


「私はロジカルな探偵、ミステリー作家であると同時にホラー作家でもあるんです。オカルトも好きなんですよ。あとメンタル的に良いですよ。良いことしたり、あえて枷を付けるの」

「ともかく、大丈夫なんだね?」

「大丈夫です。渋々ですが、あなたにも少し儲けさせてあげるので私に単勝で賭けていいですよ」

「そうさせてもらうよ。そのくらいのリスクを負う方が勝てそうだ。君のオカルト理論を少し信じようって気になった」


 めっちゃ適当なことを言ってるが、このくらいカマして勝つの主人公ってものなのだ。主人公なのか知らんけど。


「しかし、日比谷姉妹を借金漬けにした連中が出るとかわかるものなんですね」

「隠れてないからね。本体は海外にいるんだが堂々としたものだよ。日本で詐欺を働いているのは彼の手下で何かあっても絶対に自分は捕まらないようになっていると聞くね」

「なるほど。捕まらない自信があるわけですね。犯罪者とVRの親和性の高さにも困ったものです」

「あぁ、そういった存在のおかげで稼げている私はあまり否定的にもなれないが……。ジョニー・井川という男だよ。ほら」


 ジョーカーからDMで写真が送られてくる。

 色の濃いサングラスを掛けた40歳くらいの痩身の男だ。サングラスは顔の大きな傷を隠すためか。上下にしっかりはみ出ている。見るからに怖い。

 リアルで会ったら絶対足が竦む。


「どんなアバターですか?」

「自身をそのままトレースしたタイプだね。登録名も本名のジョニーそのままだ」

「こわー」

「意外と人当たりは良いらしいけどね。私も直接やりとりしたことはないんだけど」

「といっても犯罪者ですからねぇ。余計怖いんですよ」


 まぁ、VR上で麻雀するだけなら相手がどんな輩でも関係ない。


「で、一番の問題の君の相棒だがどうするんだ? これから探すのかい?」

「いいえ。今隣にいますから。このIDで登録しといてください」


 私はジョーカーにIDを送る。


「この人は強いのかい?」

「ルールも知らないと思いますよ。でも、1週間で使い物になるようにします」

「素人か……やれやれ、何を企んでるのか知らないが、深くは追及しないよ。君に任せる」

「まぁなんとかなりますよ」

「だといいんだがね」


 私は通話を切ると、ヘッドセットを外し、隣で不安そうな顔をしている西園寺凛に向けて言う。


「麻雀大会、リンちゃんが私と一緒に出ることになったから」

「え?」

「あなたが、ぴーちゃんの代わりに、私と一緒に、2億円賭けた麻雀大会に出ます。これは決定事項」

「えぇーーーーーーーーーーーーー」


 リンちゃんは絶叫している。

 でも関係ない。もうエントリーしちゃったから。


「あたし、ルールも知らないよ」

「大丈夫。これから覚えればいいから。2億円かかってるって思ったら覚えられるから大丈夫」

「うー、もういきなり怖くなってきた」


 怖いとか言ってる場合じゃない。でもリンちゃんならできるって信じてる。


「明日から生配信でVR麻雀の特訓するから、とりあえず今日中にルールと役は……リーチとタンヤオだけでいいや、とりあえず。後で覚えなきゃいけない役の一覧送るから。点数計算は無視でいいからね」

「うん。頑張ってみる」

「あと初心者が一気に伸びる戦術書2冊だけ渡すから。ルール覚えたら読んで」


 リンちゃんはすっくと立ちあがる。


「TJ、ありがとね。あたし頑張る。やっぱりさ、何もしないのに2億円も受け取るの後ろめたかったんだ。おかしいって思ってた。そんなのダメだって。足引っ張っちゃうかもしれないけど……ううん、足引っ張らないようにやれるだけやってみる」

「できるよ。ポーカーほどじゃないけど、麻雀は数学と推理のゲームだからね」


 リンちゃんならできる。私は信じてる。

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