藤堂ニコのハンデ

 良い知らせも大して良い話でもないんだろうなぁ。


「で、なんです? 良い知らせって」

「今回の麻雀大会に日比谷姉妹を借金漬けにした組織の幹部メンバーが出る。かなりの麻雀好きらしい」

「なるほど。それはちょっと良い知らせです」


 そいつらを倒して優勝すれば借金を返せるだけでなく、詐欺師に一矢報いることができる。

 別に私自身が何かされたわけじゃないから、向こうからしたら完全に八つ当たりだけど。

 こないだのディープフェイク&ドラッグ販売セミナーの連中もだけど、悪いことしてるんだから予想外の方向から仕返しが来るのも織り込み済みだろう。

 急に私の正義の心――とサディズムがやる気を出させてくる。


「一石二鳥ですね」

「あぁ、そういうことになる。見ようによっては、別にあいつらとしては負けたところで詐欺で儲けた分が返ってくるだけとも言えるけどね」

「興覚めなこと言わないでくださいよ」


 そう。そもそも詐欺師集団が出す参加費は日比谷藍が本来払わなくていい法外な利子から捻出されるので実質ノーリスクで出てくるし、負けたところで賞金の一部が返ってくるだけなのだ。

 んなこたわかってる。


「そんなことはわかった上でボコボコにしてやろうって意気込んでるんですよ」

「すまない。プレイヤーのモチベーションを下げるようなことを言ってしまった」

「本当ですよ。これから走ろうってやる気出してる馬の目の前で人参踏んじゃったみたいなことですよ」

「そういうことではないだろ……」

「そういうことではないんですけどね」


 ともかくどんな奴らがクローン医療費詐欺をやっているのかは気になっていたので直接麻雀で対決できるというのはありがたい。


「まぁ、それも決勝まで残ることができれば、という話だけどね」

「私たちは決勝までは残れるでしょうから、相手が下手くそじゃなければいいんですけどね」

「あぁ、なんでも相棒は元プロ雀士らしい」

「相手にとって不足はありません」


 麻雀というのは相手がトッププロだろうと何回かに1回は勝てるゲームバランスなのだ。

 これが将棋だとそうはいかない。

 それこそトップ棋士が相手なら私なんて歯が立たないし、ぴーちゃんでも劣勢になる可能性がある。

 運が絡まない完全情報ゲームというのはそういうものだ。


「で、悪い知らせというのは?」

「悪い知らせだが……今回の大会はAIの参加が禁止になった。AIサポートがインストールされたアバターも使えない。つまり人間が自分の雀力だけで勝負する必要がある」

「はぁ!?」


 悪い知らせとかいう次元の話じゃない。

 今回の勝負の根本が揺らぐ大問題だ。


「先に言ってくださいよ!」

「いや、だって君が良い知らせの方から言えというから」

「だとしてもですよ!」


 私はめっちゃ理不尽なことを言っているが、そんなことも言いたくなる。


「ぴーちゃん出られないってどうすんですか!」

「それを考えてほしい」

「…………いや、逆に良かったかもしれないです」

「逆に?」

「はい、逆に」

「P2015が出場できないんだよ?」


 ぴーちゃんははっきり言って、AIの得意分野に関して言えば全世界トップクラスの能力がある。

 でもそれに頼っていてもつまらない。


「そのくらいのハンデがあってちょうどいいって言ってんですよ」

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