そういうわけであなたの王子様は来ません

「というわけで、あなたの王子様はしばらく会えません」

「えーーーーー! なんか思ってたのと全然違う感じの話になってる!」

「こっちの台詞だよ!」


 私たちは教育学部横の生協内の書店で待ち合わせをしていたのだ。

 うむ、ちゃんと私の本は棚にある。

 もっと活躍したら新刊じゃなくても平台に置いてもらえるだろうか。

 ここの大学の学生だって公表したろうかな。


「でも、エラ君があたしのこと好きなんだって確認できただけでよかった! TJ、ホントありがとね」

「う、うん。まぁ、そこだけはね、よかったけど、借金2億はエグいよ。デートとかしてる場合じゃないからね」

「でも、それはTJがなんとかしてくれるんでしょ……?」


 流石にその点についてはかなり申し訳なさそうにしているのでまだ友達でいられる。

 私が2億の借金をなんとかするのをさも当然のように言ってきたら、このピンク髪を緑に染め直してやるところだ。


「考えてはみるけど、あんまり期待はしないで。仮に私が誕生日に24時間耐久でイケメンボディビルダーの生配信やったって多分100万200万スパチャもらうのがせいぜいだよ」

「そう聞くと2億がとてつもない額だってのがわかるね。エラ君に会いに行くための10万円が出せない貧乏学生じゃ手も足も出ないよ」

「元トップモデルのマッキーだって、そんなに口座に入ってるかわかんないよ。活動期間短いし、年収で1億とかあったかもしれないけど税金で半分くらい持っていかれてたはずだから」

「聞けば聞くほどあたしの身の丈に合わない悩みだよね」


 身の丈……嫌な言葉だ。

 そんなもののために自分の気持ちを押し殺して、夢を諦めなけれはならないのだろうか。

 私だってたまたまVTuberとしてうまくいったからいいものの、東京の私立大学に通って、小説家として食べていく夢は去年の時点では身の丈に合わなかった。頓挫しかかっていた。

 お金がない辛さはわかるつもりだ。


「身の丈なんて関係ないよ。リンちゃんはエラ君が好きになった。彼もリンちゃんのことが好きになった。その事実だけがあるんだよ」

「うん、でも、あたしにできることもないのに、TJに任せきりで……」

「別にいいんだよ。友達でしょ」

「うん、ありがとう」

「ピンク髪の陽キャギャルがしょんぼりしないでよ」

「うん、そうだね」


 やれやれ、そうは言ったもののだ。

 今のところ、解決の糸口は見えてこない。

 とりあえず情報収集から始めるか。

 大量の情報から必要なものを抽出していくのが私の推理のやり方だ。今はまだわからないことが多い。


「とりあえずそういう借金とか詐欺に詳しそうな奴に聞いてみるよ」

「そんな友達がいるの?」

「友達じゃないよ。なんか知らないけど、お金いっぱい持ってる情報屋の子知ってる」


 私はとりあえずジョーカーに今夜会いたいとDMを送る。

 とすぐに承諾の返事がある。

 こいつに2億借りるのだけはありえないが、とりあえず何かしらエラ君の借金についての情報は買えるだろう。




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